第10話:猫吸いたい

 温かい……なんか気持ちい。

 あ、もふ、もふもふだ。このもふもふ、どこかで触った気がする。

 どこだっけか……あぁ、そうだ。

 王都にいた、あの大きな犬だ。あの子の毛によく似てる。


 猫派だから、猫吸いしたい。

 でも犬のもふもふも、いい……かもしれない。


「もふ……も……」

「さっきからもふもふうるぇぇ。いいかげん起きやがれ」

「もふ? はひっ、ヴァル!?」


 あ、あれ?

 私、もふもふに触ってた気がしてたんだけど。

 なんで……なんでヴァルの手握ってんの!?


 さっと手を離して毛布の中に……あ、そうか。

 私、寝てたんだ。

 いや、どっちかというと気絶してた?


「あの、今、何時?」

「もう夜だ」


 そう言ってヴァルが顎で窓を見ろと促す。

 あぁ、真っ暗だねぇ。


「もう外、大丈夫?」

「あぁ。森の中でホブゴブリンを二体倒したし、お前も一体倒しているだろ。村や周辺にいた奴らは全部片付いた。念のため今日は交代で見張りをして、明日、奴らの巣を探しに行く」

「ゴブリンの巣ってことは、洞窟?」

「よく知ってるじゃねえか。ホブゴブリンがいたってことは、群れの数はまだいるはずだ。だから明日――」


 そこまで言うと、ヴァルは押し黙ってしまった。


「明日は私も行くよ! それまでにしっかり回復しておくから」

「……あぁ。お前は後ろから魔法で支援するだけでいい。倒すのは俺がやる」

「うん。ブレッシングとヒールは任せて」


 そしたらまた、頭を撫でられた。


「子供扱いすなっ」


 言いながら手を払いのけると、鼻で笑われた。


「なんか食うもの貰って来てやる」

「おぉ、ちょうどお腹空いて来たなって思ってたところ」

「というより、さっき鳴ってたぞ」

「……うそ!?」


 ひぃー、恥ずかしい。

 お腹を抱えて毛布に顔をうずめると、ヴァルはもう一度鼻で笑って部屋を出て行った。

 その間に私のお腹がぐぅーっと鳴る。

 うぅ、本当に鳴ってたんかぁ。


「あれ?」


 茶色い毛布に、黒い毛が何本も落ちてる。

 私の髪の毛にしては短いし、ヴァルの?

 え?

 なんで彼の髪の毛が!?

 ま、まさか一緒に寝てた!?


 ――訳ないかぁ。

 この毛、人の髪の毛っていうよりは動物の毛っぽいし。

 村長さん、犬でも飼ってるのかな?






「寝なくてもいいが、大人しくしているんだぞ」

「了解でありますっ」


 敬礼をしてヴァルを見送る。

 

 少し遅めの夕食を食べた後、ヴァルは見張りを交代するために出て行った。

 明け方近くまで見張りに立って、それから少し寝てから巣穴探しに行くって。

 明日は私も頑張らねば。


「とはいえ、ブレッシングとヒールの二つだけじゃ心もとないよね。使えそうな、それでいて呪文が簡単なの探そう」


 スキル一覧を出してにらめっこする。

 回復、身体能力アップは使えるから、あと欲しいのは……。


「おぉ、聖なる盾ホーリー・シールドかぁ。防御系魔法、いいかもね」


 それから聖なる光を灯す魔法。

 洞窟の中なら絶対役に立つ。そのうえ、持続魔法だから一度使えば三〇分効果が出るって書いてある。

 ただ何かに光を灯すものだってあるから、何か持ってないとなぁ。

 軽い棒でも拾っておこう。

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