闇ノ夜

 暗い夜道を一人歩いていると、澄み渡った夜の色が頬を撫でるようだった。田舎ってこともあって、街灯から街灯への道すら見えないまっくろが漂っていた。

 まっくろは空も田んぼも道路もわたしも、全てを内に隠してしまう。私が世界に溶け出して、境目がなくなるような、そんな気がした。

 まっくろは初夏の青臭さと蛙や蟋蟀こおろぎの音で心地の良い初々しさをわたしに伝えてくれた。

 わたしにも、たしか。こんな清春があった。甘酸っぱい、スポーツドリンクのような毎日が。まっくろはわたしに思い出させてくれた。荒んで病んで、心の熱中症になったわたしをするように。

 別に何か、直接状況が変わったってことはない。ただ、心の闇が夜に溶け出して、独りぼっちの涙も出ない帰り道じゃなくなった。さっきよりかは生きていけそうな、わたしがわたしでいられそうな……。そんな気分でわたしは家の鍵を開ける。

「ありがとう。」

 わたしは小さく、闇ノ夜に感謝を述べた。

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闇ノ夜 ~短編集~ 森川依無 @eM_0924at

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