第32話:待ってるよ
「ヴァルーっ、ヴァルツー! ねぇ、どこぉーっ」
ライリーさんが教えてくれた通路を進みながら、二人の名前を叫ぶ。
本当に一本道?
本当にいるの?
洞窟の中で迷子になったらどうなるのか……道は……どこかに繋がっているのか。
さすがの私も、ここでポジティブ思考にはなれない。
「迷子になってゾンビになったらどうしよおおぉぉぉぉぉ」
「なるかボケ」
「ひいいぃぃっ――ヴァル!」
一瞬、迷ってゾンビになった人かと思ってしまった。
「ヴァル、探したよ。 大丈夫? 浄化しようか?」
「いや、いい……」
「ほんと? 大丈夫? じゃあ治癒する?」
「疲れてるだけだ。どこも怪我してない」
「そ、か……あ、ヴァルツを探さないと! ね、黒い犬見なかった?」
「いっ……いや、犬は見てないぞ。狼なら見たけどな」
「そう、それっ。犬も狼も似たようなもんじゃん。こまかいなぁ」
ヴァルはぶつぶつ言いながら、奥の通路を指さした。
「あっちに行ったんだね。よし、ちょっと行ってく――」
先へ行こうとしたら、ヴァルに腕を掴まれた。
「もうここに用はないんだと。出て行ったよ」
「洞窟から?」
「あぁ」
ヴァルツの用って、なんだったんだろう?
瘴気かな?
放っておけば精霊が取り込まれて狂ってしまうから、それを防ぎたかったとか。
精霊想いのいい子だなぁ。
あ……。
「どうしよう! 私、出口分かんないっ。ここまでライリーさんに案内して貰っただけだしっ」
「ライリー? あぁあの……出口なら大体察しが付く。行くぞ」
「あ、うん。ヴァルはライリーさんのこと」
「知らねぇよっ。おお、俺はその……そうだ。彷徨ってた亡霊がそんな名前を口にしてたんだよ」
「亡霊……フィレイヤさんたちかな」
前を歩き出すヴァルを追って、でも彼の足取りが重いように感じた。
疲れてるって言ってたね。
「肩貸したげるよ」
「あ? いらねぇよ」
「いいからいいから。ほら、行こう」
泉までは一本道。問題はそこから伸びる通路が、四本あるってこと。
にしても、この泉の水……ずっと聖水のまま? まぁだほんのり光ってんだけどさ。
「あのさヴァル。私、ここの水を聖水にしたんだけどさ……これずっとこのままなのか分かる?」
「無茶苦茶だろ、お前……まぁここの水は底から湧いて出て来てるようだから、だんだんと薄められるんじゃないか? ほら、泉の水はあそこから外に流れ出てるみてぇだし」
あぁ、細い水路みたいなのが壁に向かって伸びてるね。
じゃ、しばらくここから流れ出る水って、聖水なんだろうな。
は、ははは。
「聖水が川に流れ込んで、それ飲んだ動物とかに害はない!? 植物に影響とかは!?」
「な、ないから安心しろっ」
「ないかぁー。よかった」
「もういいなら行くぞ。あっちの通路だ」
ヴァルが指さす通路に入ると、ほんのり上り坂になってた。
そうそう。ずっと下ってきたんだから、帰りは上りになってるよね。
「ヴァルはなんでこの辺りの道も分かるの?」
「そりゃお前のニ……お前の足跡が残ってるからだ。ま、まぁ素人には分からないだろうがな」
「なるほどぉ」
「それに下の方へ引き吊り下ろされたんだ。上るのが正解だって分かるだろ」
あぁ、そうだった。ヴァルは穴に引き吊り下ろされたんだったね。
ヴァルにあっちだこっちだと指示されて、ようやく冷たい風が感じられるようになった。
通路のあちこちに明かりが見え始める。明かり石だ。
「ここまで来たらもう大丈夫だね」
「なら案内はもういらないか?」
「それはいるううぅぅ」
そこからまた少し歩いて、私たちはようやく外に出られた。
「うぁ、眩しい」
「ちょうど日の出の時刻か」
ここ、高い場所だから日の出がよく見える見える。
あ、ってことは、泉に差し込んでた光って、月明かりだったのかな。
日の出かぁ。
んー……。
「あのさ、ヴァル」
「あ?」
「私ね、異世界から来たんだ」
「……は?」
この世界に来て何日経ったっけ?
