The perfect orb
上雲楽
瑕疵なき天球
私が博士号を取得して帰国したころには、すでに善意の団体によって村に七曜がもたらされていた。団員が私に対しても、
「太陽が沈む回数を知れ」
と言う。言われなくても、天球の運動は私はとうに知っている。村の人たちと同列に扱われることは侮蔑に感じたが、そう感じる自分を恥じた。
村の生活はシステム化されてしまった。かつての村で生活するころは、収穫時期がわかればよかった。私やiPhoneがいくら日付を訴えようと、その情報は誰にも相手にされず、現在以外の時は無化された。団員が言うには、今では来たるべき未来に向けて同じ時間に目覚め、労働し、休息し、学習し、眠る。そのサイクルを六日繰り返すことに村の人々は容易に適応したらしい。
村の中央の櫓の前に敷かれた茣蓙の上に球状の宝玉があり、皆が見つめていた。私は、これは何だと団員に尋ねた。
「この宝玉は『日曜日』です。完璧な球体をしていますから、私たちの安息が絶対であることを教えてくれます。あの宝玉には世界のすべてが反射していますからね」
「村に何を教えた?」
私は少し敵意を向けて団員に尋ねる。
「完璧なカレンダーだけですよ。だけど、日曜日に休息する義務だけはなかなか理解してもらえなかった。あの宝玉は『日曜日』の偶像、メタファーです」
私は団員の声を聞き流して、「日曜日」に近づいていった。「日曜日」を視線の中心にして、村の人々が溶けた表情でただ座っている。「日曜日」は疵一つなく連続した鏡になっていた。
「完璧な球体だと。馬鹿馬鹿しい。それは計算上にしか存在しない。すべての球体は歪だよ。月も太陽も地球も」
私は村人に呼びかけるが誰も反応しない。
私は再び「日曜日」を見た。球面で歪んで反射する私たちが見えるのを見た。青空が反射して、少し青み掛かっているように見える。これは偽りの鏡像であると理解する。
「暦を見ろ。今日は水曜日だ。何を見ているんだ」
私は少し錯乱して大声をあげるが、村人たちはただ「日曜日」を見つめている。私の声も「日曜日」に反射された気がした。
青み掛かった「日曜日」が一瞬赤く染まり、すぐに黒くなり、再び一瞬赤くなり、青になる。そのサイクルは六日繰り返されていつか見た下限の月は満月になっていた。
「今日は『日曜日』です」
と団員は言う。村人たちは鏡面に映る満月をただ見る。クレーターも月の海も「日曜日」の前にはただの円の模様になっていた。それすらも偽りで、私の目にはただ黄色い点があるように見えるだけだった。静寂と反響に私は耐えられなくなって、「日曜日」を殴りつけた。しかし、なんの手応えもなかった。すなわち接地面積がゼロ。私は「日曜日」が完璧であることを悟った。
「日曜日」は今日も訪れている。私も「日曜日」に暮らしている。それ以外は、現在ない。
The perfect orb 上雲楽 @dasvir
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます