第5話:賢者?
「美雪。困っている人がいたら、助けてあげなさい。お前はそれが出来る子だ。苦労や痛みを知っているからこそ、それが出来るんだよ。じーちゃんとの約束だ」
おじいちゃん……おじ――
「んぁ」
パチパチと爆ぜる音で目が覚めた。
目が覚め……
「寝てた!?」
え、いつの間に?
「よぉ。やっとお目覚めか。っかしどうなってんだお前は。地図を見てたかと思ったら、立ったまま寝やがって」
「寝落ち!? ってか誰!?」
「……寝ぼけてんのか。助けてやった恩人を忘れるとは、酷い女だな」
助けてもらった?
……おぉ!
「人相の悪い五人組をぶっ飛ばした、目つきの悪い人」
「一言余計だ」
「あ、ごめんなさい……。それであの、ここどこ?」
「見ての通り、原っぱだ」
見ての通りって……いや真っ暗で何にも見えないから。
「ぐーすか寝てるお前を抱えて、少し街道の方に引き返した所だ」
「か、抱えて……ご、ご迷惑おかけしました」
「そう思うなら、次からは知らねえ男の前で寝るな。他人を安易に信用するもんじゃねえ。もし俺が奴らと同類だったら、身ぐるみ剝がされて今頃命がなかったかもしれないだろ」
「も、もしそうだったら、鞄から地図を取り出してる間にそれ奪って逃げてるだろうし、その……い、如何わしいことするのが目的だったら、あいつらぶっ飛ばした後にやってるはずでしょ」
そうじゃなかったからって訳じゃない。
なんか漠然とだけど、この人は大丈夫って気がして……。それに初めて会った気がしない。
これが司祭の第六感! とかだと真実味があっていいんだけど。
「はぁ……考えなしではない、みたいだな」
「ま、まぁ、うん」
「それで、お前が向かおうとしていたアトルイの町だが、急ぐのか?」
「や、急ぐっていうか、王都から一番近い町だったから行こうと思っただけで。他の町だと出発するのが明日になるからっていう、ただそれだけの理由なの」
そういうと、焚き火越しの彼が首を捻る。
「えっと、王都に顔を合わせたくない人がいて、少しでも早く出たかったの。でも昼も過ぎてたし、あの町じゃないと明るいうちに到着出来なかったからさ」
「……あぁ、ふぅん」
なんでドン引きしてんのよ!
えぇそうですよ! まったく違う方向に向かってましたよ!
「つまり、王都から出られりゃどこの町でもいいってことか」
「つまりそうです。まぁ別にその町で暮らしたい訳じゃなく、あちこち旅してまわりたいっていうか。そのためにはまず、準備しなきゃっていう」
「んなもん、それこそ王都ですりゃよかっただろうが」
「だって今日中に行けるって思ったから……」
「はぁぁ……」
そんなデッカいため息吐かなくたっていいじゃん。
「じゃあアレだ。アトルイの町じゃなくてもいい訳だな?」
「まぁこうなったら、その町にこだわる必要なくなったし」
「地図を出せ」
「ん」
鞄から地図を出し、焚き火を迂回して彼に手渡す。
A3サイズぐらいの地図を地面に広げ、ここに座れというように彼が地面をぽんぽんと叩いた。
「ここからもう少し南に行って、ここから西にいくとハトという町がある」
「鳩?」
「鳥の鳩じゃねえぞ」
「……はい」
なんで分かった!?
「引き返してアトルイに向かうにしても、街道を通れば五、六時間はかかるだろう。ハトまでだと、それに一時間追加したぐらいだ」
「ハトの方が王都から遠いし、一時間ぐらいなら別にいいかな。よし、目的地変更。目指すはハトぽっぽ」
「だから鳥の鳩じゃねえ。とにかくだ……ハトでいいなら、案内してやる」
「え、本当!?」
「……用事のついでだ」
よかった、これならまた迷子になる心配もない。
「あの、それで今って何時ぐらい?」
そう尋ねたら、彼は空を指さした。
うわぁ、星いっぱい。めっちゃ綺麗。
こんなのテレビとか写真でしか見たことないよ。
そうじゃなくって!
