第49話:秘密のメッセージ

「え、塔のモンスターが増えてるの?」


 勇者一行がこの町に来た目的は、塔――つまりダンジョンの調査だった。

 噂によると塔内のモンスターが増えているらしく、本当かどうかの調査なんだって。


 この時間にはお客も少ない食堂に入り、朝ごはんを注文して三人の話を聞いた。


「以前来た時と比べても、そう変わらない気がするがな」

「何階層まで登ったんだ?」

「その時は二〇だ。その先は飽きて上るのを止めた」


 飽きた!?

 そんな理由で!?

 いやまぁ、番人探して上っての繰り返しだから、番人になかなか会えなかったら面倒ではあるけどさぁ。


「ボクらが町に到着したのは昨日なんだけど、ちょうど五〇階から戻って来たっていう冒険者がいてね」

「彼らの話だと、『言われてみれば』という程度の感想だった」


 言われてみれば気づく程度……かぁ。


「それだと気のせいレベルとも言えるだろう」

「その通り。下層を狩場にしている冒険者は、口を揃えて『変わっていない』という。なら上層階から変化が始まっている可能性もある」

「だからオレたちは五〇階以上をこれから目指すんだ」

「でも階段上るの大変だよ。八時間おきにしかリポップしない番人を探して倒さなきゃいけないし」


 一カ月もいて、やっと二五階。

 単純計算すると、私たちの目的地である七七階到着まで、あと二カ月はかかるってことになる。

 なのに、私の話を聞いて賢者だっていうトーヤさんが首を傾げてこっちを見てた。


「君は知らないのか? 塔の番人は、召喚出来ることを」

「……え?」


 ヴァルを見る。


「い、いや、そんな話は聞いたことがないぞ」


 トーヤさんを見る。


「ある程度魔力があれば、塔の外壁に描かれた文字が見えるはずなんだが……」


 ええぇぇー!?






「あった……」

「誰だよ、上から落書きした奴はっ」


 三人と別れた後、気になってヴァルと二人で塔に来た。

 勇者一行はお昼から攻略を開始するっていうので、今のうちに見て、私たちは明日から再攻略を始める。


 塔の外をぐるーっと回りながら探していると、後ろの方で見つけた。

 子供目線の高さで、しかも落書きがしてある。

 猫? 肉球?

 目を凝らして落書きを見ると、その下にポォっと光る文字が浮かび上がった。



【これを見つけた者だけに教える】

【各階層にあるトラップ用魔法陣近くで呪文を唱えると】

【番人を召喚することが出来る】

【召喚時に大量の魔力を消費するため】

【注意すること】

【以上の点からこの文字を見つけられぬ者には】

【伝えてはならない】


【呪文を忘れるところだった】

【我が召喚に応じよ。〇階層の番人よ】



 〇の部分にその階の数字を入れるんだろうね。

 うおおぉぉ!

 これで上の階まで一気に上がれるぞおぉぉぉ!!


 ってことで翌日、早朝から行動開始。


「あいつら、朝は遅めに行動すると言ってたな」

「うん。なんかお姫様が朝弱いから一〇時から塔に入るって言ってた」

「なら鉢合わせすることもないだろう。よし、行くぞ」


 スタートは二五階から。

 壁の文字にあった『トラップ用魔法陣』っていうのが――


「踏むとトラップが発動する魔法陣だ。分かりやすいからみんな避けて通っている」

「二五階まで見たことないけど」

「各階層に何カ所かあるみてぇだ。二〇階層までは位置を知っていたし、避けて通った。まさか召喚用魔法陣だとは思ってもみなかったしな」


 ヴァルは二二階と二三階でも魔法陣を見たらしい。

 だけど遠くだったから、私は気づいていなかっただけ。


「一つはどの階層でもほぼ似たような位置にあるんだ。階段を上って左手にしばらく行くと――ほら、あった」

「ほんとだ」


 階段を上って五分ぐらい歩いたら、地面に魔法陣があった。


「あの先は必ず行き止まりになっている。それを知っている冒険者は、このルートを通らない」

「罠もあって行き止まりなら、誰も来ないよね」


 知らないでうっかり魔法陣を踏めば、何かしらの罠が発動するらしい。

 怖い……。


「よし、さっそく――"我が召喚に応じよ。二五階層の番人よ"」


 唱え終わると魔法陣が光り、煙が渦巻くと中から大きな蜘蛛が……。


「ひいぃーっ!! く、蜘蛛っ」

「たかが蜘蛛だろう」


 そう言ってヴァルは片方の短剣を一閃。

 蜘蛛が真っ二つ。

 うぅ、グロいよぉ。


「お、階段もちゃんと現れたな。こりゃ楽でいい」

「蜘蛛気持ち悪い……早く上に行こう」


 モンスターの死体は一分もしないうちに消えてしまう。

 素材はその時に自動的に落ちるけど、何が落ちるかはランダム。

 まぁゴブリンの耳みたいに、消える前にはぎ取れるものもあるけど。


 階段を上ってすぐ左に進み、魔法陣で番人を召喚。

 それもヴァルがさくっと倒して二七階へ。

 そして二八階、二九階、三〇階。


「三〇分ちょいで五階層上がってしまった」

「今までが馬鹿みたいに思えるな」

「うん。でも……これ確かに疲れやすいかも」

「お、おい?」


 魔力の消費が多いって書いてたけど、なるほどねぇ。


「あはは。まだ気絶する感じじゃないけど、休みたいかも」

「楽をする代償か。分かった、ちょうと転送装置のある階だし、上がるか」

「ん」


 転送装置に血を垂らして地上に上がると、そのまま宿に戻って一休み。

 塔攻略、わずか一時間でお終い!


 でもこれ、一日一時間で五階上がれるんだし……七四階まであと四四階。

 十日もあれば目的地に到着出来るじゃん!


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