第26話:ご利用は計画的に

 ヒール砲を撃ち続ける事数分……。

 ゾ、ゾンビゴブリン……多すぎ……。


「"癒しの、光よ、かのものに届け"、はぁはぁ……"癒し、の、光よ、かのものに、届け"」

「おい、息切れしてんぞ」

「ぜぇ、はぁ……な、なるほど……」


 呪文の詠唱が必須なこの世界で、ヒール・バレットを連射攻撃用に使えば……


「い、息継ぎ……」

「あー……うん……あとは俺がやるから、そこで深呼吸してろ」

「ううぅっ」


 息継ぎもそうだし、声も枯れそう。

 大昔の先人司祭たちが、ヒール砲は持続使用出来ないと判断して後世に教えなかったんだろう。

 うん、きっとそう。


 うぅ、司祭なのにアンデッドにすら何も出来ないなんて。

 いや!

 そんなはずはない!


 ヴァルはゾンビゴブリンをぶっ倒してるし、今のうちにスキル探してみよう。


 えぇーっとえっと……お、あるじゃん。


 ターン・アンデッド!

 

 あれ?

 呪文が二つある。

 一つは『死霊よ、散れ』で、しかも効果範囲が扇状に広がるから数体まとめて倒せるみたい。

 更に連続使用するなら、以降は『散れ』の二文字でいいって書いてある。


 もう一つは『彷徨いし魂よ』から続く、少し長い呪文。

 内容を読む限り、鎮魂っぽい感じ。

 短い方は退魔ってとこかな。


 よし。


「さぁ、今度こそ私のター……」

「終わったから先に進むぞ」

「ノオォォォォォォ! せっかく……せっかくターン・アンデッドしようと思ったのにぃ」

「は? 使えるならさっさと使えばよかっただろうが。ゾンビどもは動きもとろいし攻撃パターンも雑だが、無駄にタフだから面倒くせーんだよ」


 面倒くさいなら残してくれればよかったのに。


「待てよ……。お前、もしかしてホーリー・ウェポンも使えたりするんじゃないだろうな?」

「ホーリー・ウェポン……ん-、確かぁ――んぎ」

「使えるのか」


 ヴァ、ヴァルの目が怖い。

 ホーリー・ウェポン。聖属性を武器に宿す付与魔法。効果はもちろん、対悪魔&対アンデッドに非常に有効!

 つまり今の場面でヴァルの武器に付与してたら、めちゃくちゃ彼は戦闘が楽になったはずだねてへぺろりん。


「つ、使えないよー」

「嘘つけ」

「んぎぎぎ。頭を鷲掴みすんなっ」

「次は初めからエンチャント頼むぞ」

「りょ、了解したであります」

「やっぱり使えるんじゃないか」


 誘導尋問に引っかかってしまった!?


「だ、だって普段使わないし、い、いろいろありすぎて優先順位の高い魔法の呪文しか覚えてないんだもんっ」

「ほとんどの呪文、忘れてるんじゃないだろうな」

「だ、大丈夫。ちゃんと思い出せるから」


 むしろこれから覚えていく感じなんだけどね。

 覚えられなくても、スキルボードがあるからカンニングし放題だし。


「ん? ど、どうしたのヴァル。なんか不審そうな顔でこっち見て。あっ、ちゃんと思い出せるから。うん、ちゃーんとね」

「……魔導書も聖典もないのに、どうやって思い出すんだよ」

「え……えぇっと……記憶! そう、記憶力いいから。へへ」

「ふーん」


 あ、今私、墓穴掘った気がする。

 記憶力いいのに呪文忘れるのかよっていう、ヴァルの無言のツッコミが聞こえるうぅぅ。


「まぁいいか……。とりあえず――ちっ、ネクロマンサーか」

「え、え!?」


 後ろを振り返って、ヴァルが舌打ちする。

 彼が忌々しそうに見つめているのは、さっきまで戦場だった場所。

 でも私の聖なる光は届いてなくて、真っ暗闇なんだけど……。


「ヴァル?」

「ぶっ倒したゾンビどもの死体がなくなった」

「え?」

「お前のヒール砲とやらで倒した奴は塵になって消えたが、それ以外の死体が残ったままだったんだ。まぁそれは当たり前なんだが、今はその死体が消えてなくなっている」


 引き返すヴァルの後を追うと、確かにゾンビゴブリンの死体がひとつもない。

 場所が違う訳じゃない。だって地面には体液っぽいものの跡がいくつも残っているから。


「ネクロマンサーって、死霊術師のこと?」

「あぁ。死体が一瞬で消えるってのは、ネクロマンサーが召喚したからだろう。気を付けろ、どこから出てくるか分からねぇぞ」

「ブレッシング、掛けなおしとく」


 ついでにホーリー・ウェポンの呪文も見ておこう。

 ヴァルと自分にブレッシングを掛けなおして、私には聖なる盾も再付与。

 それからヴァルがまっすぐ前を見ている隙に、スキルボードを呼び出してホーリー・ウェポンの呪文も見て――


 視界の隅に、青白いものがぼぉっと浮かんで見え――人?


「ミユキ!!」


 一瞬だけ見えた青白い人――鎧を身に着けたその人は確かに言った。


「違うっ。ヴァルよ!」


 君ではない、彼だ――と。


 私に手を伸ばそうとするヴァル。

 だけど次の瞬間、彼は地面に吸い込まれた。


「ヴァルウゥゥゥッ」

「逃げろっ。外にで――――」

「ダメっ。すぐに行くから、待っててっ」


 言い終えるよりも先に、ヴァルを飲み込んだ地面の穴が塞がった。

 う、そ……ヴァル……ヴァルが……。


『ゔ、ゔぁぁ』


 !?

 さっきまでモンスターなんていなかったのに。

 

「ほんっと、どこから出てきたぁ!?」


 さっきはゴブリンのゾンビだったけど、今度はなに!

 なんか蜥蜴っぽいのがいる。これリザード?

 それとは別に、どう見ても人間のアンデッドも混ざってるね。こっちはゾンビじゃなく、ゴーストタイプだけど。


「はは。つまりヴァルと引き離して、ひとりずつやろうって訳ね」

『ぁ゙ゔゔあ゙ぁ』

「そう簡単にやられるもんか! "邪を祓う聖なる光を宿せ"」


 ペッカーッと光る、木の枝。


「しまったあぁぁぁ。私、武器持ってないじゃん!!」


 聖なる光を灯した木の枝は、聖属性を付与されてさらに神々しく輝いた。




***********

年明け、元旦の0:01にも予約しております。

もちろん、いつものお昼更新も行います。

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