第11話:全方位型バリア
二つの魔法の呪文を覚えるために、スキル画面を見ながらずーっと黙読。
その結果、途中で眠くなって寝てしまった。
起きたのはちょうど朝。
「おおぉ、これで時差ぼけなおるかも!」
「あ? なんだ、じさぼけって」
「えっとねぇ……うわっ。ヴァ、ヴァル!? なんでベッドの横に座ってんのっ」
「仕方ねぇだろ。他に部屋が空いてねぇんだから」
頭をぽりぽりと掻きながら、少しだけ頬を赤く染めてるヴァル。
床に直接座って寝てたの?
「い、言ってくれればベッド変わったのに」
「は? 女を床に座らせて自分だけベッドで寝れるかよ」
「うわっ。王道過ぎる紳士なセリフ」
「うるせぇ。起きたんなら飯食うぞっ」
あ、耳まで赤くなった。
紳士で優しくて、ちょっと初心かぁ。
目つきは悪いけど顔はいい。こりゃモテるねぇ。
「"暗闇を照らす優しき光よ"」
途中の森で拾った木の枝に『聖なる光』を灯す。
ヴァルは私のすぐ前を歩いているけど、光は彼の前方もしっかり照らしてくれてる。
「にしても、結局他の冒険者は来なかったね」
「エズの村は確かに王都とハトの町の中間地点にあるが、たいていの奴は村に立ち寄ったりしないさ。それに立ち寄るのが冒険者とは限らねえだろ」
「それもそうか」
町から町の移動なら商人だっているだろうし、用事があってお使いに出てる人もいるよね。
そういう人がエズの村に立ち寄って、隣村がゴブリンに襲われたと聞かされても助けに来れるわけがない。
仕方ないのか。
でも巣穴に二人だけって、大丈夫かな……。
「なんて思っていた時期が私にもありました」
「あ? なんか言ったか」
「いえいえ、なーんも言ってません」
ねぇ、私必要ある?
ってぐらい、ヴァルはサクっとゴブリンを倒していく。
うん。この世界のゴブリンも雑魚確定だね。
とはいえ、たったひとりで何十匹も相手にしてるのに、全然息切れしてない。
やっぱりヴァルって、結構な実力者なのかも。
ヴァルがばったばったとゴブリンを倒す間、私は邪魔にならないよう壁際で見てるだけ。
でもただ立っているだけじゃない。
「"聖なる光よ、邪悪な力から守る盾となれ"」
ヴァルの役に立つようにって暗記した呪文を唱え、
『ゴギャッ』
『ブギェェッ』
聖なる盾は邪悪な力から守ってくれる魔法。
ゴブリンは邪悪。
雑魚ゴブリンの攻撃ぐらいだと、私に触れることなく盾で弾かれてしまう。
しかもこの盾、私を360度の方角から守ってくれた。
『プギイィィィッ』
「ぅあぁ……」
「ヴァルまでドン引きしないでよ!」
私は立ってるだけなのに、ゴブリンが突っ込んできて勝手に吹っ飛んでいく。
吹っ飛ぶだけだから与えるダメージはそう多くはないんだけど、たまに勢いよく洞窟の壁に激突して泡吹いて痙攣するゴブリンもいた。
もちろん、そのまま死ぬんだよね。
それを見てヴァルが薄ら笑いを浮かべてドン引きした。
私もドン引きしたい。
私の魔法うんぬんとかじゃなく、いくら突進して来ても吹っ飛ぶだけなのに止めないゴブリンに。
「学習能力とかないの?」
「ある訳ねぇだろ」
「さすがゴブリン」
雑魚でおバカ。
「この先が最深部だ。……なんかいるようだ」
「なんかって、何が?」
「群れのボスだろ」
ボスって、ホブゴブリンだったんじゃ?
通路の奥は開けた空間になっていて、そこにゴブリンが何十匹と待ち構えていた。
一番奥に、ゴブリンより少し大きな奴がいる。なんか頭に冠みたいなの被ってるけど……似合ってない。
「ゴブリンキングだ」
「え!? あれが王様?」
「といっても、なったばかりみたいだな」
なったばっかりって、どういうこと?
「片付ける。お前はじっとしてろ」
「え、あっ」
ひとりで行くしいぃーっ。
私が来た意味ある? ねぇある?
あっという間にゴブリンの数は半分に。
怯えて逃げようとするのもいたけど、ゴブリンキングが吠えるとまた向かって来た。
なんか噂に聞く社畜みたいでかわいそうになる。
そんな社畜ゴブリンをなぎ倒し、ヴァルが社長ゴブリンの前に躍り出た。
社長を倒したら終わりかな。
そう思っていたけど――
『"×××××××××"』
「ちっ。シャーマンかよ!」
シャー、マン。精霊使い?
あのゴブリンキング、精霊使いだってこと?
ゴブリンキングが振りかざした杖の先から、黒い靄が現れた。
あの靄、見覚えがある。嫌な感じがする、もやもや。
『キグギャアァァッ』
「くっ。ぁあぁ」
「ヴァル!?」
あのもやもやがヴァルを苦しめてるの?
王都で見た大きな犬――ヴァル曰く狼も、靄で苦しんでた。
でも浄化の魔法で……。
「ヴァル! "浄化の光よ、瘴気を祓い、すべての苦しみから解放せよ!"」
駆けながら浄化の魔法を唱える。
突き出した手の先が、光の魔法のように輝く。
『ゴギュアアァァァッ』
「え、ゴブリンキングが苦しんでる?」
「あぁ、そいつは大量の瘴気を貯めこんで進化したモンスターだからな。瘴気がなくなれば、ただのゴブリンも同然だ。はぁっ!」
ゴブリンキングは体内から抜け出す黒い靄をかき集めるような仕草で宙を掻く。
自分の首が、もうそこにはないのに。
じたばたと両手を動かしていたゴブリンキングが、大量の血しぶきと共に倒れる。
そしたら、首のあったところから黒い靄が一気に溢れ出した。
「ヴァル下がって! "浄化の光よ、瘴気を祓い、すべての苦しみから解放せよ!"」
「くっ。これだから進化モンスターは厄介なんだっ」
バックステップでその場を離れたヴァルが、すぐに私の傍に駆け寄る。
浄化の光を浴びて、黒い靄が薄れていく。
「あれが瘴気?」
「そうだ。モンスターをより狂暴化させ、時に進化させる。それ以外の生き物に対しては、毒みたいなもんだからな」
「それでさっきヴァルは……もう大丈夫?」
「あぁ。お前の浄化のおかげでな」
よかった。
あ――
「私を連れてきたのって、このため?」
「……そうだ。ゴブリンは元々群れるモンスターだが、普段はホブゴブリンが混ざることなんてない。瘴気で進化したボスがいない限りな」
「なるほど、だから――」
あれ?
でもなんで私が浄化の魔法使えるって、知ってるの?
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