でもまだ何日、なんだよね。一カ月も過ぎてない。
ここでこうして日の出を眺めてることだし、心機一転ってことで。
「私ね、勇者召喚でこの世界に来た女子高生なんだよ」
「おま……いいのかよ、そんな大事なこと話して!?」
「うん。ヴァルにはこれからもお世話になるし、だから話すことにした。まぁライリーさんたちから勧められたのもあるんだけど」
「そう、か……異世界から……道理で、言ってることに無理があると思った」
「あ、やっぱりそう思ってた? いやぁ、あはは、あはははは」
こりゃ早めに言って正解だったかも。
それにフィレイヤさんが言った通り、なんかスッキリした。これでもう、嘘をつかなくて済むんだし。
「ならお前、司祭と賢者の職業を」
「あー、そこはよく分からないんだ。職業鑑定された時、緑色に光ってて――あ、緑だと司祭なんだって。でも直ぐに鑑定用の玉と取り上げられたから」
「取り上げられた? なんでだよ」
「んー、なんか私のこと、気に入らなかったみたい」
「は?」
ヴァルに肩を貸したまま、山道をゆっくり下っていく。
歩きながら、私が召喚された時のことをヴァルに話した。
聞いたヴァルが顔を覆って呆れかえる。
「嘘だろ……召喚しておいて、野郎と恋愛したいから女が邪魔で司祭を追い出すって……バカなのか」
「い、一応この国のお姫様だから、人前でそれ言っちゃダメだからね」
「分かってるさ。しっかし……はぁ……お前も異世界に召喚されて早々、大変な目に会ったんだな」
「いやぁ、あははははは。でもまぁ、自由気ままな旅出来るし、捨てられてよかったんだけどね」
「前向きなやつだな、お前は」
そう言ってヴァルが私の頭を撫でる。
くそぉ、まぁた子供扱いしやがってぇ。
いいよいいよ。今日はお疲れのようだし、モンスターに攫われてかわいそうだから撫でられてやんよ。
「ヴァル……」
「なんだ?」
「うん、あのね……私、この世界の人間じゃないけど、これからもよろしくお願いします」
「な、なんだいきなり、改まって」
「だってさ、この世界の常識とか何も知らないし、私方向音痴だし」
「あぁ、それは知ってる」
真顔で言うな!
「だ、だからよろしくお願いしますってことっ」
「はぁ……つまり面倒をみてくれってことか」
「主に道案内、よろしくお願いしまっす」
がしがしと、また頭を撫でられる。まぁ
「俺で、いいのか?」
「え? いいに決まってるじゃん。だってヴァルは、私の仲間なんだし」
「仲間……も、もし俺が――――」
もしヴァルが?
何かを言いかけて、ヴァルが口を閉ざした。
話したいけど話せない、何か秘密があるのかな。
無理して話さなくてもいいんだよ――そう言おうとして……
ぐぎゅるるるるるるるる……と、腹の虫が鳴った。
「ひゃああぁぁぁぁ、めちゃくちゃ盛大に鳴ったぁぁぁ。ごめん、めっちゃ真剣なシーンだったのに」
「……はは。そういや昨日の昼、坑道ん中でパンを食ったっきりだったな」
「はっ、そうじゃん! 夜ごはん食べてない! ヴァル、早く町に戻ろう。そんでご飯を食べよう!」
ヴァルのこと知りたいけど、今はその時じゃない。
ヴァルがそうしたように、私も彼が自分から話してくれるまで待とう。
「ごっはん♪ ごっはん♪ なに食べようっかなぁ」
「肉」
「ほんっと肉ばっかりだね。野菜もちゃんと食べなよ」
「……イヤだ」
「んなっ。今イヤって言った!? カァァーッ、ガキかよ!」
きっと話してくれる時が来る。
だって私たち、パーティーを組んだ仲間なんだもん。
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