第33話 いざ、戦場へ
「さて、準備が整ったら出発だな」
攻撃系のアイテムを持ったのは久し振りだ。先日上級モンスターを誘き寄せて発動したタイプは威力が強すぎて改良が必要だった。
上級モンスターを仕留める火力がある分、爆散範囲を限定させるような仕組みにしておかないと、近くにいた俺まで死んでしまう。
単独で使う分には少々荒くても問題はなかったが、今回はドルミーラ教のトップに商工会会長の娘を帯同しての隠密調査だ。
「出発も何も、3人でどうやって調べるのよ。偽者のドルミーラ教を捜していたときとは違って、危険度はかなり高いわよ」
ファゼックが俺達の所にまで来て話した内容は非常に重たい内容であり、ギルド管理組合の受付前で立ち話して話す内容とは比べ物にならなかった。
ー神獣を操る者が現れたー
このワードはタールマイナでは禁句だからだ。神獣は各地域や特定場所に眠るモンスターで、リポップするような通常モンスターとは違い、複数匹はいない。
この広い世界で1匹ずつしか観測されておらず、また宿している力が規格外の為、人間が束になって闘ったところで歯が立つ相手ではない。
神獣はそれぞれの縄張りを持っており、通常であればそこから外へ移動しようとはしない性質を持っている。
遥か昔、神獣同士が戦かったという内容が記録として文章で残っており、その書物によると戦場となった近辺の数ヶ国が一夜にして焼け野原になったそうだ。
そんな危険種を操る事が出来るとなると、タールマイナの騎士兵団だけでなく他国の軍や戦闘部隊が極度の交戦状態へと移行してしまう。
噂や作り話レベルだったとしても、笑い話では済まされない域を越えてしまう。
だからこそ神獣に関する発言には最大限の注意が必要であり、安易に口にしていい単語ではない。それもあってか、ファゼックは俺の所までわざわざ教えにきてくれたようだ。
『神獣を操る者の情報を獲た』
にわかには信じ難く受け止めにくい内容ではあるが、ファゼックが嘘をつく人間では無いことは、嘘つき呼ばわりされてきた俺だからこそわかる。
嘘をつく人間は決まって自分に対する保身もしくは甘え、愛情といった欲に溺れた結果、事実と異なる事を口から溢すものだ。
ファゼックは冗談を良く口にする人間だが決して嘘を用いた話術をしている場面を俺は見たことがない。
彼の巧みな話術があれば、嘘なんて短絡的な手法を取らなくとも、他者を圧倒したり言いくるめたりすることはいくらでも可能だからだ。
そして何より、神獣狩りの名を世界に轟かせた英雄『ファ・ゼック・エスパールド』の名を汚すような真似はしないからだ。
そんな彼が俺に託した情報はよりにもよって神獣絡み。睡眠の力で神獣をも操作できる不思議な力を持ったヒュノがここにいる事を知っているくせにここへやって来た。
「出発って、どこへ何しに行くわけ?」
「森さ」
「ライくん、久し振りに狩りに出かけるの~?」
ツクモもヒュノも神獣絡みとなるとあまり乗り気ではなさそうだった。この場で暢気に欠伸をしているのは、デスファングのモフモフくらいだ。
「俺が森に仕掛けたモンスター探知機がまた異常を感知したからな」
「異常の1つや2つくらいあるでしょ。それにライザが作ったものってガラクタばかりなんでしょ?」
「……それを言われると何も言い返せないが、雨が降ろうが槍が降ろうが機能するように頑丈設計にはしてある。今回はむしろ『槍』の方だな」
「槍って、ひと~?」
「あぁ。探知機には無理に壊そうとすると異常信号が俺の元に届くように雷系のエレメント素材を一部採用している。その信号がさっきから多くの個数情報がこちらに届いているからな」
モンスターが探知機を見つけて壊しても単発で終わる事が多い。
しかし、今回は複数個が同じタイミングで発生したとなれば、それは
それに加え、俺はタールマイナの騎士兵団の巡回ルートをおおよそ把握しており、彼等には見つからないポイントに設置をしている。
つまり、壊している人間は……
『他国の者』
