第15話:新しいパーティー

「銀級冒険者ヴァルツさんのご推薦、確かに承りました。それでは、一応適正を見させていただきますね」

「はい」


 ドキドキする。適正試験って、何するんだろう?

 ハトぽっぽに到着した翌日、さっそくヴァルに冒険者ギルドへ連れて行って貰った。

 推薦自体は凄く簡単で、まずはヴァルが冒険者カードを見せてランクの確認。

 それから受付の人に「こいつを冒険者に推薦する」と言って終わり。

 そんなんでいいんかい!


「それでは、ちょうど先ほど、同僚が紙で指を切りまして。ねぇオリバー」


 もしかして、その切った指の治癒なのかな?

 

「なんだ、セイユ」

「あなたさっき、指を切ってたでしょ。この子、神聖魔法が使えるらしいの。適正試験をしたいから、ちょっと指出して」

「あぁ、なるほど。もう血は止まっているんだけどね」


 オリバーっていうギルドの人が、指先に巻いていた絆創膏みたいなのを剥がす。

 あぁ、意外と深く切ってるねぇ。これは痛そう。


「えと、いいですか?」

「はい、どうぞ」

「じゃ――"癒しの光よ"」


 ぽぉっと光がオリバーさんの指先を包む。

 すぐに傷が消えると、彼は指を何度も動かした。


「うん、痛くないし傷が開く様子もないね。しっかりした魔法だ」

「そうね。ミユキさん、ありがとうございます。では冒険者カードをご用意いたしますので、お待ちください」

「今のだけでいいんですか?」

「はい。魔法の流れを観察させていただきましたが、とてもスムーズで実力は確かだというのが分かりましたので」


 見ただけで分かるんだ。いやぁさすが冒険者ギルドの受付嬢。

 あ、カードと言えば……。


「ねぇヴァル。もしかしてまた血がいるとか?」

「我慢しろ」

「ううぅ、やっぱりぃ」


 受付の人が戻ってくると、その手にカードと、それから針を持っていた。

 そ、それをぶっ刺すの!?


「それでは、手をお出しください。大丈夫、すこーしチクっとするだけですからねぇ。うふふ」


 この人、めちゃくちゃ笑顔なんだけど!