あー、うん。夜ね。そう言いたい訳ね。
「日付は変わってる頃だろうが、朝までまだ何時間もある」
「け、結構寝てたんだ」
「七時間寝てた」
「ひぃーっ。ごめんなさいごめんなさいめっちゃ熟睡してたぁ」
うん。だいたいいつもそれぐらい寝てる。
「元気そうだな。なら俺は寝るから、何かあったら起こせ」
「何かって?」
だから残念な子を見るような目で見るなと。
「たとえ街道だろうと、夜になればモンスターに襲われることもある。ましてここは街道から近いってだけで、街道じゃねえんだ」
「あ、そういう意味か。うん、分かった」
「……大丈夫か?」
「大丈夫だいじょーぶ。一応こう見えて私、魔法も使えるから」
さぁ、私が使えるスキル一覧よ、出てくるがいい!
お、出てきた。
念じればいいのは有難いね。
「ヒールとか! あとブレッシングとか!」
「それでどうやってモンスターをぶっ殺すんだ?」
「ま、まだあるわよ! えっと――」
タブがある。次のページかな?
「それからファイア・ボールとロック・シューター、えぇっと、精霊契約……ん?」
「お、おい。ファイア・ボールだと? なんで司祭のお前が魔術を」
「まじゅ……え?」
待って。私の職業って、司祭だったよね?
なんで魔術師の魔法が!?
それに精霊契約って、これ絶対精霊使いの魔法でしょうが!
「司祭に……賢者……どうなってやがるんだ」
「賢者?」
「魔術師の魔法と精霊師の魔法が使えるってことは、賢者だろうが。まさかそれを知らず使っていたとか言わねえだろうな」
「……えっと、言ったらどうする?」
あ、なんか顔を抑えて俯いてしまった。
この状況、どう躱そうか。
「とんだ田舎者だな」
「はっ。そう! 田舎なの。すっっっごい田舎の山奥出身でね、生きていくために必要になるだろうって師匠にいろいろ教えて貰ったんだけど。いやぁ、ずっと司祭の魔法を習ってたと思ってたんだけどさ、はは、あはははは」
無理がある?
少しの沈黙のあと、枯れ葉またため息を吐いてからごろんと寝転んだ。
「モンスターと戦ったことは?」
「……ごめん。ない」
「はぁ……やっぱ何かあったら起こせ。あと眠くなっても起こせ。いいな?」
「うん」
んじゃ、彼が寝てる間にスキル一覧を見とこう。
彼……彼……。
「あの、まだ起きてる?」
「……あぁ。なんだ?」
「あのね、私、
「……ヴァルツ」
「ヴァルツね。うん覚えた、たぶん。よろしく、ヴァルツさん」
「おい…………ったく、さんはいらねぇよ。カザハラミユキ」
あ、こっちの世界じゃ苗字の概念がないのかな。
いや、たぶん苗字があるのは貴族とかなんだろうね。
「あ、あの、風原の方はその……っ! 魔法のお師匠さんの名前なの。修行を終えた証にって、名前を貰ってね」
「なんだそりゃ……紛らわしいから名乗るときは自分の名前だけにしとけ。苗字持ちは貴族だけだ。どこぞの令嬢と勘違いして、攫おうとするバカが現れても知らんぞ」
「う、うん。気を付ける」
「はぁ……今度こそ寝る」
「あ、ごめんね、起こして。おやすみヴァルツ」
やっぱり苗字は貴族だけか。
少しずつこの世界のこと知って行かなきゃな。
次の町に着くまでに、ヴァルツからいろいろ教えて貰えればいいんだけど。
まずは自分のこと。
スキルを覚えないとな。
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