第76話::迷子or遭難

「ふふっふふ~ん」

『ぷぃぷぃっぷぷぅ~』


 町長さんの許可も貰って、温泉を隠し部屋に引くことが出来た。

 精霊用に木の器を使ったお風呂も用意。

 タオルももちろん、小さいサイズに切ったものを作ってある。

 髪をまとめるために用意したリボンは、何故かねじり鉢巻き風になっているけれど……。


「はぁ、気持ちいいねぇ」

『ねぇ~』


 効能は美白! それに血行をよくして冷え性にもよく、疲れを緩和――というもの。

 いいねいいねぇ。


「ん~……次はどこに行こうかなぁ。あ、そうだ」


 そろそろ冒険者ランク維持の依頼を受けといたほうがいいよね。

 あぁ、今回のがその依頼だったらよかったのにぃ。


 一度聖都に戻ってみた方がいいよね。


「そうだ。ウィプちゃんのベッドも用意しないとね」

『ぴぅ?』


 ティッシュ箱とかあれば簡単に作れるけど、まぁこの世界にはないだろうしなぁ。

 どうせなら可愛く作りたいし……。


 ・

 ・

 ・


「ってことで、人形サイズの家具とかって売ってないのかな?」

「は? あるわけないだろう。だいたい、こんなチビのためにそこまでしてやる必要が――クソッ、痛ぇだろうがっ」

『ぶっぶー』


 精霊二人は仲が悪いなぁ。属性の相性とかあるのかな?

 でも氷と光だし、特に悪そうじゃないけど。

 ヴァルはカットとも直ぐいがみ合うけどさ。


 そのカットは何やら考え事をしていた。


「どうしたの、カット?」

『にゃむぅぅ。どこだったか、人形職人の町があると聞いたことがあったのであるが……思い出せないのである』

「本当!? どこどこ?」

『それが思い出せにゃいから、こうして搾り出そうとしているであるよ』


 人形職人の町か。

 そしたらドールハウスとかあるかなぁ。


 実は切実にあって欲しいと願っているんだよね。


 ウィプちゃんが、真っ暗だと怖くて眠れないって言うんだよね。

 でも私の傍がいいとも言う。

 おかげで部屋を明るくして寝てるんだけど、なかなか眠れない。


 私が傍にいるからいいでしょ?

 って暗くしても、ウィプちゃんが発光しているからやっぱり眩しい。

 明るいままでも暗くしても、結局眩しいっていう。


 ドールハウスがあれば、家の壁で光を遮ってくれないかなぁって期待してる。






「人形職人の町……わたしは聞いたことありませんねぇ」


 聖都に戻って来た私たちは、さっそくライウォルさんの所へ行って町のことを尋ねてみた。

 も、もちろん報告したよ。うん。


「その町でしたら、心当たりがあります」

「本当ですか、フィアスさん!」


 光の神殿からもフィアス高司祭様が来てて、にこにこと対応してくれる。


「わたくしの妻の母が人形好きでして、人形に合せた家や家具を綺麗に飾っていらしたんです」


 おぉ。まさしくドールハウス!


「購入したのは大きな町のようですが、製造されたのは北にあるベルステン王国にある山間の町で……確かドール、だったでしょうか」

「人形だけにドール!?」


 思わず声にだして突っ込むと、フィアスさんは一瞬キョトンとした顔をしたあと噴き出した。


「ぷふっ。確かに、確かにそうですっ。ぷはははっ、は、はは」


 なんかツボったみたい。


 よし、次は北のベルステン王国ね!


 しばらく二人と他愛もない雑談をして、それから神殿をあとにする。


「北か。北……北に何かなかったか?」

「んー……さぁ? それよりさ、地図買おうよ地図!」

「どうせ見ても迷子になるだろ、お前」

「そうだけど、ドールの町がどこか分かるのヴァルは」


 あ、視線を逸らした。

 知らないじゃん!


 結局誰も知らないから、地図は買うことになった。

 その地図でドールの町の位置を探すと、ベルステン王国でも一番北にある山間部。

 うぅん、寒そう。






 ~その頃、雪深いとある山道で。


「あぁお母様。お久しぶりでございますわ」

「姫さまっ、それ幻覚ですから!」

「このマカロン、冷たくて美味しいですわね」

「姫さまっ。それただの雪ですから!」

「だからさぁ、前に見た山小屋で休もうって言ったんだよぉ。なのにシンゴってばさぁ」

「気合だ! 気合で寒さを吹き飛ば――ぶえっくしょんっ」

「吹き飛ばせてないな」

「まぁまぁ。地図によると町まであともう少しだから、みんな頑張ろう」

「あら、あんな所に浴場がございますわよ。うふ、うふふ。みなさまと混浴だなんて……ぐふふふふふ」

「姫さまぁぁぁぁ、こんな所で脱いだら、あんた死にますってぇぇ」


 ちょっと遭難シカケテイル勇者一行がいた。




*********************

電撃新文芸コンテスト用に新作を投下しました。

このお話がアップされる頃にはまだ1話しかありませんが

20時頃に第2話が更新されます。

新作は男主人公物。

スローライフのようなサバイバルライフのような

そんなお話。

よろしければそちらもぜひ、応援してくださいませませ。

https://kakuyomu.jp/works/16818023213742331957

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る