第48話:ばったり遭遇
「"ウォッシュ!"」
服を着たまま洗濯!
服を着たままお風呂!
メルキュアさんに魔法を教えて貰ってからは毎日洗濯と髪洗いと出来て、快適なダンジョン引き籠り攻略が出来るようになった。
その結果――
「トリートメントがピンチ……」
「そりゃ毎日使ってれば無くなるのも早いだろ。そんなに洗う必要があるのか?」
「ある! だって洗わなかったら痒くなるでしょ! ならない? なるよね? ヴァルも洗おう!」
「いや、俺はいい。いいって」
「"ウォォーッシュ!!"」
「あああぁぁぁぁぁぁっ」
ふっ。これで二人ともびしょ濡れだぜ。
「シャンプーする?」
「……もう好きにしてくれ」
大きなため息を吐いて、ヴァルはその場に座り込んだ。
好きにしてくれと言われても……つまりこれは、洗ってくれってこと?
小さい頃はおばあちゃんの髪を洗ってあげてたりしてたなぁ。
「よし、お任せあれ!」
「んぁ?」
「つやっつやにしてあげるね!」
お高い方のトリートメント使って、しばらくしてから洗い流して乾燥。
魔法を使い始めて二週間にもなると、洗浄魔法の水滴もうまく操れるようになって頭と髪の毛だけ濡らすなんてことも出来るようになっている。
「おぉ、ふかふかじゃんヴァル」
「……はぁ」
「なんで溜息なの! ふかふかになってカッコよさマシマシじゃん」
なんかちょっと犬みたいだけど。
ただこの犬はトリミングが嫌いみたい。
「寝る」
「ほーい。じゃ、聖域掛けなおすね。"邪悪なるものを退ける光の壁よ。我らを護る聖域となれ"」
消費する魔力を増やすことで、持続時間も増える。
やり方は――むんって気合を入れる事!
「明日は番人を見つけるぞ」
「やっと二五階かぁ……先は長いなぁ」
「ここまで一カ月弱。めちゃくちゃ早い速度で上がってきているんだけどな」
そう言われても、私にとって初めてのダンジョンだし早いという実感がない。
まぁ五階層ごとに地上に戻ってギルドにいくたび、職員の人からも早い早いって言われるからそうなんだろうけど。
翌日、少し早めに行動を開始。
他の冒険者がまだ交代で休んでいる間に、あちこち移動して番人を捜索した。
すると運よく、目の前で番人が湧いた。
「うへぇ、地面からにょきってするんだ」
という間にヴァルが番人を真っ二つ。
ここの番人は切り株のような植物モンスターで、真っ二つになってもエグくない。
モンスターがみんなこんなだったらいいのに。
久々の地上!
「うぁ……まぶし」
目が慣れるまでしばらく待ってから冒険者ギルドへと向かう。
今日の稼ぎがいくらかなぁ。
結局マジックバッグはまだ買えてない。
高いのもあるけど、市場にほとんど出回ってないのが大きいかな。
中に入れられる種類の少ないタイプは、手に入れた冒険者が自分で使うことの方が多いらしくてなかなかない。
十種類入るものをこの前見つけたけど、金貨三〇枚とさすがに手が出なかった。
「はぁ。バッグ欲しいなぁ」
「まだ言ってんのか。マジックバッグに入れたものは、ニオイや汚れが移ることはないんだから気にするなって何度も言ってるだろ」
「気持ちの問題!」
「そのうち慣れるだろ」
慣れたくないのぉぉーっ。
着替えと食料はモンスター素材と別にしたい!
