第29話:集いし者たち

『ウオオオォォ――ン』


 あれ?

 この声……。


 ウンディーネが教えてくれた通路に入ると、その先から聞き覚えのある遠吠えが聞こえた。

 だけど同時に、通路いっぱいにアンデッドが湧いた。


『僕の後ろに』

「援護しますっ――"聖なる祝福よ、かの者――かの者に活力を"」


 既に肉体を失っている人に、『肉体に活力を』なんて呪文は変だ。

 咄嗟に呪文を変えてしまったけれど、そもそも死者に魔法って利くんだろうか。


『これほどまでとは……いや、これはまだあなたの力の片りんに過ぎないのだろう』

「え?」

『行きます――光の刃!』


 うおぉ!?

 なんかビームの衝撃波みたいなのが出た!

 たった一振りで、十数体のゾンビレイスが塵になる。


 聖騎士すごっ。


「よぉし、私もターン・アンデッド――」


 は!?

 ターン・アンデッドが聖騎士さんに当たったら……成仏させてしまう!?

 ダメじゃん!

 いや、終わったらちゃんと成仏していただくけど、今はまだダメ。奥さんとも再会させてあげれてないんだし。


 けど、早くこの奥にいかないと。

 さっきの遠吠えはきっとヴァルツだ。なんでここにいるのか分からないけど、あの声は苦しんでいるような声だった。


「ヴァルツウゥゥゥゥ。そこにいるのぉー!?」

『君の仲間か?』

「仲間っていうか……知ってる精霊なの。なんか苦しそうな遠吠えだったから心配なんだけど……あぁ、また湧いた!」


 聖騎士さんがせっかく倒したのに、また地面からゾンビやレイスが湧いて来る。

 ゴブリンより大きい……あれは冒険者を鎮魂した時に見た記憶の中にいたオーク!?


 聖騎士さんだけじゃ押されてしまう。

 ターン・アンデッドはフレンドリーファイアの危険があるけど、純粋に聖属性を付与するだけなら大丈夫なはず。

 枝にホーリー・ウェポンを付与して、聖なる盾を掛けなおす。

 これで聖属性攻防一体型要塞の出来上がり!


「かかってこい!」

『おぉ、なんと神々しい。参りましょう、聖女殿』

「え、せ、聖女……いや、それは――」

『来るっ』

「あ、はいっ」


 通路の後ろからも湧いて来たアンデッドは、私に向かって突進してくる。

 けれど盾に触れると、その場で塵と化す。ゾンビだけじゃなく、レイスも同じ。

 しり込みした敵には、輝く木の枝で叩けば同じように塵化。


「司祭って、対アンデッドでは無敵じゃん!」

『いや、聖なる盾は確かにアンデッドに対しては有効だけれど、ターン・アンデッドほどの威力はないんだよ。それほど強い神聖力による聖属性付与を使う方は、僕が知る限りただひとり。百年前、この世界にやってきた勇者一行の聖女様だけだ』

「え……じゃあ、普通の聖なる盾って……」

『アンデッドにダメージを与えられるぐらいだけど、決して塵に出来るような魔法ではないね』


 と、聖騎士さんがにっこりと笑って言う。


『つまり君や百年前の聖女様の魔法は、規格外ってこと』


 これまたにこやかに聖騎士さんが……。

 規格外!?


 うおおぉぉぉ!

 私、規格外の強さ!!!!


 ……でも、だったらなんでヴァルをあの時助けられなかったの?

 今もこの通路の先で、ヴァルツが苦しんでいるはずなのに、直ぐに助けに行けない。

 むしろ私は、ここで聖騎士さんに助けられている。


「規格外の魔法を使えても、私……ひとりじゃダメなんだ。私だけじゃ、誰も助けられない」

『聖女殿……』

「聖騎士さん、一緒に来てくれてありがとう。それと私、聖女じゃなくって美雪って言うの」


 聖騎士さんに習って、笑顔で応える。

 こんな戦場で笑い合えるなんて、なんか不思議。


『自分の力におごることなく、誰かの助けを素直に受け入れられる。それはとても大切なことだよミユキ』

「へへへ」

『ミユキ、僕はライリーだ』

「ライリー、さん……。うん、よろしくね、ライリーさん」


 お互い名前で呼び合ったことで、なんだか力が湧いてくる気がした。

 ライリーさんは光の使徒として、私と契約しているんだと思う。それもあって、より絆が深まったとかなのかな。


 だけど正直、きつい。

 こっちは二人。対するアンデッド軍団は、倒しても倒してもどんどん湧いて来る。

 湧くスピードより殲滅が追い付かないと先に進めない。


 どうすればいい……どうしたらいいの?


『ミユキ。ここには仲間がいる。そして妻も』

「ライリーさ……あっ!」


 レイスになってしまったさっきの冒険者たちとは違い、今ここに人のアンデッドはいない。

 ネクロマンサーから召喚されていないんだ。

 だとしたら私の――


「"暗闇に囚われし、尊き魂――"」


 さっき一度唱えただけの呪文。

 スキルボードにはない魔法だと思うんだけど、不思議と頭の中に呪文が流れ込んでくる。


「"光の使徒となりて、我と共に進まん。我が剣、我が盾となり、彷徨えし者に道を示せ"」


 光が通路いっぱいに広がり、そして――


『かぁーっ、久々じゃねえかライリー』

『やぁライリー。君とまた肩を並べられる日が来るとは思わなかったよ』

『……』

『僕もだよ、ヴォルフ、それにリヒト。カイザルは死んでも無口なんだね』


 屈強な戦士。ローブを羽織った魔術師。それから無口な……軽装だし、シーフ系の職業かな?

 いかにも冒険者風の人もいれば、ライリーさんと似たような鎧を着込んだ人たちまで十数人が現れた。

 その中にひとり、ライリーさんへと駆け寄る女の人が。


『ライリー。やっと会えたのね』

『フィレイヤ、遅くなってすまない』


 あの人が奥さんなんだ。よかった、再会出来て……ほんとによかっだよ゙お゙ぉ。


『お、おい、お嬢ちゃん大丈夫かい?』

『我々を召喚したのが、こんな涙もろい小娘なのか……あぁ、勇者召喚でこの世界に来た聖女なんだね』

「聖女じゃな゙い゙もん゙。ミユギだよぉ」

『ミ、ミユギか。よ、よろしくな?』

「ミユギじゃなぐっでぇ」

『ブォルフ、ミユキというんだ彼女は』


 はぁー、ふぅー……落ち着けぇ。

 こんな人前で大泣きして、恥ずかしい。


「ぐすっ。ふぅー、ふぅー……と、とりあえずみなさん、力を貸してくださいっ」

『はっ。そのために応じたんだ。もちろん手を貸すぜ』

『我々がここに残ったのも、ひとえにあの瘴気塊が気になったからだ。それを取り込んでおぞましく進化したリザードを浄化し、倒せれば――』

『オレ、成仏』

『うぉ!? カイザルが喋った!』

『……たまには』

『マジか』

『お前の声はでかすぎるから、カイザルみたいにたまには黙っててくれ』

『んなっ』


 あははは。この人たちがどんなパーティーだったのか、なんだか想像できる。

 いいなぁ、仲間って。ほんとに羨ましい。

 出来る事なら、この人たちが生きている頃に出会いたかった。

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