第14話:狼推し

「え、推薦?」


 宿の食堂で夕飯を食べながら、冒険者に登録する方法をヴァルに尋ねた。

 するとヴァルが、推薦してやる――と。


「冒険者に登録する方法はいくつかある。一番面倒なのは、金を払ってさらに試験を受けることだ。といってもまぁ、ギルドからの依頼をいくつかやればいいだけなんだがな」

「お金って、高いの?」

「まぁそこそこだな。金がなければ受けさせられる依頼数が増えるだけだ。とはいえ、ヘタすると半年ぐらい掛かることになる」


 おぉう。この世界の冒険者ギルドは、書類に必要事項書くだけじゃダメなのか。

 逆に大金を積むことで登録することも出来るって。

 この辺りは金持ちのぼんぼんが、手軽に冒険者の肩書を手に入れるためのもの。


 で、最後に――


「現役且つ銀級シルバーランク以上の冒険者からの推薦を受ければ、簡単な試験だけで登録が出来る」

「シルバー……えっと、ランクがそもそも分からないんだけど」

「あぁ、そうだな。冒険者に登録すると、まずは石級ストーンランクだ。次がブロンズ、それからアイアンシルバーゴールドと続き、最後はミスリルになる」


 へぇ。この世界の冒険者ランクは、鉱石系の名前なんだね。

 ランクアップは一定数の依頼を失敗せず完遂することと、ランクアップ専用試験を受ける事らしい。


「銀級は全体の5%程度。金とプラチナに至っては、合わせても0.5%未満だ」

「ヴァルは?」

「……銀」


 おおぉぉ!

 いやいや、照れなくってもいいじゃん。


「じゃあヴァルが推薦してくれるってこと?」

「まぁ、な」

「本当! やったぁ、嬉しい」


 ヴァルが頷く。

 推薦があれば登録料は取られないし、試験も簡単。

 

「試験ってどんなかなぁ」

「適正試験って聞いたが、実際受けたことがないからどんなものかは知らん。まぁお前なら大丈夫だろ」

「適正? 職業適性とかかな。魔法使えるかどうかとか」

「そんなもんだろう。……」


 ん? なんか急に黙って、どうしたんだろう。


「お前、精霊と契約してんのか?」

「え? 精霊……あ、あぁ、ううん、まだ。っていうか、どうやって精霊と契約するかも分からないし」

「は? お前、精霊を見たことないのか?」

「えっと……」


 地球には精霊とかいないからぁーっとは言えないし。


「師匠って奴が教えてくれなかったのかよ」

「あ、師匠! そう、師匠ね。えっと、師匠が言うには、私には精霊使いの素質があるんだって。でも師匠自体は精霊魔法が使えなくって。だから教えてくれなかったんじゃなく、教えられなかったが正解」

「はぁ? ったく、なんだそれは……」


 ちょっと無茶過ぎる?


「まぁ……他人のことをとやかく言っても仕方ねえか。精霊ってのはな、どこにでもいるもんだ。たとえば、この食堂にもな」

「え? ど、どこ?」


 辺りをキョロキョロして、それらしいものを探す。

 精霊いるの?

 どこだろうと思って食堂内を隅々まで見ていると、壁に掛けられたランタンにトカゲがくっついているのが見えた。

 そのトカゲ……燃えているように見える。


「ヴァ、ヴァル……トカゲが燃えてるっ」

「あぁ、火の精霊サラマンダーだ。精霊師なら無条件で見えるという訳じゃない。ちゃんと見ようとしなきゃならないんだ。ちなみに他の客には見えねえから、あんまり騒ぐなよ」


 おぉ、あれが火トカゲ!

 ちょっとデフォルメされた感じでかわいい。

 ――ん?


「ヴァルは見えてる?」

「え……い、いや。燃えるトカゲと言えば、火の精霊しかいないだろ」

「あぁ、そういうことか。どうやって契約するんだろう?」


 スキル欄を開いたときに触れてみたけど、特に呪文もないんだよね。


「契約自体は、そう難しいことじゃない。資格があって、あとは契約したいと伝えれば出来る」

「資格?」

「精霊魔法を使えるかどうか、だ。ただしそれは下位の精霊に限ってで、上位精霊との契約には試練が科せられる」

「火トカゲは下位の精霊だよね? よし、試しに――」

「お、おいっ」


 立ち上がって火トカゲのいるランタンの方へ行こうとすると、ヴァルに手を掴まれた。


「ん? なんかマズい?」

「い、いや……。は、初めての契約精霊は、慎重に選んだ方がいい」

「そうなん?」

「あぁ。精霊師が初めて契約した精霊は、成長するんだ。精霊はそれ以外の方法で成長することは、まずない」


 成長……なるほど。だったら確かに慎重に選んだ方がいい。

 具体的にはパワーアップらしいから、戦闘向けの精霊がやっぱりいいよね。

 あと見た目も大事。

 そう。たとえば……


「猫みたいな外見の精霊って、いないの?」

「……は?」

「ほら、ケットシーとかさ」

「……ケットシーは幻獣だ」


 違うのか。


「だいたい、なんで猫なんだ」

「え、かわいいから」

「そんなことで決めるのか、お前は……だ、だったら狼はどうだ?」

「狼? んー……あっ、もしかして銀狼フェンリル!?」


 あれも精霊として扱われている作品、あるもんね。

 この世界でももしかして精霊だったり?


「別に銀狼だけがフェンリルとは限らないだろっ」

「え?」


 なんか怒ってる?

 いや、なんで?


「ぁ……す、すまん。く、黒いファンリルだって、いるのさ」

「あ、そうなんだ。ごめん、知らなくって。へぇ、黒いフェンリルかぁ。あ、フェンリルってことは、属性は氷?」

「そうだ。フェンリルは精霊の中でも希少な、肉体を持つ精霊だ。氷属性の魔法はもちろんだが、純粋に牙や爪での攻撃も出来る」

「へぇ。じゃあ前衛としても、後衛としても優秀って訳か」

「ふっ、そういうことだ」


 ん? なんでヴァルがドヤってんの?

 その後も何故かヴァルはフェンリルを推す。

 大きな狼だから背中に乗れるだの、夜目も利くから夜道もしっかりサポート出来るだの、鼻が利くだのetc。


「ヴァル……めちゃくちゃフェンリル好きじゃない?」

「はっ。いや、これはその……」

「そうか。ヴァルは犬派なのか。私は猫派なんだよねぇ」

「犬!? いや、フェンリルは狼だろっ」

「だから犬じゃん。狼ってイヌ科なんだし」

「なっ……いや、そう、だが……いやでもやっぱり犬じゃねえだろ」

「犬だよ。あぁー、どっかに猫みたいな精霊いないかなぁ」


 猫がいないなら、トカゲでもいいけどなぁ。

 爬虫類、好きだし。

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