第17話:迷子になる自信しかない

「ね、もう少し奥に行ってみようよ」


 翌朝、アリアの提案で少しだけ森の奥に進むことになった。

 ニーナと私は反対したんだけど「大丈夫、平気」の一点張りでアリアはどんどん行っちゃうし、結局追いかける形で奥に進んでしまった。


 あと、なんか忘れてる気がするんだけど、なんだったか思い出せない。


「やっぱり奥の方が、薬草の数も多いでしょ」

「そうだけどぉ。もうこれ以上行かないでよぉ」

「ニーナ、大丈夫よ。この辺りは明るいし、モンスターがいるならもっと奥の方だもの」

「むぅ……。ミリーがそう言うならぁ、いいけどぉ」


 確かにこの辺りは、木々の隙間からたくさん木漏れ日が落ちてて薄暗くもない。

 振り返ればまだ、森の外も見える範囲だね。

 でもこれ以上は進みたくない・・・・・・

 何故かそう思ってしまう。


「ねぇ、熱冷ましの薬草って、あとどれくらい集めるの?」

「そうねぇ。この袋いっぱいになるまで集めたいんだけど、具体的にどのくらい入るか分からないの」

「え……じゃ、今ってどのくらい集まったの?」

「出してみないと分かんない」


 ぐはーっ。

 私の鞄は、手を突っ込めばインベントリみたいなのが開いて、何が何個か分かるんだけど。

 でも草だとどうなんだろう? しかも株じゃなくって、葉っぱだけぽろっと取れてるのもあるし。


 あっ!?

 お、思い出した!!


 ゴブリンが蓄えてた宝石!!

 ヴァルの分渡してないいぃぃ。


 何か忘れてると思ったら、それだったのか。

 あっちゃー。ハトに戻ったら急いでヴァルを探さないと。


「どうする? 今日も野宿して、明日のお昼まで薬草集めする?」

「食料もあるし、それでいいと思う。いいよね、ミユキ?」

「え、うん。……いいよ」


 本当はちゃんとベッドで寝たい。

 だって草の上の直接寝るから、体すっごい痛いんよ!

 でもそれは、冒険者として頑張るって決めたんだから我慢しなきゃいけないところ。


 とはいえ、せめて寝袋ぐらい欲しいよなぁ。

 そういうのってこの世界にも売ってるのかなぁ。

 ハトに戻ったら探してみよう。


「じゃ、この辺りでお昼ご飯にしよっか」

「さんせーい」

「私ぃ、枝集めるねぇ」

「ミユキ、水汲みに行きましょう。地図だとこの辺りに泉があるみたいだから」

「あ、うん」


 ミリーと二人で地図を頼りに泉を探す。

 森の中でよく方角とか分かるなぁ。

 自慢じゃないけど、私にゃどっちがどっちなのかさっぱりだよ。


 歩き出してわりと直ぐ、右前方の方で小さな女の人が手を振っているのが見えた。

 ヤバい……あれはモンスター? それとも幻覚?

 目を擦ってもう一度見てみると、やっぱり女の人がいる。


 いや、でもあの人、水っぽい。


「ウンディーネ?」


 ぼそりと呟いた言葉に、女の人は大きく頷いて手招きしてる。


「どうしたの、ミユキ」

「あ、うん。えっと、泉ってあっちの方じゃないかな?」

「んー……あ、本当だ。あっちみたい」


 精霊は自分の属性に関係する場所に存在する――とヴァルが言っていた。

 まぁファンタジー設定でも定番のものだしね。


 ウンディーネがいるってことは、近くに水があるってこと。

 手招きする彼女の近くまで行くと、すぃーっと宙を飛んでいく。ウンディーネって飛べるんだ、いいなぁ。


「泉はっけーん。これで水も確保ぉ」

「ありがとう」

「えぇ、お礼なんてむしろこっちの方よぉ」


 私が言ったお礼は、ミリーにではなくウンディーネになんだけどね。


「水汲み終わり。えっと、どっちだっけ」

「ミ、ミリー。大丈夫? 私、自慢じゃないけど方向音痴だから、ミリーが頼りなんだよ」

「えぇー、ミユキって方向音痴だったの? それは大変ね。ふふふ、大丈夫。えっと――あっちだったかな」


 ひぃー、なんて不安な言い方っ。

 ミリーが歩き出すと、泉の水がぷくんと盛り上がってすさささーっとウンディーネが飛び出した。

 まるで「そっちはダメ」という様に、小さな女の人が両手を広げる。

 でもミリーには見えていないらしく、気にせず歩いてる。


「ミ、ミリー、本当にそっち?」

「え……あ、こっちだった。ごめんごめん。地図の向き間違っていたわ」


 改めてミリーが地図を見直して向きを変えると、ウンディーネは安心したように両手を下ろした。

 はぁ、よかった。

 町の中で迷子になるのと、森の中で迷子になるのとでは全然違うからね。

 さすがに迷子になることに慣れてても、森ではそうなりたくない。


 泉に背を向けて歩き出した時、突然森の中に何かの声が響き渡った。


「うぎゃっ……ビックリした」

「た、ただの鳥よミユキ。驚かない、驚かない」


 鳥……あ、ほんとだ。

 空を見上げると、木々の隙間から鳥が飛んでいくのが見える。

 さっきウンディーネがとうせんぼした先から飛んで来たみたい。たくさん飛んでいくなぁ。


「早くみんなの所に戻ろう」

「うん。お腹空いたねぇ」

「空いたぁ~」 


 そんなことを話しながら、アリアたちの待つ場所へと急いだ。

 何故か少し不安を感じながら……。


 そしてその不安は的中する。


「アリア、これ毒キノコだから!」

「えぇー。でも赤くて綺麗じゃない」

「綺麗なのはぁ、やばばぁって教えたのにぃ」


 ニーナが枝拾いをしている間、暇だからってその辺に生えてるキノコを採っていたアリアだけど、鑑定するまでもなくヤバそうな色味のものばかり。

 鑑定したら案の定、毒キノコよ。


「枝拾いをアリアちゃんに任せて、ニーナがキノコ集めすればよかたのよ」

「ニーナだったら大丈夫っていうの!」

「少なくとも、森を知ってるニーナの方が安心よ。ねぇ、ミユキ」

「え……うぅんと……」


 あぁ、アリアが不貞腐れちゃったよ。

 まぁ九割は毒キノコだけど、一割は食べられるんだよね。

 枝に刺して焼いたけど、醤油が欲しいところ。せめて塩でもあればなぁ。


 お腹を満たした後もアリアの機嫌は直らず、不貞腐れたまま。

 こうなると――


「私、あっち探すからっ」

「え、ちょっとアリアちゃんっ。ひとりで勝手に行かないでよっ」

「あぁん、アリアぁ、ミリーぃ、待ってよぉ」


 アリアがひとりで薬草を探すと言って走り出し、それをミリーとニーナが追いかける。

 そんな三人を私が追いかけるのは当然。

 ひとりで置いていかれたら、迷子になる自信しかないからね!

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