第41話:スライムだらけの鞄

「そら、行ったぞ」

「お、おう!」


 自分が異世界人だと話してから、ヴァル先生に魔法のことを少し教わることが出来た。


 魔術師を目指す者は最初、火、土、風の三つの下級魔法から習う。

 人によって相性のよしあしがあるから、頑張っても習得できない属性魔法というのはあったりするらしい。

 で、基本三つのうち二つをそれなりに上手く使えるようになったら、次は水属性の下級魔法を教えて貰える。


 教えて貰えるっていうのは、魔法学校だったり師匠だったりからっていう意味。

 こんな感じで、魔法を習得していくんだと、ヴァルに教えて貰った。


 どうやら私の場合も同じみたい。

 水の魔法が気がついたらクエスチョンマークが消えて表示されてたけど、覚えているのはファイア・ボールとロック・シューターの熟練度バー……だと思うやつのゲージが、半分より右に行ってから。


 銀級のランク維持依頼の最中に、ヴァルに言われてウィンド・カッターとウォーター・バレットを使う様にしたらこれが使えるように。


「"氷の刃!"」


 アイス・バレットは、小さな氷柱を飛ばして当てる魔法。

 水の魔法と風の魔法を上手く操れるようになった魔術師は、次に氷の魔法を覚える事になる。

 上手く操る=熟練度。

 私の場合は使えば使うほど上がっていく簡単仕様だから、熟練度上げも難しくはない。


 アイス・バレットでスライムを打ち抜くと、一瞬で凍り付いて、そして砕けた。

 それを拾い集めて鞄に詰め込んでいく。

 私の鞄は今、十体分のスライムが入ってる。

 ……ひいぃーっ!


「ねぇヴァル。砕けたスライム集めるの面倒くさいんだけど」

「次の魔法が使えるようになるまで辛抱しろ。確かアイス・バレットの上位がアイス・ロックっつー、対象を凍らせる魔法だ」

「凍らせるだけ? 砕けるアイス・バレットの方が強いんじゃ」

「バーカ。こんなドちびのスライムだから砕けるんであって、普通のモンスターだと凍傷ダメージを負わせる程度だぞ」


 確かにここのスライムは小さい。手のひらサイズだ。

 ゴブリンに対して使えば、氷柱をぶっ刺して周辺を凍傷させる程度の効果らしい。

 凍傷より氷柱を刺した物理的なダメージの方が大きそう。


 スライムはキュウリと同じでほとんどが水分。だから簡単に凍ってしまう。そして小さいから氷柱の衝撃で砕ける、と。

 対してアイス・ロックは完全に対象を凍らせる魔法だ。


「ただし当たれば確実に凍る訳じゃない。そこは術者と、その対象との能力の差に影響するがな」

「強い方が勝つってことね」


 よし、頑張るぞ!

 

 何匹か続けざまに倒した後スキルボードを見ると、クエスチョンマークが解放されてアイス・ロック出現!


「ひゃっほー! 呪文も短くて最高!!」

「お前が魔法を出し惜しみしてたのは、それか」

「ん?」

「呪文を覚えられないからだろう」

「ん、んん……なんのことかなぁ。あ、ヴァル先生っ、スライムでありますっ。誘き寄せて欲しいであります!」


 ヴァルが大きなため息を吐きながら、スライムを誘導しにいったのは言うまでもない。

 連れてこられたスライムに「"凍てつけ"」と短い呪文を唱えて魔法を撃つ。

 あ、これ対象指定型の魔法なんだ。


 一瞬でスライムは凍り、砕けることもない。

 こうなると鞄に入れるのも楽なものだ。

 さっきまでは細かく砕けてしまって、比較的大きな欠片だけ鞄に入れてたもん。

 これで一匹まるごと鞄に……


「私の鞄がスライムまみれになるぅぅ」

「スライム五〇匹分、よろしく頼むな」

「ふんがぁーっ」


 マジックバッグって、洗濯できるのかなぁ。


 せっせとスライムと凍らせて、鞄に入れて、凍らせて――五〇匹分になったら二階の依頼お終い。

 三階に上がりたいけど、なんせ番人を見つけなきゃいけないから簡単ではない。


「あ、なんか大きいスライムがいる。ついでだし、あれも納品しようか」

「大きい? おい、そいつは――」

「"凍てつけ"! はい、いっちょあがりっと。これ一匹で二、三十匹分じゃない?」

「おい急げっ。階段が現れるぞっ」

「はい?」


 凍結したスライムを放置して、ヴァルが私を抱えて走り出した。


 え?

 え?

 えぇぇー!?


 小脇に抱えられたまま、私は……階段を上っていた。


 あれ番人だったのぉー!?






「あぁ、閉じちゃった。スライム勿体ない」


 あのスライムを納品出来たら、ボーナス貰えたかなぁ。


「さっきのが階層ボスだ。ちなみに二階のな」

「なんかめちゃくちゃあっさり凍らせられたんだけど」

「そりゃ二階だからな。お前の実力ってのが未だによく分からないが、まぁ二十階の番人でも一撃で倒せるだろ」


 ほっほぉ。それが凄いのかどうかさっぱり分からん。うん、分からん。

 三階でもモンスター素材集め。

 集めるのは――


「ゴ、ゴブリンの……み、み……」

「乾燥させて粉末にすると、ある薬になる」

「うぇ、薬になるの? やだ、病気になったとしても、その薬だけは絶対飲みたくない!」

「心配するな。お前が飲むことは絶対にないから」

「ん? なんで?」


 そう尋ねると、ヴァルは何故か頬を赤らめてすたすた歩きだした。


「さ、三階の番人はキラーラビットっつぅ兎の――おい、嘘だろ」

「ん? 兎の……もしかしてあれ?」


 ヴァルがビックリして凝視している先には、灰色の兎が立っていた。

 そう、立っていた。

 二足歩行で、右手には草刈りの鎌を持っている。

 それが三匹なんだけど、一匹だけ明らかに大きい。


 二階のスライムも大きかった。

 番人って少し大きいとか?


「やれ」

「でもゴブリンは?」

「他の階層にもいる」

「"炎の礫よ"」


 一発で兎一羽を仕留め、火球三発で試合終了。

 そして走る。


 兎がいた傍の壁がぱかっと開き、そこに上り階段が出現。

 兎の屍を横目に、私たちは四階へと昇った。



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