第78話:箱庭
「この町は人形職人の町じゃ」
うん、知ってる。
「作った人形は他所の町へ出荷されるだけで、この町へ直接買いに来る者はおらん」
「まぁ冬はこんなだし、そうじゃなくても山の中まで来るの大変だもんね」
「若いもんは山を下りてしまい、後継者不足にも悩まされておる」
「よく聞く話じゃねえか」
「だからわしらは町おこしを考えた! 人形職人の手で作り上げた、渾身の一品!!」
おじいちゃんに案内されてやってきたのは、煉瓦造りの倉庫みたいな建物。
中にあったのは木の板? ぐるーっと何かを囲むように、板が立ってる。
このが渾身の一品なの?
「箱庭じゃ!」
「箱庭?」
板の周りには柵がしてあって、中を覗くには歩道橋のようになている階段を登らなきゃいけなかった。
登ってみてビックリ。
広めのリビングダイニングぐらいの大きさがある。
その中には町と、それから迷路があった。
「迷路の一番奥に教会がある。そこの鐘を鳴らせば、箱庭から脱出できるのじゃが」
「待って。脱出できるって、じゃあ中に入れるの!?」
「うむ。そういう魔法を掛けて貰ったのじゃ」
そんな魔法もあるんかい!
でも話の流れからすると――
「入った人が帰ってこない?」
おじいちゃんが頷く。
「最初は戻って来ておったんじゃ。しかしある日突然、戻ってこんくなった」
でもよく見ると、箱の中には入った人たちがちゃんといる。
どうして戻ってこないのか尋ねると――
「彼らが小さすぎて、聞こえないんじゃ」
「なんでそのサイズに作った!!」
「こうなるとは思わなかったからのぉ。それでまず、人形職人が何人か入って調べることにした」
そしてミイラとりがミイラになる――と。
「孫娘のアイラは、ベイツんところの鼻垂れを追いかけて箱庭に……あんな男の心配なんぞしおって……ひとり残されたわしの心配はせんのか!!」
「うん、話がそれてるから戻って来てね」
「で、あんたらは手をこまねいてみているだけなのか?」
「中との会話が出来ぬのじゃ。とにかく中に入って解決するしかない」
だけどこの町には冒険者ギルドがなく、特にダンジョンがある訳でもないから冒険者自体もいない。
それで町の衛兵が入って――出てこない。
数少ない若者が入っていったけれど、やっぱり出てこない。
『箱に魔法を掛けた魔術師はどうしたのであるか?』
「もう半年も前のことで――ん? 猫が……」
『吾輩は――「あー、はいはい。気にしないで。それで魔法を掛けた人は?」
「う、うむ。その方は遠くの国の方でな、連絡を取ろうにもなかなか」
一応、手紙は出したらしい。
届くのがいつになるか分からないし、なんとかこちらでも出来ないものかと考えていたところ――
「私たちが来た、と?」
「いえ、勇者ご一行がいらっしゃいました」
……え?
えっと、勇者ごっこしてる偽物ってことは?
「事情を話すと、みんなを助けると言って中に入ってくださったのですが……それが五日前でございます」
「あの、その勇者一行って……お姫様がいたりしました?」
「姫? あぁ、確かに御付の方から姫と呼ばれていた女性がいましたな」
本物だあぁぁぁ。
「だったら任せときゃいいだろ」
『であるな』
「うん、任せよう」
『ぷ?』
あ、そっか。ウィプちゃんはユズルさんたちのこと知らないんだよね。
「い、いやお待ちください。これを見てくださいっ、さぁ」
「ん?」
望遠鏡を渡されて、箱庭の中を見てくれと言われた。
ん、んー?
あ、人がいた。
ん、んん?
「畑……耕してる」
「は?」
「いや、畑耕してる人がいる。あっちでは水汲みしてるし、パン焼いてる人もいる」
『箱庭の中でも生きていくために食べねばならぬのであるな』
そうかもしれないけど、でも箱庭の中で野菜が育つの?
そもそも必要なら外から食べ物を入れればいいんじゃない?
まぁサイズが凄いことになるだろうけど。
「そうんじゃ。最初の頃に中へ入った者からだんだんと、中での暮らしに順応しておるのじゃ」
そこが箱庭であることを忘れてしまったかのように、普通に暮らしているそうな。
出ることを諦めた――とか?
「おい、あそこにいるの勇者じゃねえのか?」
ヴァルが指さすのは、街並みの一角。
望遠鏡で覗くと、カフェテラスでサンドイッチを食べているユズルさんたちが……見えた。
めちゃくちゃ呑気にランチしてるぅぅぅぅ!
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だいぶん迷走して書きましたorz
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