2章

第34話【2章】-プロローグー

『汚らわしい……』

『我らフェンリルは、銀色の毛であるはずなのに』

『悪しく闇色の仔め』


 好きで黒く生まれた訳じゃない。


『人間の――しかもダークエルフの血が混ざった、穢れた娘が産み落とした呪われし仔』

『邪神の手先だったのだ。我らフェンリルを穢すために遣わされたに違いない』


 母さんを悪く言うなっ。

 母さんは邪神の手先なんかじゃないっ。


『何故、我らが精霊王は、この忌み仔の存在を許す』

『あの方の仔だからか?』

『だがあの方は、汚れた娘と交わったせいで消滅したではないか』

『異種族と交わったことで、死が与えられたのだ』

『呪いだ』

『穢れだ』

『望まれぬ、呪われた仔だ』


 違うっ。ちがうちがうちがうっ。

 父さんは母さんを大切にしていた。母さんも父さんを大切にしていた。


 オレは……オレは……望まれて生まれてきたんだ。

 そのはずなんだ……。


『見ろ。瘴気がこいつを求めて漂って来るぞ』

『穢れた存在は、穢れに好まれるのだろう』

『このままでは我らも穢される』

『追い出せ――』

『追放しよう』

『我らが王、精霊王よ。このモノを聖地から追放することを、ご許可ください』


 !?


『ま、待ってっ。追い出さないでっ。父さんと母さんがここにいる。ここで眠ってるんだっ。だから離れたくないっ』

『穢れる』

『穢される』

『我らが王よ』


 嫌だ。嫌だ。

 ここを出て、どうやって生きて行けばいい?

 精霊としても、人間としても、ダークエルフとしても、全部が半端なオレが、外の世界でどうやって。


『おぉ、王よ』

『我らが王』

『せ、精霊王様っ。オレ、ここを――』


 あ、れ……。精霊王様が、人間のような姿になっている。

 誰よりも大きくて、誰よりも美しい銀色の毛並みの精霊王様が……。


『お前に、人の姿をとる方法を教えよう。我々と違って、お前の場合はもうひとつの姿だ』

『もうひとつの、姿?』

『そうだ。人の姿であれば、下界でも生きていけよう』

『ぁ……そん、な……精霊王、さま……』


 優しかった精霊王様まで、オレをここから追い出そうとしている。

 オレが黒いから?

 オレが穢れているから?


 オレは、生まれてきてはイけなカッタノカ。



 ――ル。

 ――ァル。

 ――私たち、仲間だよ。


「ヴァル、ご飯だよ!!」

「んぁ……」


 な、んだ。夢か……。

 ちっ。ガキの頃の夢を見るなんて、情けねぇ。


「あれ、ヴァル。泣いてる?」

「は!? な、泣く訳ねぇだろっ。欠伸しただけだっ」

「ふーん。ま、そういうことにしておいてやんよぉ」

「そういうことにじゃなく、そういうことなんだよ! あぁ、くそ。飯行くぞ」


 そういや俺、なんでベッドで寝てるんだ?

 鉱山の町に到着して、それから――それからの記憶がない。


 ベッドから起き上がると、不意に眩暈に襲われた。


「およ、大丈夫? やっぱり無理して起こさない方がよかったかなぁ。三日も寝っぱなしだったし」

「三日? おい、鉱山の町に着いてからの記憶がねぇんだが」

「だってぶっ倒れたもん。記憶がある訳ないじゃん。ったく、気絶するぐらいだったら、鉱山出た時に行ってくれればよかったのに。ほんっと死んだかと心配したんだからね」

「あ……悪い……」


 濃い瘴気にどっぷり浸かっていたせいだろうな。

 まったく、ダークエルフの血が混じってんなら、瘴気に対する抵抗も強くていいはずだろ。

 なんで真逆の抵抗力ゼロなんだよ、クソ。


 けど、正気を保っていられるのはこいつのおかげか。

 異世界から召喚されたこいつの……。


 異世界から来たこいつなら、俺のことを知っても見捨てたりしないんだろうか。


 俺のこと話しても……。


 ――穢れる。穢される。


「くっ」

「ん? どしたぁ、ヴァル」

「いや、なんでも……。お前……ダークエルフって、知ってるか?」

「うん。まぁ私の世界だと、空想上の種族だけど。まぁそれ言ったらモンスターとか精霊もそうだけどさ」


 あぁ、そうか。こいつの世界にモンスターも精霊もいないのか。

 だったらもしかして――


「ダークエルフはその、悪いエルフみたいな感じかなぁ。邪神側の種族だったりさ」

「……悪」

「こっちの世界だと違うの? ねぇ、どんな? もしかしていい種族なのかなぁ。だとしたら考えを改めないと」

「……いや……お前が言ったイメージに近い。ダークエルフは、邪神によって創られた妖精族だから」

「そう、なんだ」

「あぁ、そうだ……。存在するだけで忌み嫌われる、そんな種族だ」


 言えない。

 無理だ。

 言えばきっとこいつは、俺の前から消えてしまう。


 こいつは気づいていない。

 無意識のうちに、常に周囲の瘴気を浄化していることを。

 こいつの傍にいれば、俺は穢されない。穢されることはない。


 だから……だから手放したくないんだ。

 せめて召喚された勇者らが、邪神を封印するまでは――それまでは黙っていよう。

 



*********************

Windowsのアップデートが強制的に始まってしまい

10→11になってしまいました。

この辺りのお話からwin11での執筆になっており

未だ使い勝手が分からずルビなんかがおかしくなっているかもしれません。

あ、誤字も増えているかもしれません。

win11ちゃんのせいです。

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