第47話:洗濯乾燥

「って訳だ。やつらの所持品は、パーティーメンバー・・・であるあんたのもんだ」


 野次馬冒険者たちをたった一言吠えただけで解散させたギルドマスターに呼ばれ、私たちは冒険者ギルドの建物に移動。

 そこで、さっき没収したあいつらの荷物をメルキュアさんが全部受け取ることになった。

 荷物の中にあった装備品はギルドが引き取って――


「こ、こんなにいただけませんっ」


 ギルドマスターが持って来たのは、金貨十五枚。

 なかなかの高額だ。


「といってもなぁ。罪人に武具を持たせるわけにもいかないだろう?」

「それもそうだ。うん、メルキュアさん、貰っちゃいなよ」

「だ、だったらあなたたちが受け取って。私を助けてくれたお礼に」

「いや、お金を受け取るのはちょっと……そもそもあいつらが私たちにちょっかい出さなかったら、こうはならなかったんだし」


 それに、お金より喜ぶものがヴァルにはある――と思う。


「今のあたしが出来るお礼といったら、このお金しかありません。だからどうか受け取って」

「ううん。受け取れない。ね、ヴァル」

「あ? なんで俺に聞くんだ」

「えぇー、それはさぁ……彼女をパーティーに誘いたいんでしょ?」


 後半は他の人に聞こえないよう、ヴァルの耳元でひそひそと話した。

 普段クールであんまり表情を崩さないヴァルが、きっと頬を赤らめてるは……ず……ん?

 なんで呆れた顔してんの?


「ちょっとこい」

「ん? ん? んん?」


 ヴァルに引きずられて部屋の外に出ると、ぐわしっと頭を鷲掴みされた。


「なんでそうなる」

「え、な、なんでって」

「なんで俺があの女をパーティーに誘いたいことになってるんだ」


 特に声を荒げるでもなく、表情もまったく変えず淡々を問い詰めてくる。

 余計に怖い。


「だ、だってほら、塔に行った最初の日に、彼女のことじぃーって見てたじゃん。一目惚れなんでしょ?」

「あ? ……あぁ、あの時か。なんで見てただけで一目惚れなんだよ。俺はただ……褐色肌で混血特有の尖った耳をしていたから、ダークエルフだったら警戒しねぇとと思って見てただけだよ」

「警戒? ヴァルもそんな風に」

「ダークエルフっていうのはそういうもんなんだよ。お前は……育ちの違うお前には分からないだろうけどな」


 ぐわしって掴んでいたヴァルの手から力が抜けると、ちょっと撫でられた。


「それにだ。お前の素性があっち側の奴らに知られれば、命を狙われる可能性だってあるんだぞ」

「あっち?」

「邪神の信者や、魔族どもだ」

「まぞ、く?」

「今度また詳しく話してやる。とにかくだ、俺は他の奴とパーティーを組む気はない。お前がいれば十分だ」


 それって……私だけってこと?


「おーい。内緒話は終わったかぁ?」

「あぁ、終わった」

「あ、えっと、はい」


 ギルドマスターがなんかニヤニヤした顔で出て来たから、私たちの話はここまで。

 部屋に入って、やっぱりお金は受け取れないことを告げた。

 とはいえ、メルキュアさんもなかなか引き下がってくれない。

 そこでヴァルが、ある提案をした。


「お前の持ってる魔法を、こいつに教えてやってくれ」

「あ、あたしの魔法を?」


 どういうこと?






「"ウォッシュ"」


 メルキュアさんが短い呪文を唱えると無数の水滴が現れ、彼女の周囲をぐるぐる回った。

 みるみるうちに彼女が水浸しになる。

 しばらくして水滴が消えると、メルキュアさんはずぶ濡れ状態に。


「次はこれを乾燥させる魔法よ。"ドライヤー"」


 ドライヤー!?

 彼女の周りにだけ風がゆるーい竜巻のように吹く。


「吹いてる風に触れてみて。大丈夫、怪我をするような風じゃないから」

「温かい。温風で乾かすってことね」

「えぇ、そう。さっきの魔法が洗浄魔法。濡れた状態なら洗髪料も使えるし、そのあとにもう一度洗浄をして乾燥させればスッキリするでしょ」

「お……おぉっ」

「洗浄魔法には衣類の汚れを取る効果が少しだけど付与されているから、服を着たまま洗濯も出来るのよ」

「おおおぉぉぉっ」


 髪や体はもちろんだけど、服の洗濯も大事。特に……下着。

 この魔法なら服を着たまま洗濯出来るから、ダンジョンの中でも真っ裸にならなくて済む!

 念願の毎日シャンプー&トリートメントも出来る!


「でもこんな魔法でいいの? 確かに女の子には重要かもしれないけど」

「最高じゃんこの魔法!」

「そ、そう? じゃあ魔法を教えるわね」

「あ、大丈夫。使えるようになってるから」


 スキルツリーには『洗浄』と『乾燥』の二つがもう出て来てる。

 呪文がウォッシュにドライヤー。らくちんすぎる。


「え、も、もう覚えたの!? なんて才能なの」

「へ、へへ」


 なんかまずかったかな。


「そ、そういえばヴァルはさ、なんでメルキュアさんが洗浄魔法使えるの知ってたの?」

「あ? 見ればわかるだろう。俺たちと同じ日に塔に入ったはずだが、奴らを二階層で見かけなかった。ってことはスタートは五階だったんだろう」

「その通りよ。あの日、私たちは五階層から十階を目指すために出発したの」

「何日も塔に籠ってた割に、お前と比べると身綺麗だったからな。汚れを弾く魔法があるってのは聞いたことがあったし、同じようなものを使ってるんだろうと思ったんだよ」


 うわぁ、よく見てるぅ。


 ん?

 お前と比べるとってのは、私と比べてってこと?


「私汚れてた!?」

「そりゃそうだろう」

「あ、あの……それは言わない方が……」

「うわあぁぁぁぁーん。"ウォッシュウゥゥ!"」


 汚いって思われたのかな。

 もしかして臭ってたりしてたのかな。

 いやしてたよね絶対。

 うわぁーん。


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