第8話:魔術師、出撃す
地下は意外なほど広くて、とはいえ、村の人全員が避難していたら狭く感じる。
ゴブリンが村を襲って来た時、他の人を逃がすために応戦した人が何人も負傷。
でも怪我だけで、亡くなった人がいないのは不幸中の幸いね。
「これで全員ですか?」
「あぁ、本当にありがとう。おかげでみんな、助かったよ」
「あの、エズの村に助けを呼びに行った者は無事ですか?」
話掛けてきたのは五〇代ぐらいのおなさん。もしかしてあの人のお母さんかな?
「大丈夫です。私が治癒しましたから。でも出血もあったし、向こうの村で休んで貰ってますよ」
「あぁ、よかった。よかっ……うぅ」
「だから言っただろう。あいつは大丈夫だって」
旦那さんかな。二人抱き合って喜んでる。
大丈夫だと言っているおじさんも泣いてるじゃん。本当は心配だったんだろうね。
オトウサンとオカアサン……かぁ。
私には分からない……私には、親がいないから。
世の中の親がみんな、あの二人みたいだったらよかったのに。
そうすれば私も……。
「あぁー、やめやめっ」
ぱんっと、軽く両手で頬を叩く。
考えたって仕方がない。
今はやるべきことをやらないと。
怪我の治療を済ませたあと、万が一に備えてスキルチェックをする。
攻撃魔法……覚えておこう。
スキル一覧の一番上には、そのタブごとに職業名が書かれていた。
『司祭』『魔術師』『精霊師』の三つ。
書かれているスキルの数は意外と少ないけど、代わりに『???』ってのがいっぱいある。
これ今はまだ使えないっていうやつだよね。
ゲームなんかだと「このスキルのレベルがいくつになったら覚えられる」っていう、その手のスキルじゃないかな。
まぁ条件はわかんないけどさ。
「使える攻撃魔法の中で、呪文の覚えやすものに絞ろう」
一度にあれこれ覚えられないもんね。
ファイア・ボールは『炎の礫よ』。
ロック・シューターは『石の礫よ』。
「この二つにしよう」
覚えやすい。
ウィンド・カッターは風属性だろうけど、間違っても『風の礫よ』ではない。
攻撃魔法はこの三つだけ。少な!
まぁ『???』ばっかりだもんなぁ。
「司祭様」
「……あ、はい!?」
そうだ。ここでは私、司祭だったんだ。
「外の様子はどうでしょう?」
「うぅん、出てないので分からないですが、ゴブゴブいう声は聞こえませんね」
「そうですか……。あの、お二人が見た村の様子は?」
「えっと、煙は出ていませんでした。火事とかにはなってないみたいです。建物も特に壊された様子じゃなかったし。でも畑の方が……」
「荒らされてましたか。まぁそれは仕方ないです。家屋が無事でよかった」
でも畑の野菜がほとんどダメになってしまったら、食べる物が……。
「畑はまた耕せばいい。そう時間も掛かりませんよ。ですが家屋が壊されていたら、建て直すのに時間がかかりますからね」
「うん、そうですけど……ん?」
なんか胸がざわざわする。
なんていうか……予防接種を待ってる時みたいな嫌な感じ。
ずんっ――と地響きにも似た音がした。
村の人と顔を見合わせる。
「地震……にしては揺れてないし?」
「こちらの方からですね。ここから外の様子が見れます」
壁の一部に小さな穴があるんだ。よく見たら四方の壁全部に覗き穴があった。
外の様子は――奥の家の向こう側……なんか影が動いた?
ずんっ、ずんっと音が近づいてくると、動いたと思っていた影が出てきた。
くすんだ緑色の肌をした、小さい奴。
「ゴブリン!」
「き、来た!?」
三匹のゴブリン……それに、後ろから大きいのが!
もしかしてホブゴブリンも一緒なの?
うわ、真っすぐこっち来た!
迎え撃つ?
ホブゴブリンは大きな鉄製の鈍器持ってて、さすがにあれじゃこの小屋も壊されてしまいそう。
倒せる?
でも倒さないとここが危ないし、ここには村の人がみんないる。
何より倒せなかったら、私だって殺されてしまう。
気合入れろ。
この世界で生きていくって決めたんだし、だったらやるしかない。
「戦える人、いますか?」
「ま、まだ何人かは」
「私が魔法で援護します。攻撃魔法もありますから」
戸を開けて外に出る。
まずは自分にブレッシング。地下から出てきた男の人たちにも続けてブレッシンブを掛ける。
その時には三匹のゴブリンが駆けてきた。
「おぉ、なんだか力が湧いて来るぞ!」
「体が軽い。ゴブリンの動きがよく見える!」
「うおおぉぉぉ!」
おぉ、この世界の村人って強いじゃん!
数で勝っているとはいえ、あっという間にゴブリン倒しちゃったよ。
残るはホブゴブリンだけ。
『ブゴオオオオォォォォッ!!!』
「ひっ」
「さ、さすがにあいつは……」
さっきまでの勢いはどこへやら。
でも仕方ない。
縦にも横にも、人間寄りずっと大きいもん。あれ何百キロある?
それに比べてゴブリンは、痩せ細った体で身長だって子供並み。頑張れば勝てそうって雰囲気だ。
ホブゴブリン相手に、勝てそうとはなかなか……。
だからって負ける訳にいかないでしょ!
「"炎の礫よ!"」
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