第74話:クソですね
「"浄化の光よ、瘴気を祓い、すべての苦しみから解放せよ!"」
ドラゴン本体からも瘴気が出てるけど、そのドラゴンの卵があったところからも湯気のように瘴気が立ち上っていた。
胸焼けがするし、なぜかヴァルの顔色が悪い。カットも。
浄化して浄化して浄化して、合間にヒールや聖なる盾で支援するのがやっと。
ヴァルの属性攻撃はほとんど効果がないっていうけど、短剣での攻撃もあんまり利いてなさそう。
鱗に刃がぶつかるときの音が、完全に金属同士がぶつかる音だもん。斬れてないよ、あれ。
『ぷるぷる』
「あ、まだいた。危ないから精霊界におかえり」
制服の袖にしがみついてるウィルオーウィプスにそう言うと、必死に首を左右に振る。
かえりたくない?
「んー、じゃあポケットの中に隠れてな。ね?」
上着のポケットを広げると、その中にぴゅーっと飛んで入った。
震えてるのが分かる。
この子の目的はヴァルキリーを助けることだったのに、なんで着いて来ちゃったんだろう。
「くうっ。バカみてぇにクソ硬ぇんだよ!」
「ヴァル!」
『小僧、無闇に突っ込むでない。ミユキ嬢、小僧のナイフに聖属性を付与するのである』
「分かった! "邪を祓う聖なる光を宿せ"」
そしてすぐにヒール。
普段、全然怪我なんかしないヴァルが、こんなに傷つくなんて。
やっぱり強い。
史上最強と言われるだけはあるよ、ドラゴンは。
「カット。あいつ、聖属性が有効なの?」
『おそらく奴は、闇の神の騎竜なのである。闇は光、そして聖属性が弱点なのである。故にミユキ嬢の魔法が有効なのであるが――』
「わりと余裕が……"浄化の光よ、瘴気を祓い、すべての苦しみから解放せよ"」
祓っても祓っても、もわもわと瘴気が湧いて出てくる。
放っておけばヴァルが狂える精霊になってしまうし、定期的に浄化しなきゃいけない。
そのうえ、ドラゴンの手数、いや触手数? それが多いせいで、自分とヴァルとカットに掛けた聖なる盾もすぐ壊れてしまう。
逃げながら魔法を掛けなおしてるから、攻撃してる余裕がまったくない!
「もうひとり私がいたらぁぁ。カット、時間止められないの!?」
『時間を止めるためには、その分の時間を貯蓄せねばならぬのである。塔でそれを使っているから、今使っても三秒が限界であるよ』
「えぇ!? 普段は時間を止めて攻撃してるんじゃないのぉ?」
『止めているのではなく、流れを緩やかにしているだけなのである。ミユキ嬢も吾輩と同じ時間の流れにしようと思ったら、結局貯蓄が必要になるのであるよ』
簡単には使えないってこと!?
ぬあぁぁぁっ。
『ぷっ』
「わっ、何、なになに?」
突然、ウィルオーウィプスが顔にへばりついた。
「危ないよっ」
『ぷぇん。ぷるぷる。――ける』
「え?」
何かを振り払うように顔を振り、それから言葉を絞りだした。
『わた、わたし、助けるっ』
「助ける?」
こくこくつ頷く精霊。
いや、確かにウィルオーウィプスは光だけど、攻撃能力あるの!?
シルバニアな人形みたいな体形で、メルヘンな世界にいそうな容姿。
とても戦えるとは思えない。
「ありがとう。でも危ないから、ね?」
『ぷぇんっ。助ける。わたし助けるっ』
「で、でも……カットぉ、ウィルオーウィプスってぇ」
『戦闘向けの精霊ではないのであるよ。上位精霊のヴァルキリーはまた別であるが』
「ほらぁ。怪我させたくないから」
といっても引き下がらない精霊。
ふんすふんすと拳を握って、やる気満々だ。
『――き。――き』
なんか呪文のように唱えてるけど、よく聞き取れない。
聖と違って光だから、照らしたり目くらましが主な行動だろうなぁってのは予想出来る。
目くらまし、効くのかなぁ。
「分かった。でも無茶したらダメだよ?」
『ぷわぁ。契約、契約ちて!』
「え、契約?」
そういえばヴァル以外の精霊と、まだ契約していなかった。
一番最初に契約した精霊には、成長特典が付くんだっけ。
「ん、分かった。いいよ」
『ぷすっぷすっ』
「私はミユキ。あなたと契約するよ」
『ぷすぅ。ミ・ユ・キ――契約――契約!』
「まぶしっ」
精霊が物凄い光を放つ。
『ミユキ、勇気をありがとう』
「え?」
光が大きくなり、そして形を作る。
それは人の形、そしてシルバニアじゃないサイズ。
『にゃんと!? このタイミングで昇華したであるか』
「しょーか?」
『進化とも言うのである。精霊はみな、初めは下位の精霊なのである。どういう条件なのか、それとも条件などないのか定かではないであるが、下位の精霊が上位精霊に昇華するのであるよ』
……え?
「でも精霊師と最初に契約した精霊しか、成長しないんじゃ!?」
「それは成長手段のひとつだけだ。精霊自身の力で成長することも出来る」
「ってことは、この子……」
光から現れたのは、さっき見たヴァルキリーより少し幼い感じがする――ううん、さっきのウィルオーウィプスの面影を残した――ヴァルキリー。
『ミユキ。私を使って』
「つ、使うの?」
『命令してくれればいいの』
「命令……えっと、じゃあ……あのクソ硬くてむかむかする瘴気を垂れ流すドラゴンを倒すの、手伝って!」
『はい。クソなドラゴン、倒します!』
や、待って。クソとか言ってゴメンて。
そんな綺麗な顔してクソとか言わないでぇ。
ぶわさぁっと真っ白な翼を広げ、彼女が宙を舞う。
うわぁ、綺麗。
さっきまでのぷいぷいしてた子とは思えない。いや、あれも可愛かったけど。
『光よ集え。闇を薙ぎ払う、無数の槍となれ! ヴァルキリーズ・ジャベリン!!』
ヴァルキリーの周りに光が集まる。
そして彼女に似たヴァルキリーがひとり、またひとり――合計九人のヴァルキリーが、その手に長い光の槍を構えた。
放たれる槍。
あれだけヴァルが苦労していたのに、それはアッサリとドラゴンの皮膚を貫通した。
『グオオルアアァァァッ』
九人のヴァルキリーが、各々無数の槍を投擲する。
図体が大きいから避けることも出来ず、ドラゴンは光の槍を全てその身で受けることに。
槍が刺さった部分が、消滅していく!?
「なにこれ……めちゃくちゃ強いじゃん」
『にゃぁ。精霊というのは、契約主の力にも左右される存在。ミユキ嬢と契約したことと、先のヴァルキリーに認められたことで力が増したのであるよ。あれは』
そういえば、よく頑張ったねって褒めてたっけ。
ヴァルキリーのおかげで奴の攻撃が緩んだ。
おかげでこっちも反撃できる!
「ヴァルキリー、いくよ!」
『クソドラゴン、倒しますっ』
「クソドラゴン、やっちまえぇ! "光よ、無数の槍となりて悪しきものを貫け"」
『ヴァルキリーズ・ジャベリン!』
光と聖なる光が混ざり合って、輝く巨大な柱となる。
その柱はドラゴンを飲み込み、闇を――打ち払った。
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