 こわっ、こわあぁぁぁ。


「怯えんな。じっとしてろ」


 ヴァルに頭をがしっと掴まれ、受付の人には腕をがしっと掴まれ……。

 逃げられないこの状況で、指先に針を刺された。


「ィ……」

「はい、じゃあカードに血を塗ってくださいね」

「……ぁい」


 ぷくっと盛り上がった米粒ほどの血を、カードに塗る。

 塗った血はカードに吸い込まれるようにして消えると、そこに「ミユキ」という文字が浮かんだ。

 もちろん、ひらがなでもカタカナでも漢字でもない。この世界の文字だ。


「はい、ここに石のマークがありますね。これが今のあなたの冒険者ランクです」

「へぇ。ランクが上がったら絵が変わるんですか?」

「そうです。あ、治癒してもいいですよ」

「はいっ」


 すぐに治癒。

 後ろでヴァルが「その程度で」と呆れたように言った。

 うっさいなぁ。治癒魔法持ってんだからいいじゃん。


「ランクアップするためには、一定数の依頼数をこなすことが最低条件です。そのうえで、ギルドが指定した試験用の依頼をやっていただきます」

「はい。ヴァルに教えて貰っていたんで、大丈夫です」

「そうですかぁ。ではこれも教えていただいておりますかぁ?」

「え、え?」


 なんか口調が、急に変わった。


「一年間、ランク毎に指定された依頼をひとつも受けていないとぉ……」

「う、受けていないと?」

「……ぁ」


 なんかヴァルが思い出したみたい。

 それを見た受付の人が、なんだか嬉しそうな、それでいて怒っているようにも見える笑みを浮かべた。


「うふふ。ランクダウンいたしまぁす。そうですよねぇ、ヴァルツさん」

「しまった。もうそんな時期だったのか」

「え、じゃあヴァルはこの一年、ギルドの依頼をやってなかったの?」

「ふ、普通の依頼はやっていたさ」

「指定された依頼を、最低でもひとつは受けていただかないと」


 ヴァルは大きなため息を吐いて「面倒くせーんだよ」と。

 高ランクになればなるほど、指定された依頼の難易度が上がる。

 中には一カ月ぐらい掛かりそうなものもあるらしく、それが嫌なんだって。


「好き嫌いの問題じゃないと思うよ」

「そうです。かわいい後輩のお手本にならなくてはいけませんよ。あ、悪いお手本にはなっていますねぇ」

「ぷっ。悪い先輩だぁ」

「……ォ前らぁ」


 冒険者ランクが下がるのは一度だけ。

 ランクダウンから半年以内に依頼をやらないと、今度は冒険者登録が抹消される。

 結構厳しいんだな。私も気を付けないと。


「という訳ですので、お二人でパーティーを組む前にヴァルツさんは銀級ミッションを受けてくださいね」

「いや、別に俺たちは……」

「銀級指定の依頼をいくつかお持ちしますので、そちらから選んでくださいね」

「……はぁ、分かったよ」


 じゃあ、ヴァルとはここでお別れ……か。

 受付の人が奥に行くと、ヴァルが「こっちだ」と壁際へ移動する。


「壁に張り紙がしてあるだろ。ギルドが仲介する仕事内容が書いてある。推奨ランクや報酬についても書かれているから、よく見て自分で受けられそうな紙を取って受付に持って行くんだ」

「なるほど。パーティー推奨ってのもあるんだね」

「あぁ。お前はひとまず、薬草採取とかのお使い系をやっておけ」

「うん、そうする」


 ゲームでもお使いクエストは基本だからね。


「それからあっちのボードが……」

「あっち? お、パーティー募集だ!」

「……あぁ。まぁ……じっくり吟味して探せ」

「うん。ヴァル、何から何までありが――」

「もしかして、パーティー探してるの!?」


 ヴァルにお礼を言おうとしたら、すぐ後ろで元気な女の子の声が聞こえた。

 私に言ってるのかな?

 振り返ると、同年代の女の子三人組がこっちを見てる。


「私たちも一カ月前に、冒険者登録したばかりなの」

「さっき受付の人に、神聖魔法掛けてたよね?」

「あ、うん」


 見てたのか。

 でも同年代の女の子三人……これはアタリかも。

 男ばっかりのパーティーに入るのは不安がある。それに、あんまり年上過ぎる人たちばかりってのもね。


「ヴァル……」

「あぁ、いいんじゃないか。女同士なら、お前も安心だろ」

「うん。あのね、あの……ありがとう」

「……あぁ。そうだお前、聖水は作れるか?」

「聖水? えっと――」


 確か『聖なる雫』って魔法が、聖水を作るやつだったはず。


「うん」

「そうか。俺もしばらくこの町を拠点にするつもりだ。時間があるときでいい。聖水を作ってくれないか?」

「もちろん。でも聖水なんて、何に使うの?」

「あ、聖水があると瘴気を払えるんでしょ? 高ランクの冒険者ともなると、瘴気に侵されたモンスターを相手にすることもあるから。ですよね?」


 と、私たちの間に女の子がひとり割って入る。

 腰に剣を刺してるし、戦士系の子かな。


「あ、あぁ。ゴブリンキングのこともあるしな」

「あっ」


 そうだった。あのゴブリンキングは、瘴気で進化したって言ってたっけ。

 あの時は私がいたから浄化出来たけど、聖水が浄化の代わりになるってことか。


「分かった。じゃいっぱい作っておく。ヴァルは安心して、ランクダウンしないために依頼を受けるんだよ」

「だからお前は一言余計だ」


 ちょうどその時、受付の方からヴァルを呼ぶ声が聞こえた。

 銀級指定の依頼を集めてきたんだろうな。


 ヴァルがぽんっと私の頭を叩く。

 いや撫でる――と言った方が近いか。


「子供扱いすんな」

「はっ。まだガキだろ」


 この世界の成人は、いったいいくつ何だろう。

 十七歳はガキですか?


「無茶……すんなよ」

「分かってるって」

「……じゃあな」

「ヴァルも頑張ってねっ」


 くるりと踵を返したその背中に声をかける。

 ヴァルは振り返ることなく、右手を軽く上げて応えた。


 ありがとうヴァル。

 私も頑張るね。


「私、ミユキっていうの」


 三人の方へと振り返りながら、自己紹介をした。

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