第12話:行くべきか、行かざるべきか

「お、お宝あぁぁぁ」


 残った雑魚ゴブリンはヴァルが一掃。

 一〇匹ぐらいしか残っていなかったけど、一〇秒もしないで全部倒されてしまうってどんだけ雑魚いんだろう。

 そして奥の壁際には、無造作に置かれたキンキラお宝があった。

 金貨とか銀貨はない。主に石。

 でも――


「宝石の原石だな。それなりの値段で売れるやつだ」

「原石! これ全部?」

「あぁ。ゴブリンは石を集める習性がある。まぁ趣味といってもいいだろう。特に光り物が好きだからな。廃坑に潜ってはこういうのを見つけて貯めこんでんのさ」

「じゃあここって……」

「いや、この辺りに鉱山はなかったはずだ。他所で見つけたものを大事に持ち運んでいたんだろう」


 一匹で二、三個でも持ってれば、結構な数になるもんね。


「そうだ。これ村の人にあげようよ。畑とかダメにされたし、その分の野菜を買うお金が必要になるでしょ」

「……今回は正当な依頼を受けてやった訳じゃないから、村からの報酬は出ないハズだ。せめてこいつで――」

「何個かあればいいよね? あ、私の分いらないから」

「……はぁ。さすが聖職者様だ。しかしどうやって持ち帰るかな」


 確かに抱えて持って行くには多すぎる。スーパーの買い物カゴ三つ分ぐらいありそうだし。

 ま、鞄の中に入れれば平気だけどね。


「鞄に入れる」

「つってもそんなに入らねえだ……おい、まさかマジックアイテムかそれ!」

「うん」

「なんでお前みたいなガキが、そんな高価なもん……ほんとお前、何者だ? 司祭であり賢者って」

「え、あ……いやこれ、師匠が旅をするなら持っていけってくれたものだから。はは、はははは」


 師匠じゃないけど、本当に貰い物なんだよぉ。

 やっぱり高価なアイテムだったんだ。

 ありがとう、幸薄そうなお兄さん。


「お前の師匠ってのは、もしかすると名のある冒険者だったのかもな」

「ど、どうだろう? へへ」

「……まぁいい、詮索はしない。とりあえず全部詰め込むか」

「うん」


 何かの原石を全部鞄に入れて、ゴブリンの巣穴を出た。

 残ったゴブリンがいないか気になったけど、ヴァルが「もういない」と断言するから気にするのを止めた。

 きっと凄腕冒険者には分かるんだろう。気配とかさ。


 村へ戻ったのはお昼を少し過ぎたころ。

 思ったよりそんなに時間経ってない。


「とはいえ、今村を出発しても、ハトに着くのは夜中だな」

「今夜はどうぞ、村にお泊りください」

「そうですよ。お二人ともお疲れでしょうし、ゆっくりお休みください」

「だそうだ。おい、どうする?」

「んー、私は……」


 私はお風呂に入りたい。

 昨日も一昨日も入ってないもん!

 こっちの世界に来てお風呂入ってないもん!


「お風呂も沸かしますよ」

「泊まります!」


 村長さんの一言で、一泊することが決まった。






「ふあぁぁ、極楽ごくらくぅ」


 村には共同風呂――つまり銭湯がひとつあるだけで、各家庭にお風呂はないらしい。

 その共同風呂も三日に一度しか沸かさず、他の日は濡らしたタオルで体を拭くだけなんだとか。


「どこかで定住することになったら、お風呂のある家がいいなぁ。温泉が湧くところで暮らすのも最高かも」


 芸能人の別荘買います買いませんとかやってる番組でたまーに紹介される、蛇口から温泉が出る物件。

 わりと憧れでもあるんだよねぇ。

 温泉に入ったのは一度だけ。おじいちゃんとおばあちゃんが元気なころ、旅行で行った時だけだもんね。


「こっちの世界にも、温泉ってあるのかなぁ」


 あるといいなぁ。

 なんてことを考えつつ、ちょっと気になることがあってスキル一覧を開く。


「各スキル名の下にある、このHPゲージみたいなのって……」


 ほっそーいから最初は気づかなかった。しかも色なんてついてなかったし。

 でも今は、ヒールやブレッシング、聖なる光と聖なる盾のスキル名が書かれている下に、色のついた細長いバーが見えていた。

 色は左から右に伸びていて、たぶんこれ、右側の空白になってる部分にも色がついたら、スキルレベルがアップするとかかな。


 魔術師のタブを開いて、ロック・シューターを見てみる。

 上位スキルが出たやつだし、バーが……あれ、他のと同じで右側に空白がある。

 でも。


「ロック・シューターⅡ……になってる。これスキルレベルが上がったってことかな?」


 他のスキルに英数字はついてない。レベル1だと何もつかないのかな。

 いろいろ分からないことが多すぎる。

 この世界の人も、こういったスキルボードみたいなものってあるんだろうか。


 なんで司祭だって鑑定されたのに、魔術師と精霊師のスキルもあるんだろう?


 えぇっと、召喚されたときってどんなだったかなぁ。

 私と、少し年上ぐらいの男の人が二人召喚されて……そういえば「ひとり足りない」って言ってた人いたような。

 勇者、戦士、司祭、賢者だっけ?

 四人召喚するはずだったのに足りないとか、なんとか。


 もしかして、私が司祭兼賢者だったってこと?


 私が使えるスキルを伝えたとき、ヴァルも賢者だって言ってた。

 二つの職業を同時に与えられたってことなんだろうか。


 まぁ、だとしたら……


「超ラッキー!」


 ただ暗記しなきゃならないスキルが増えるってことで、それはそれで問題ありだけど。

 まぁ地道に覚えて行こうっと。


「ふぅ~。もう少し温まろうかなぁ」


 次いつお風呂入れるか分からないし、入り溜めするぞぉー!






 ~~~その頃~~~


「遅い……いったいいつまで入ってるつもりだ。

 まさか溺れているんじゃ!?

 いや風呂の中で溺れるやつがいるか?

 …………。

 風呂で居眠りして……そのまま湯船に……。

 やっぱり溺れてんじゃねえのか!?

 み、見に行った方が……。

 いや、それはダメだ。ダメに決まっている。

 じゃあどうすんだ。

 あぁ、くそっ。早く上がって来いよ」


 そう広くはない離れの部屋で、ひとり右往左往するヴァルツの姿があった。

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