ファゼックが入手したように『神獣を操る人間がいる』『ドルミーラ教の生き残りがタールマイナ内で布教活動をしていた』等の情報が他国へ流れていた場合、戦争や偵察を行う為、森を移動していても不思議ではない。
騎士兵団がこの状況に気づいているかは知らないが、少なくとも気づいた俺達が先に偵察へ行っても損にはならない。
支度を終えた俺達は、森へと向かった。
ひと度森に入ると街にいた窮屈さから解き放たれるような感覚になり思わず伸びをしたくなる。
ヒュノは神獣の事はもう忘れており、今日の夜食用の食材をゲットする為、ワクワクしているし、ツクモは面倒な表情を見せつつも来てくれた。
「ライザ……あんたは私の事、初めから知っていたの?」
急にツクモの方から話をしてきた。
「知っていたって何がだ?」
「私の正体」
「あぁ。商工会の人間って事の話か?」
「えぇそうよ。裏情報屋なんかをしていたゼクエス様が私の事を『ダザンの娘』と呼んだとき、あなたは驚いた表情をしていなかったわ」
ツクモは観察力があるな。そんな状況下でも俺の表情を窺っているとは。
ツクモの言う通り、俺はツクモが商工会会長の娘であることは少し前に知った。
それは商工会のルーカスが、ツクモの身を按じて俺に絡んで来た際に知り獲た情報。他人の恋路には興味はないが、邪魔する気も特段無い為、俺からは触れないようにツクモと接してきた。
「ツクモが誰の娘なんて知ったところで俺からの接し方が急に変わることはない」
「変わるわよ、普通。貴方の商品に販売許可を下ろしていない団体の、それも責任者の娘なのよ?」
「……知っている。それが?」
「それが……て、販売許可を出さない私達に恨みとかないの? 許可が降りていないから貧乏生活を強いられているのよ。私に八つ当たりしたり、き、脅迫や誘拐してお父様を動かす事も出来るじゃない! ……どうしてしないのよ」
何を言い出す、ツクモさん。俺に犯罪者になってほしくていつも我が家に来ていたのかよ。
「ツクモも商工会も別に悪くないさ」
そう、悪いのは俺。モノづくりの俺にとって、勝手に発動するスキル『低用量』『同品質生産』が生産者として致命的なのだからだ。
いくらいい商品を作ろうと頑張っても、付与される能力は極めて低く、同品質しか作れない為良作は生まれてはこない。
全年齢対象という強みがあるだけで、俺の商品は商品化するまでには至っていない。
そんな俺が商工会をどうこう言うだけの才能がそもそも備わっていない。これまで、俺の商品が不定期市で売れていたのは、ヒュノの影響により睡眠関係の効果が付与されていただけの事。
「変な心配させて悪かったな」
ツクモが俺の家に度々来ていたのは、俺の作る作品がよりマシになるように心配して見にきてくれていのかもしれない。
そう考えれば、作る際の注意点や売る際のアドバイスを都度都度教えてくれていた気もする。俺はツクモの頭を優しく撫でた。
「う……嘘つきライザに頭撫でられたくないわ。子ども扱いしないでくれる?」
「へいへい」
誘拐されるかもしれない。叱責されるかもしれないと不安になりつつも俺の事を気にかけてくれていたのだと思うと、口が良くないツクモが段々良い子に見えてきた。
だけど、今回は俺が心配で森に同行してくれているわけでは無いことには気づいている。
むしろ今回は『商工会』として来てくれているのだろう。他国が攻めてきているとなると、物流で使用する路に対する警備にも配慮しなければならなくなる。
商品を運ぶ馬車が移動中に襲われでもすれば、損害額がはね上がるのは安易に想像がつく。
他国サイドからすれば神獣を操る人間がいるのであれば野放しには出来ず、タールマイナサイドからすれば、他国が侵略の為に攻めてきたとなれば本腰の闘いが強いられることになる。
お互いにそれなりの戦力を揃えての衝突が今後起きる可能性を含んでいる。
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