第50話:治療の対価は美味しいです

「びええぇぇぇっ」


 宿へ向かう途中、急に子供の泣き声が聞こえた。

 こけたかな?

 と思ったらとんでもない!


 すぐに駆けだして路地に入ると、小さな子供を抱えたお母さんの下へ。


「その子、診せてっ」

「あっ、あのっ、ああぁぁ」


 お母さんもパニックになってる。

 きっとご飯の用意か何かしてて、うっかり熱湯か熱した油をこぼしたのかな。

 男の子の顔が真っ赤になってて、少しただれ気味になっていた。


「"癒しの光よ"」

「あっ。し、司祭様ですかっ」

「はい。冒険者をやっている司祭です。どう、痛くない?」

「うっ、うっ……あ、れ。痛くない」


 よかったぁ。ただれた部分も綺麗になってる。

 我が子の火傷が綺麗に治って嬉しそうにしているお母さん。

 しばらくしてハッとしたように私を見た。


「あ、あの……お、お金はいかほどでしょうか?」

「……え?」


 と言ったところで、ぐわしっと頭を掴まれた。

 犯人はヴァル。


「タダで治療をする司祭なんざ滅多にいないんだよ」


 と小声で教えてくれる。


「何かを作り出して売る商売でもないんだ。こういう所で金を貰わなきゃ、司祭も食っていけねんだよ」

「ぁ……そっか」


 冒険者になるのも、生きていくためのひとつの選択だ。

 でもなりたくない人だっているだろう。

 神殿に勤める人もいる。そうじゃない人もいる。

 前者も後者も、お金を受け取って治癒するんだろうな。

 それが当たり前な世界。


 地球だと病院にいけばお金がかかるんだし、それとおんなじなんだ。

 別に悪いことじゃない。


 でも……お金、貰うの嫌だな。

 だってこの力は、棚ぼたで貰ったようなものだし。

 嫌だけど、私が貰わないことで、他の司祭の人たちがまるで悪い人のように思われちゃ困る。


 んー……何かいい方法ないかなぁ。


「あの……私、ちゃんとした神殿とかで修行した司祭じゃないんです。だからその、治癒するのにお金貰ってることも知らなくって」

「正式な司祭様じゃない、ということですか? でもそういう方は割といらっしゃいますが」

「え、いるの!?」


 ヴァルを見ると、こくんって頷いてる。

 いるんだ!


「えっと、じゃ、あの……他の司祭の人とかは、お金を頂いて治癒してるってことで。それがお仕事だと思えば、お金貰うのも当然な訳で」

「まどろっこしい、要点をまとめろ」

「ちょ、ゆっくり言わせてよっ。あの、だからその、私も無料で治癒出来ないんだけど、強引に治癒したのもあるし。だから、この辺で安くて美味しいお店を紹介して! 治癒の対価として、労力をお願いしますっ」


 道案内という労力を。

 そう話すと、お母さんと男の子はぽかーんとし、ヴァルは一度だけ噴き出した。






「んふぅー、おいひぃ」

「悪くない」

「素直に美味しいっていいなよぉ。いいお店紹介して貰ったなぁ」


 お母さんと男の子で意見が割れたけど、最終的には男の子が案内してくれたお店に入った。

 一度宿で休んでからお昼を少し過ぎたぐらいに来たんだけど、お勧めされるだけあって席は満席。

 冒険者より地元の人で賑わってるみたい。


「そっちの兄さんは、いい食べっぷりだねぇ」


 ヴァルが追加注文した料理が運ばれてきた。

 ほらみなさい。他の人から見ても、美味しそうに食べてるって丸わかりじゃん。

 お皿を受け取りながら、視線だけは明後日の方向に向けて「そんなことありませんよー」みたいな顔してる。


「イタタ」

「ん? おばさん、どうしたの?」

「いやね、最近冷えてきたから、水が冷たくってねぇ」


 と、料理を運んで来たおばさんが指先をさする。

 あぁ、あかぎれなんだ。

 痛そう。


「美味しいご飯、食べさせてくれたお礼――"癒しの光よ"」

「またお前は……」

「お礼だよ、お礼。それにあかぎれの治癒なんて、たいしたことないじゃん」


 このお店に案内して貰う間に、あの親子といろいろ話をしてて知った。

 怪我の程度で治療費が変わるって。

 あの子の場合、顔と右肩にかけて酷い火傷だった。

 あれを治癒するとなると、金貨数枚要求されてもおかしくないって。

 でもあのお母さん、あの時はもうパニックでお金のことなんか頭になくて家を飛び出したらしい。

 

 それを踏まえれば、あかぎれの治癒なんてパン一つ分もいらないでしょ。


「たいしたことないなんて、とんでもないっ。ここ数日ずっと痛んでいた腰痛まで、すっかり良くなってるよ!」

「え?」

「この町の教会には、たいした司祭がいなくて腰痛は治せないなんていうんだよ。だけど冒険者に頼んだらお金をぼったくられるし。あんたは若いのに、腕のいい司祭なんだねぇ」

「治癒って、腰痛も治せるんだ……」

「あぁ、体が軽い。お礼に追加の料理はタダにしてあげるよ」


 腰痛の治癒は、料理一皿分の料金になった。

 晩御飯もご馳走してくれるというんで、夜にまた来る約束をして宿へ。

 

 魔力の消費による疲れはあるけど、気絶もしないし倦怠感もない。

 でも休んでないとヴァルが怒るから、ベッドでごろごろしながら聖典を読むことにした。


 最初は難しいこと書いてる本なのかなぁって思ったけど、なんか予想と違う。

 なんか小説読んでるみたい。

 ちょっと箇条書きなところも多いけど、誰が何をした。その結果どうなったみたいな内容がほとんど。


「乙女は祈る――救いを求める者のために。そして奇跡は起きた……いや、奇跡起きるまでの展開早す……ん?」

「どうした?」


 私がふらっと遊びに行かないよう見張るために来ていたヴァルが、剣の手入れをする手を止めた。

 そのヴァルの姿は、突然浮かび上がった文字越しに見える。


「聖典読んだら使える魔法もあるって言ってたのは、こういうこと?」

「呪文が浮かんだのか」

「うん、たぶんそう。ってか、ヴァルってほんと物知りだね?」

「それは……まぁ、お前よりは長生きしているからな」


 なにそれ。せいぜい数年の差でしょ?

 はっ!?

 翔さんの例もある。

 もしかしてヴァルって童顔なだけで、三十路ぐらいだったりして!?


「なんだ、その顔は」

「ううん。なんでもない。聖典の続き読もうっと」


 さっきのは『サークル・ヒール』。範囲型の治癒魔法。

 スキル・ボードを確認すると、クエスチョンマークだったと思う場所に表記されてた。

 

 聖典を何ページか読んでると、また文字が浮かぶ。

 おぉ、これ攻撃魔法だ!

 これ普通のモンスターにも効果あるのかなぁ。

 今度試してみ……よ……。


 スヤァ。



*****************************************

まだまだまだまだフォローと評価、お待ちしております。

星……★……欲し……

ほ(´・ω・`).;:…(´・ω...:.;し::..(´・;:::イ .:.;: サラサラ..

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る