第44話:これは方向音痴の活きる道

「いたっ」

「我慢しろ。ほら、床の魔法陣に血を垂らすんだ」


 四階まで順調に行ったから、その日のうちに五階まで――とはいかなかった。

 あちこち探し回ったけどなかなか番人を発見出来ず、二回ぐらい壁が動く音がして昨日は諦めた。

 ダンジョン内での野宿はちょっと怖かったけど、聖域のおかげで熟睡。

 朝から捜索を開始して、さっきようやく見つけて倒したところ。

 急いで階段を駆け上がって、今は魔法陣の上に立っている。


 ヴァルの剣で指先に切り傷を作って、出てきた血を魔法陣が描かれた床にぽたん。

 なんか一瞬、淡い光が出て……終わり。


「これだけ?」

「あぁ。魔法陣に数字が出てきたのが分かるか?」

「んー、あ、2と5が見える」

「今お前が移動可能な階層がそれだ。行きたい方の数字の上に、大銅貨を一枚置いてから真ん中に乗る。そうすると移動する」

「有料!?」


 そのお金どこに行く!?

 あ、冒険者ギルドですか。商売上手っすね。


「んぁ~、やぁっと地上だぁ」

「なぁにがやっとだ。塔に入ったの、昨日なんだぞ」

「丸一日ずっと塔の中じゃん。空が見えないから時間の間隔まったくないしさぁ」


 お腹が空いても、それは食いしん坊によるものなのかご飯の時間だからなのか分からなかったし。


「下りたら報告だぞ」

「うん。ギルドの依頼は?」

「そっちは冒険者ギルドまで行かなきゃならない。ここでは依頼を受けられるだけだからな」


 ってことで一階に下りて、受付の人に「無事戻ってきました」報告をする。


「はい。ただいま名簿を確認いたしますね。えぇっとヴァルツ様、ミユキ様っと――え?」


 受付の眼鏡のお姉さんが名簿と私たちを二度見する。

 なんかマズいことでも?


「あ、あの、昨日、塔に上がられたんですよね?」

「そうだ。運よく二階と三階の番人にすぐ遭遇したんだよ。嘘みたいな本当の話さ」

「そ、それは幸運でしたね」


 あぁ、それでビックリしてたのか。

 まぁ確かに運がよかったよね。二階の番人は二時間ぐらいで見つけたけど、三階のは階段上ってすぐだったし。

 でも四階は一日近く探したなぁ。

 それでもヴァルから言わせると「運良すぎだろ」だそうな。


 生存報告のあとは冒険者ギルドへ。

 依頼品が多いから別室に通されて、そこで氷漬けにされたスライムをどんっどんどどどんと五〇体分出す。

 砕けている分は買取価格が安くなってしまった。しょんぼりだ。

 ゴブリンの耳はなく、五階に生息しているというから後回し。

 その依頼、辞退してくんないかなぁ。


「ではこちらが報酬です。両替されますか?」

「あぁ、頼む」


 両替は、私とヴァルとで半分にするため。

 楽勝な依頼だったけど、報酬はひとり銀貨五枚となかなか美味しい。トリートメント買える。

 そうだ、お風呂行こう!


「さて、せっかくだしこのまま塔に――」

「反対! 断固反対するっ」

「……はぁ、分かったよ。なら宿を探すか」


 宿を勝ち取った。






「うぁぁ。一本目のトリートメント、もう四分の一なくなってる」


 瓶のサイズは、たぶん350mlぐらい。

 野宿の時は髪を洗えなかったから使ってないけど、その反動で宿に泊まれた時は日本にいた時普段使ってた量より多く消費してた。


「本気でトリートメント探さないとなぁ。もう魔法付与は諦めて、ニオイの薄いやつ探そう」


 よし、お風呂上がったら探しに行こうっと。

 なんせ今日という日は、まだまだ残ってるからね!


 お風呂から上がって部屋に行くと、ヴァルが呆れた顔して隣の部屋から出てきた。


「まだ昼飯前だぞ」

「ん?」

「いや、昼飯食う前から風呂って、早すぎないか?」

「ん? これは昨日の分のお風呂だから。夜は夜で入るから!」

「……マジかよ」


 マジだよ。


 それからお昼を食べて、トリートメントを探しに町へ。

 個人的な買い物だし、ひとりで出発。

 そして――


「んー……宿のおばちゃんから、高級雑貨店は塔の北側にあるって聞いたんだけど」


 段々畑のような高低差が町にはある。

 緩い坂道を登って下ってするのが面倒なのと、一度中央に行って北を目指すより近道だと思ったんだよね。

 斜めに横断すればいいじゃん! って進んで行ったら、何故か町を囲む壁にぶち当たってしまった。


「どこだよここ」


 門でもあれば衛兵の人に聞けるんだけど、ここにはない。

 一通りも少ない。

 ガラの悪そうな人がいる。こっち来てる。


「よぉ、お嬢ちゃん。迷子かい?」

「お構いなく」

「いやいや、構いたくなるなぁ」

「俺たちがいい所に連れてってやるよ。楽しいぜぇ。イヒヒヒヒヒヒヒ」


 はぁ……面倒くさいなぁ。


「如何わしいことするなら、こっちも容赦しないからね」

「如何わしいことぉ? するに決まってんじゃねえか」

「イヒ、イヒヒヒ。たまんねぇなぁ。俺ぁ気の強いお嬢ちゃんも好きだぜぇ。そんなのが泣きわめきながら、もうしないで許してって言いながらよがるんだよ。あぁ、早くやりてぇ」

「最低なクズどもめ。"眠りをもたらす雲よ"」


――変な奴に絡まれた時は、それを使え。


 ってヴァルに教えられた魔法。まぁ正しくはスキルボードにあったやつだけど。

 

「うぁ……な、んだ?」

「ね……む……」


 ぶっ飛ばす訳でもなく、怪我をさせるものでもない。

 比較的安全な方法で相手を無力化出来る魔法。それが睡眠魔法。

 相手の魔力が私より低ければ、ほぼ100%効く。


 ぐっすり夢見心地な二人を放置して、今度は壁に沿って歩き出す。

 そうすればそのうち門が見えるからね。

 私、すごい賢い!


  そうして門のところまでやってくると――


「はぁ……」


 と大きなため息を吐くヴァルがいた。


「な、なんでヴァルがいるの?」

「お前がひとりで出て行ったからだろう」

「いや、別にひとりでも大丈夫だって。さっきだって変態どもを眠らせて、何もされなかったんだし」

「知って――ちゃんと教えた通りにやれたんだな、よしよし。じゃなくてだなぁ、お前、方向音痴なんだから目的地までひとりで行けねぇだろうがっ」


 ……。


「えへ」

「えへじゃねぇっ」

「北。塔の北側の通りにあるって言う、高級雑貨店に行きたいの!」

「初めからそう言え。ったく、ちゃんと着いて来いよ」


 結局、ヴァルに連れられて高級雑貨店に向かうのだった。



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