ヴァルが冒険者ギルドでの依頼報告とアイテム換金をしている間、私は外でぼぉっと待つ。
あぁ……右の方からいいニオイがする。
朝ごはんまだだもんなぁ。はぁ、ニオイだけでご飯おかわりできそう。
早くヴァル出てこないかなぁ。
「あ、れ? 君、もしかして」
「んぁ?」
ひとりでぼぉっとしてると、よく声を掛けられる。
だいたいうちのパーティーに来ないかっていう勧誘だけど、そんなにパーティーメンバー不足は深刻かいな。
さっさとお断りしようと顔を上げると、やたら人懐っこそうな笑みでこっちを見る男の人と目が合った。
「ね、司祭の子だよね?」
「え……ぁ。ああぁぁ!?」
「やっぱり。元気そうでよかった」
私と一緒に召喚された人だ!
もうひとり、あの時の人もいる。他にも二人、こっちは知らない人だ。
「この子がれいの?」
「おう。こんな所で会うとは、奇遇だな――っと、お姫さんとは顔を合わせない方がいいだろうな」
「そうだね。僕が宿に誘導するよ。三人は彼女を連れてあっちの路地に隠れててくれるかい?」
「オッケー。じゃ、あっち行ってよう」
「あ……」
どうしよう。ヴァルを待ってたんだけど。
ってかあのお姫様も来てるの!?
まぁ勇者と乙女ゲー展開を夢見ていたのなら、一緒に来ていてもおかしくないか。
冒険者ギルドから少し離れた路地を曲がってから、角からそっと顔だけ出してヴァルを探してみた。
まだギルドから出て来てない、よね?
「お、おい、突然なんだ?」
ん?
「そりゃこっちのセリフだ」
お?
「まままま、待ってよ。ボクたちが何したってのさぁ」
「人気の少ない路地に女を連れ込んでおきながらよく言えたもんだ」
ん?
「ヴァル。なんでそこにいるの?」
ヴァルの声だ――と思って振り返ると、何故かヴァルは短剣を抜いてて、一番幼く見える人の喉元に突きつけていた。
「はぁ……お前がまた、変な奴らに絡まれていたからだろう」
「へ、変!? ボクが……変……」
「よかった。カケルだけで」
「まってトーヤくん! 今あの人、奴らって言ったよ。だからトーヤくんもカウントされてるってことだからっ」
「じゃーオレは違うな」
「シンゴくんもだよ! ね、そうだよね?」
剣を突き付けられてるのに、気にすることろはそこなの?
ね? って言われてるヴァルも、ちょっと引いてる。
「ヴァル、大丈夫だよ。この人たち、私と同じだから」
「は? 同じ……(すんすんっ)って、勇者かっ」
なんでニオイを嗅ぐような仕草してんの?
たまーにヴァルって、これやるよね。
嗅覚が優れてるとか?
いやいや、この世界の人と地球人のニオイが違うとかわっかんないでしょ。
「勇者はここにいないけどな。あー、その物騒なものしまってくれないか?」
「あ……あぁ……」
「はぁ、よかった……って、この人誰!?」
リアクション芸人みたいな反応。
でもなんていうか、この人も向こうの眼鏡の人も、ガタイのいい人も、タイプは違うけどみんな顔がいい。
もちろん、さっきお姫様のところに向かった人も。
「えっと、ヴァルは」
「俺はこいつの――」
そう、ヴァルは私の――
「保護者だ」
「そう、ほごしゃ――うぇえぇ!?」
「そっかぁ、保護者なんだぁ」
「いや納得しないでっ」
後ろの眼鏡の人も頷いてる。
「高校生だろう。未成年なんだから保護者は必要だな」
「けどこっちの世界じゃ、一五が成人年齢だって聞いたぜ」
「それはそれ、これはこれだよシンゴくん」
「ま、待ってっ。未成年っていうなら、そっちも――」
「ボクは十九だよ」
「え……え?」
うそん。だってヘタしたら年下にも見えるじゃん。
十九?
いやいやいやいや。
「たまに中学生にも間違えられるんだけどさ、運転免許証もあるよ。見る?」
彼がポケットから取り出したのは、正真正銘、普通免許証。
園田翔と書かれてて、生年月日は確かに私の二つ上を証明している。
「ね?」
そう言って笑みを浮かべる姿は、確かに中学生じゃん!
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