第6話 次回議案

漁船はいだら丸船長 川内隆一


新しい船を恒常的に入手する手段が要る。


大抵の船舶は、数十年に渡って素人のメンテナンスだけで動かすことを想定していない。


灰色人形には生前の経験から船の建造もメンテナンスもできる奴が山ほどいるので、幽霊船は呼び名と裏腹に、どの船も非常に整備の行き届いたフェリーだ。内部は勿論、塗装までピカピカだ。


対する生存者の漁船やフェリー、タンカーなどは全然ボロボロで排気口から黒煙が出てたりする有様だ。エンジンオイルやグリスも再利用に継ぐ再利用で真っ黒だ。魚脂やサメの肝油で代用できるものはし終えててご存じの通りエンジン室はとんでもない臭いだ。


いくら燃料があってもこのままでは遠洋航海もままならなくなる。フィリピン海にもベーリング海にも行けないならその燃料もなくなる。


燃料がないなら沿岸漁業でといっても、小船すら作る材料も技術も今の我々にはない。

つまり、我々は遠からず、遠洋から隔絶されるどころか船も失う。素潜りや釣りでの漁業に限定され、しかも暖も取れない。冬になったら死ぬか諦めて人形になるしかないだろう。


そのため、本題となる。

以下に案を3つ出したので、次回の会議までにどれがいいか決めるか、または他の案があるなら出して欲しい。

私が現状、確実なのは①だと考えている。②③は船以外の収穫も見込める代わりに船の入手にたどり着けない可能性が高い。


①幽霊船を盗む

灰色人形は意思疎通がまともにできないどころか、交渉に必要な向こうが欲しい物自体がない。なので、造船所に忍びこみ、できたての幽霊船に燃料を注いで出航する。

大勢の協力が必要な上、失敗すると作戦遂行者全員が人形になってしまう。


②トドマツを栽培して造船する

今利用可能な全ての土を掻き集めてトドマツを生やす(種はある)。松を加工した丸木船で海上作業をやる。言うのは簡単だが今の我々では試行錯誤が必要な工程が多い。

しかも貴重な土を食えない物に使うので成功しようが失敗しようが飢餓のリスクがかなり上がる。何より、この素人木造船では遠洋航海はできないので、日本の外と隔絶されるのは確定だ。国内でさえ、瀬戸内海に行くのは一生事になるだろう。


③檻製造の中間生産物で船を作る

人形が製造する檻の中間生産物は幽霊船を盗むよりは簡単に入手できる。(現に船の補修材料の一部は檻の流用である)

溶かす燃料はないので、束ねるなり魚のニカワで接着することになるが、元々が水に沈む材料なので水密性が確保できないと沈没する。

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