第6話:先生! 都会の犬は大きいんですか?

「本当に寝なくていいんだろうな?」

「うん。変な時間にたっぷり寝たし、今も全然眠くないから」


 空が白み始めると、こっちが起こさなくてもヴァルツは目を覚ました。

 少し寝ろって言われたけど、七時間も寝てればさすがに眠くはならない。

 完全に時差ぼけだ。


 太陽が昇って、ヴァルツに朝ごはんをご馳走して貰って、私たちは南へ向かって出発した。


 ド田舎出身の、ちょっと無知で残念な子という設定で――


「ヴァルツ、いろいろ教えて欲しいんだけどいいかな?」

「……はぁ、なんだ?」

「うっ、そのいちいち溜息吐くの止めてよ……えっとね、うぅん、そうだなぁ」


 何を教えて貰おう。

 いざ考えると、何を知らないのかが分からないから尋ねようもないなぁ。


 あ、そうだ。


「都会の犬って、こぉーんなに大きいものなの?」


 と両手を広げて見せた。

 

「は?」

「いや、あのね。昨日王都で見たの。犬なのか狼なのか、とにかくこーんなデッカいやつ」

「……お、狼、じゃないかそれ」

「狼だとしても大きすぎるんだよね。あれってやっぱりモンスターだったのかなぁ。町中にモンスターが出るの?」

「いや、モンスターじゃ……。はぁ……町中には出ねえよ。よっぽどじゃないとな」


 じゃあれはなんだったんだろう?


「他に知りたいことは?」

「え、他? んー……じゃ、ヴァルツは邪神の封印のこと、知ってる?」

「……そろそろ封印が弱くなるって話か」


 知ってるんだ。じゃ、あの姫が話してたことは、嘘じゃなかったんだね。

 ずっと昔に邪神は封印されたけど、年々弱くなっているって。

 なんか定期的に封印しないといけないとか言ってたっけかなぁ。

 封印が出来るのは、異世界から召喚された勇者のみ。


「そういやこの国の王女が、邪神を封印する勇者に同行するために修行してるって話を聞いたな」

「ぶふっ」

「あ、どうした?」

「いや、なんでもない。なんでもないよ」


 幸薄そうなあの人が言ってたことも本当だったんだ。

 一般市民にまで知れ渡ってるって、どこまで頑張ってたんだろう。

 しかもその動機が、勇者との恋愛がしたくてって言うんだから凄い。


「やっぱり最近は、モンスターが増えてるの?」

「そう、だな。おかげで俺みたいなのは食いっぱぐれなくて助かってるが」

「え、ヴァルツって?」


 ヴァルツは左右の腰に、短剣にしては少し長くいものを一本ずつ差している。

 二刀流か、ちょっとカッコいい。

 この流れだと彼はたぶん――


「冒険者だ」

「おぉ、やっぱり! じゃ、モンスターとも戦ったりするんだ?」

「まぁな。しかし神聖魔法と魔術と精霊魔法が使えるのに、モンスターと戦ったことがねえとは。宝の持ち腐れだろ」

「はは、あはははは。ま、まぁこれからは旅をするつもりだし、使う機会もあるかと」


 冒険者がいるなら、冒険者ギルドとかってのもあるのかな。


「なんにしてもお前は後衛職だ。冒険者になる気があるなら、前衛の仲間を探すことだな」

「パーティーを組めってことだよね! そういうのって、どこで探せばいいの?」

「大きな町に行けば、冒険者ギルドってのがある。そこに行けば……」


 おほぉ、やっぱりギルドもあるんだね。

 なんかファンタジーっぽくなってきた。ちょっとワクワクするね。


 でもゲームとは違う。リセットボタンなんてないんだから、無茶はしないようにしなきゃ。

 まずは戦いに慣れることから始めないと。

 そういう意味でも、パーティーを探すのは大事なんだろうなぁ。


 とはいえ、右も左も分からない世界で、知らない人とパーティーってのも不安があるよねぇ。

 昨日のあんなのもいるわけだし。


「そういえば、ヴァルツはソロなの?」

「あ? まぁな。ひとりの方が気楽でいい」

「ふーん」


 ってことはもしかして、ヴァルツって結構腕の立つ冒険者だったりして。

 ひとりってことは、ひとりでもモンスターと戦えるってことだし。

 うぅん、今更ヒーラーなんて必要ないかなぁ。


「……そろそろエズの村だ。いったんそこで休憩する」

「了解であります」


 村に到着したのは、それから少ししてから。

 小さな村だけど、食堂が併設された宿があった。


「飯にはまだ早いが……休まなくていいか?」

「眠くないかってこと? 今んとこへーき」

「まぁ何か食えば眠くなるだろう。その時は宿で一、二時間寝てから出発だ」

「うぃ」


 食堂のメニューは二つだけ。

 おすすめ定食と、贅沢定食。

 言わずもがな、贅沢定食の方が高い。

 悩んでいるとお店のおばちゃんが「贅沢定食はお肉をふんだんに使った料理よ」と教えてくれた。


 ヴァルツは贅沢を注文。

 うぅん、夜なら贅沢にいったんだけど、昼間だしなぁ。

 胃もたれしそうだし、おすすめでいいや。


 おすすめの方はポテトサラダとベーコンエッグ、それからパン。

 うん、これぐらいがちょうどいい。

 

「ふぅ、お腹いっぱい。ちょっとお腹休ませないと、すぐ出発したら横腹痛くなりそう」

「寝るか?」

「ぶほっ。ね、ねね、ね!? 言い方ぁ」

「何がだよ――ぁ」


 気づいたか。

 顔を真っ赤にして手で覆ってる。


「悪い」

「まぁ……いいけどさ。あとまだ眠くないから」

「はぁ。途中で立ったまま寝るなよ」

「耐える。今日も明るいうちに寝たら、時差ぼけ治せないし」

「時差ぼけ? なんだそりゃ」


 飛行機とかない世界だし、時差ぼけって言葉がないんだろうな。

 時間が早いからお客は他にいないけど、混む前に食堂を出ようと立ち上がった時。


「――はいないか!? 冒険者はっ」


 大きな声を上げながら、食堂に駆けこんで来た人がいた。


「どうしたんだい。こんな時間だから、お客さんなんてあそこの二人だけだよ」

「くっ。兄さん、あんた冒険者かい?」

「あぁ、そうだが」

「よかった! 隣村がモンスターに襲われたって、若いのが助けを求めて来てんだ」


 村がモンスターに襲われた!?

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