第7話 りことの思い出

「は?」

「え?」

この男は。なんで歓迎会という名目のこの場で。よりにもよって‥‥‥!


「‥‥‥叔母さん、ごめんなさい。部屋で休みます。皆さんもごゆっくりして下さい。食事はこれからも私が作ることがあるかも知れません。味付けとかの好みなどがあったら言ってください」

だめだ。言い切れたけど、この部屋にいられない。


「あ、さちちゃん!」

叔母さんの声が聴こえる。でもだめなんです。部屋に戻るまで我慢している涙が溢れる。

部屋から出て、外へ出て、自分の部屋に戻る。

そのために必要な数歩。その間に涙が数滴こぼれた。

でもそれを悟られないように静かにドアを閉める。

大丈夫だ。顔を見せなければ泣いてることは気付かれない。


自分の部屋に着く。ドアを背にズルズルとその場に座り込む。膝を抱えて静かに泣く。




あの男は私からあの子を奪った。奪った本人は知らなくて当然かもしれない。でも、私はやるせない気持ちで一杯になった。理屈ではないのだと、思う。

手作りのお弁当を交換した。笑い合いながら、お喋りしながら食べた。

『さちは料理が上手でいいな。私ももっと美味しく出来たら、さちに喜んでもらえるのに』

そんなことないよ。私にとっては、あのお弁当が、りこと食べるあの瞬間が何よりも好きだったんだ。アレ以上の喜びなんて罰が当たる。それくらい、嬉しかったよ。


それからは休みの日にお菓子やお昼を一緒に作ることもあった。

仲の良い友達。

は、少し超えてたかな。なんて私は考えてもいいだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る