第39話:無慈悲な迷宮の仕組み
「ふ、わあぁぁぁ。な、なにあれ……」
「なにって、見りゃ分かるだろ。塔だ、とう」
「そんなの分かってる! 私が言いたいのは、あの異常な高さのことよ!」
指さした先に塔がある。だけどそのてっぺんは雲に隠れて見えない。
スカイツリーだっててっぺんは見えるってのに!
フレーティアというのはその地方の名前。
目的地はメンデというフレーティアで最も大きな町、別名、迷宮都市。
メンデは町自体が小高い丘になってて、建物は斜面に立ち並んでいる。
中央に行くほど高くなって、塔はその中央に聳え立つ。
「あれがフレーティアの大迷宮と呼ばれる塔だ」
「え、あれがダンジョン!?」
そりゃ大きいけど、でも上に伸びてるだけで床面積はそう広くはなさそう。
近づくほど、頭にはクエスチョンマークが浮かぶ。
あれ、どう見ても直径五〇メートルもないんじゃ……。
そんな私の疑問を察したのか、
「入口になっている一階は普通の造りだが、二階からは空間が捻じ曲げられていて迷宮になっているんだ」
「く、空間が……中って広いの?」
「あぁ。なんでも古代魔法王国の王だの、神だのが造ったと言われているが、実際は誰にも分からない。頂上まで行った奴がいないからな」
「え、未攻略!?」
「あぁ。確か一〇四階ぐらいだったか、攻略されてるのは」
ひゃ、一〇四階!?
胸ポケットから学生手帳を取り出し、リヒトさんが書いてくれたページを開く。
【フレーティアの大迷宮74】
「この74って、階層のことだよね」
「だろうな……さて、何カ月かかることやら」
うひーっ。な、何カ月も掛かるのおぉー!?
「とりあえず宿をとるぞ」
「ううぅ、はぁーい」
なんで迷宮の中に隠し部屋なんて作ったんだよクソぉ!
普通価格の宿には、石鹸とシャンプーしかない。
ってことで、自前のトリートメントを使う訳だけど……トリートメントの減りが加速する!
「でも、だからって高い宿にばかり泊まる訳にもいかないしなぁ」
ヴァルは使ってないっていうし、ご飯もまぁ、普通の宿でも十分美味しい。
ベッドはやや硬めだけど、特に寝付きにくい訳じゃないからなぁ。
お金はあるけど、贅沢してたら減るのも早くなる。
しっかり稼いでトリートメント買おう。
自分で作れるようになればそれが一番安上がりなんだけどな。
「お待たせぇ、ご飯行こう」
お風呂から上がって着替えを部屋に干ししてから、隣のヴァルのところへ。
お風呂を済ませて武器の手入れしてたみたい。
部屋を出てきたヴァルが、私の横で立ち止まる。
「ん?」
「ニオイ、変えたのか」
「あぁ、シャンプーはね。宿にあったやつ使ったんだけど、もしかして変なニオイ?」
「いや、そういう訳じゃない。トリなんとかってのはそのままなんだな」
「うん。だって置いてないから自分の使うしかないじゃん」
「使わないという選択肢はないのか」
「ないね」
即答して食堂へと向かった。
ご飯を食べながら塔の話を聞く。
「塔の内部は、大部分が石壁で囲われた迷路になっている」
「大部分ってことは、そうじゃない所もある?」
「そうだ。部分的に深い森のようだったり、荒野だったり草原だったるする場所もある」
無茶苦茶だ。
「ギルドに行けば階層ごとの地図が売られているが、正確なものじゃない。まぁないよりはマシなぐらいか」
「地図って必要?」
「お前……自分が極度の方向音痴だって分かってんのか?」
「うん。分かってるよ。だって地図見ても迷う時は迷うし」
あ、ヴァルが頭抱えた。
「そうだった……こいつ、地図見てんのにそもそも方角を間違えてるから、スタートから迷うようなヤツじゃないか」
「ふっふっふ。理解してくれたかね」
「自慢気に言うなっ。まぁいい。二〇階までは俺も上ったことがある。そこまでの地図は必要ない」
「ヴァルはここ、来たことあったの?」
「あぁ、昔な」
昔……昔って、どのくらい?
ヴァルの見た目は二〇代半ば。後半まではいってない気がする。
いったいいつから冒険者やってたんだろう。
「じゃ、明日は二一階からの地図を買いに行くんだね」
「買うのはまだ先でいい。塔には五階ごとに転移装置がある。冒険者カードと同じで、血を垂らせば生体認識されて利用できるようになる」
「ま、また血……。あ、じゃあ一度装置に血を垂らせば、次からはそれを使って瞬間移動出来るんだ?」
「あぁ。だから五階まで上ったら、装置を起動させて地上に戻る。休んで準備を整えたら、次は五階からのスタートだ」
なるほど。ずーっとダンジョン内にいて攻略する訳じゃないんだ。
とはいえ……。
「一階層って、何時間ぐらいで攻略できるの?」
「それは冒険者の実力と運次第だ。数分で上の階に行けることもあれば、何日何十日と掛かることもある」
「何十日!?」
数分と何十日って、いくらなんでも差がありすぎでしょ。
絶対なんかあるよね。
「ここからがクソ面倒くせぇ塔の仕掛けの話だ」
「あ、やっぱりなんかあるんだ」
「何百年もあってたった一〇四階までしか攻略されてない理由――それはな」
ここでヴァルが、分厚いお肉を一切れ口に入れてよーく味わって……早く喋れよ!
「階層ごとに番人がいる。そいつを倒さなきゃ次の階段が出てこない」
「え、たったそれだけ?」
「その番人が現れる場所が、不特定なんだ。しかも誰かが倒せば次にリポップするのに八時間かかる」
「面倒くさ」
「階段は一分しか現れない」
「のんびりもしていられない!?」
番人を見つけるのは運ゲー。
倒せるかどうかはこちらの実力次第。
倒したら直後に階段が傍に出現するけど、ここで疲れや怪我とかでもたもたすると消えてしまう……。
しかも倒したのが他の人の場合、次に番人が現れるのは八時間後。
「あと番人を倒すと迷宮の壁の一部が動いて、道が変わる」
「無慈悲かよ!」
リヒトさん……どうやって七四階まで行ったの!
ってかなんでここに隠し部屋作った!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます