第13話:誰かと旅をする方法(12/21:21時17分更新)


「いったぁ」

「我慢しろ。ほら、カードに血を垂らせ」


 幸薄いあのお兄さんがくれた鞄の中にあったカード。

 あれってば王国発行の通行証だった。


「ったく。発行して貰ったのに、登録し忘れていただと? 盗まれでもしたらどうするつもりだったんだ」

「いや、はははははは。なんせ田舎から出て来たもんだから、いろいろとよく分からなくって」

「まぁ鞄の中に入れときゃ、盗まれることもないだろうがな」

「マジックアイテムだから?」

「あぁ。その鞄は空間収納機能の他にも、一定の魔力を持ってなきゃ開けることが出来ないようにもなっている」


 ほーん、そんな話聞いてないけど。

 もし私の魔力が低かったらどうしたのよ!

 あ、だからあの時、開けてみてって言ったのか。


「もう治癒していいぞ」

「え、これだけ? 血を垂らしただけでいいの?」

「あぁ。今カードには通行証という文字が浮かんでるだろう」

「うん」


 不思議とこの世界の文字は読める。

 カードにはアルケパキス王国発行の通行証だと書かれていた。


「貸せ」

「あ、うん」


 ヴァルにカードを渡すと、途端に文字が消えた。


「おぉ?」

「これもマジックアイテムだ。カードの持ち主以外が手にすると、ただの鉄板になる」

「盗難防止かぁ。へぇ、凄い」

「血を垂らした後の通行証には何の価値もないが、さっきの状態で盗まれればいくらでも悪用出来るからな」


 だから未登録状態で持ってたのを、ヴァルに怒られたのか。

 幸薄お兄さん、そんな大事なことはちゃんと渡すときに教えろっての!


「じゃ、ハトに入るか」

「ぽっぽ」

「だからその鳩じゃねえと……はぁ、行くぞ」


 町へは通行税が発生する。ただし通行証のカードを持っていれば半額に――というのをヴァルから聞いて、カードのことを思い出したって訳。

 しかも王国発行のものだと、国内に限って無料になるって。


 ハトの町も壁に囲まれていて、門からしか出入りすることが出来ない。

 門番が数人がかりで通る人を簡単に調べて、お金を受け取り、中へと通していく。

 私はカードを見せて素通り。ヴァルも何かカードを出していたけど、お金も払っていた。


「俺のは冒険者カード。身分証みたいなもんだ」

「ふぅん」


 町に到着したのは、夕方にはまだ少し早い時間。

 でも朝からずっと歩いてたし、さすがにもう疲れた。


「さて、ハトの町まで案内はしてやったが……お前、これからどうするんだ?」

「え? あ……」


 そうだ。ヴァルは町まで案内してくれた、ただの通りすがりの冒険者。

 ここでお別れ、か。


「お前、旅をするにしろひとりは止めとけ」

「まぁ私も出来ればそうしたいんだけどさ」


 でも現実問題、この世界に友達なんかいない。


「あのぉ、誰かと旅をしたい場合って、どういう方法がある?」

「そりゃ……あぁ……」


 ん?

 ん……あっ!

 しまった。ヴァルはソロだったんだ!

 きっとパーティーなんか組んだことないんだろうし、そんな人に向かって「誰かと一緒に旅する方法」を聞くとか酷いことしたな。


「おい、なんだその顔は」

「ううん、なんでもない。ごめんねヴァル。今の質問は忘れて」

「おいっ。その同情するような目で見るなっ」

「見てないみてない。あとはひとりで考えるから大丈夫」

「いいや俺が教える。だから待て、おいっ」


 とりあえず宿を取ろうっと。さすがに足が棒になってしまう。


「あ、そうだ。町まで案内して貰ったし、今夜の宿代は私が払うよ」

「いい。ガキに宿代たかるほど貧乏でもないんでね」

「町までの案内を依頼されたと思ってさ。報酬貰うのは冒険者としては当たり前でしょ?」

「……はぁ。分かったよ。それでさっきの話だがな、まさにそれだ」


 さっきの話?


「だから、誰かと旅をする方法だ。冒険者登録をしてパーティーを探すって手もあるが、他にも、ギルドで護衛を雇うという方法もある」

「あっ、そっか。人を雇うって手もあるんだね。でも目的地とか特に何にもないんだけど、それでも雇える?」

「護衛を引き受けるかどうかは、そいつ次第だ。まぁ……みたいになんの目的もなく、ぶらぶらしているだけの冒険者もいるからな」

「ふーん。確かにヴァルは暇そうだね」

「一言余計だ」


 こつんっと頭を叩かれた。

 だって本当のことじゃん。

 ヴァルもハトの町に用事があるみたいなこと言ってたけど、村がゴブリンに襲われてたら助けに行ってたし。

 急用ではなかっただけ?


「ヴァルはこの町に用事があったんじゃ?」

「俺が? いや――あ、あぁ……ギルドで適当な仕事を探すためにな」

「依頼を受けるために?」

「そうだ。金に困っている訳じゃないが、ギルドに登録している限り、ある程度の依頼はこなさなっきゃ登録を抹消されるからな」


 そういう縛りもあるんだ。


 やっぱり冒険者になるのが、手っ取り早そう。

 護衛を雇うお金はたぶんあるだろうけど、自分が稼ぐ方法を見つけないと減る一方ですぐ底を尽きちゃう。


「私も冒険者になろうかな」

「まぁ……悪くはないかもな。それより、どの宿にするんだ。希望があれば言え。俺が探してやる」

「あ、うん。とりあえずお風呂のある宿!」

「了解だ」


 いぇーい!

 今日も無事にお風呂入れるじぇーっ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る