第16話:安定の鑑定スキル


 この世界で生きていたら、足腰が鍛えられそうだ。

 とにかく移動といえば徒歩。

 車も電車も、自転車さえない。

 乗合馬車は二、三日に一便だし、結構高いらしい。

 だから歩く。ほとんどの人が歩く。


「だけどミユキの魔法のおかげで、ぜんっぜん疲れないねぇ」

「ほんと~。いいなぁ、ミユキは。こんな魔法も使えて」

「いやぁ……。実はブレッシングが疲労軽減効果もあるって、知らなかったんだよね。もしかして、と思って使ってみたんだけど」

「え、じゃあ今までずっと、普通に疲れてたの?」

「そういうこと」


 ハトの町から西に向かって移動中。

 彼女らは既にギルドからの依頼を受けていて、その内容は薬草の採取。

 もうすぐ訪れる冬に備えて、解熱作用のある薬草がたくさん必要になるらしい。


 薬草は西に半日ほど行った先の森に生えてて、三人と知り合ってすぐ出発した。

 

「あっ。ほら、見えてきた。あの森よ。さぁ、頑張っていっぱい採取するわよぉ」

「張り切る前にアリアちゃん、どの薬草を採取するのか確認してる? ギルドで貰った写しえちゃんと見た?」


 三人のうち、リーダーっぽい子がアリア。

 剣を学んだってことで、職業としては剣士――戦士じゃなくって剣士、というのが本人談。


「見たってば。ミリーってばお節介すぎ」

「この前は確認してなくって、雑草をいっぱい摘んでたじゃない」

「あぁんもう。見る、ちゃんと見るってば」


 しっかり者なミリーもアリアと同じく剣を学んだことがあって、でも使うのは短剣。

 すばしっこいから、それを生かしてらしい。


「二人ともぉ。森に入る前に野宿する場所ぉ、決めなきゃだよぉ」


 最後のひとりがニーナ。

 お父さんが猟師で、子供のころから弓は得意なんだって。


「そんなの、暗くなる前でいいじゃない。それより、少しでもたくさん薬草を採るのが最重要よ」

「薬草って重さで報酬が決まるんだっけ?」


 そう尋ねると、ミリーが頷いた。

 何本、ではなく、何グラムでいくらになるって。

 確かにそれだと、少しでもいっぱい採取したい。

 お金のこともあるけど、解熱剤の材料だからね。多い方がいいに決まっている。


 森に到着してから、ブレッシングを掛けなおす。

 結構大きな森だけど、奥の方に行かなければモンスターと遭遇することもない――とギルドの人が教えてくれたらしい。

 

 みんなで写しえを見ながら、薬草を摘み取っていく。

 似ているただの草……なんてことがないのか、ちょっと不安。


「ギルドに持って行けばちゃんと鑑定してくれるから、間違っててもへーきへーき」

「なるべく間違わない方がいいに決まってるでしょっ。薬草じゃないものは買い取ってもらえないんだから。アリアは楽観的すぎ」

「ミリーが神経質すぎるのよ」


 私はどちらかというと、ミリー派かなぁ。


「鑑定のスキルぅ、あると便利なんだけどねぇ」

「鑑定?」

「そう、鑑定ぇ。魔法みたいなものだから、使えるのは魔術師かなぁ」


 魔法スキルなのか。見てみようっと。

 三人が薬草を探している間にスキル一覧を確認っと――あった!

 お、呪文簡単すぎぃ。

 ただ手に取ったものしか鑑定出来ないってあるから、面倒くさそう。


 それっぽい草に触れて「"鑑定"」と呟く。

 吹き出しみたいなのが浮かんで『ソウラ草:解熱剤の材料になる』と文字が。

 よし、正解!


 この草、一本だけぽつーんと生えてるタイプじゃなくって、クローバーみたいにまとまって生えてるね。

 念のため傍に生えてる見た目同じやつを鑑定したら、全部ソウラ草だった。


「ね、この辺の草ってそうじゃないかな?」


 三人を呼んで、ソウラ草を指さす。

 ミリーが写しえと見比べてから、笑みを浮かべて「うん、この草みたい」と。


「へぇ、まとまって生えてるのね」

「これならぁ、いっぺんにたくさん摘めるねぇ」


 根っこを残していれば、また生えてくるらしいので葉っぱだけを摘み取る。

 摘み取ったソウラ草は、ギルド支給の巾着に入れる。


「それ、マジックアイテム?」

「そうなの。一種類しか入れられないんだけど、見た目よりすっごく入るの。それに一〇日間は鮮度が保たれるんですって」

「へぇ。鮮度ってことは、枯れないってことかな」

「うん。目標は、袋に入らなくなるまで!」


 すっごく入るの「すっごく」がどのくらいなのか次第だけど、少なくともここに生えてるソウラ草の数倍分は摘み取りたいね。






「いっぱい採れたわね」

「袋の中にどれくらい入ってるかわかんないけどね」

「あはは、それは言えてる」


 暗くなる前に森を出て、少し離れた場所で野宿。


「ミユキがいてよかったぁ。薬草の見分けとかって、誰かに教わったの?」

「え、あ、うん。私、すっごい田舎から出てきたの。だから解熱用の薬とか、自分で集めなきゃいけなかったからさ」


 鑑定は魔術師の魔法スキル。

 一応、司祭ってことで自己紹介してるし、鑑定スキルのことは伏せてある。


「へぇ、そうなんだ。私たちはレーゼンっていう小さな町の出身なの」

「じゃあ、三人は幼馴染みたいな?」

「かなぁ。まぁほんとに小さな町で、学び舎もひとつしかなかったもん。ねぇ」

「うん。だから町の子みんな友達だったものね」


 いいなぁ、幼馴染で冒険者って。


 男主人公と幼馴染のヒロインが、揃って冒険者になるってのはよくあったな。

 で、主人公は不遇職とか不遇スキルで、幼馴染に捨てられるとかなんとか。


 私は不遇職じゃなかったけど、捨てられたな……。

 しかも捨てた相手は幼馴染でもなければ、男でもない。

 同性のお姫様に捨てられたよ!!


「ねっ、ねっ。ミユキと一緒にいた人って、お兄さんだよね?」

「え?」

「お兄さん、カッコいい人だよねぇ」

「ちょっと怖そうだけど、クール系イケメン」

「え、あ……」


 もしかしてヴァルのこと!?

 いやいや、お兄さんって……あ、同じ黒髪だから、そう見えるのかな。


「あの、あのね――」

「ふわあぁぁ、そろそろ寝ようかぁ」

「じゃあ交代で見張りね。最初誰が行く?」

「私ぃ、まだ眠くないからいいよぉ」

「じゃ最初はニーナね。ミユキ、二番目でもいい?」

「え、あ、うん。いいよ」

「三番目はアリア。最後は私ね」

「よし、おやすみぃ」

「おや……あの……ぇ」


 うそん。アリア、もう寝息立てて寝てる!?


「ミユキも早く休んでね。じゃ、おやすみぃ」

「みんなおやすみぃ」


 …………。

 どうしよう。三人とも勘違いしたまんまだよ。

 明日、誤解を解いておかないと。


 にしても、カッコいい人かぁ。

 やっぱり世間一般的には、そう見えるんだようねぇ。

 ちょっと怖そうだけどっていうところには、笑っちゃうけど。

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