第4話 『シルハスタ』(アルバート視点)
「フィミアが? 本当なのか?」
突然にもたらされた報告に、僕は動揺してしまう。
「はい。昨晩、『活動の方向性の違い』を理由に、『シルハスタ』の脱退申請を行ったようで、先ほど状況確認の使者がギルドからいらっしゃいました。差し止めをお願いしましたが、このままですと受理されてしまうでしょう」
「フィミアはどこに?」
「町を出たようです。いま、行方を確認しております」
事務的な受け答えをするサランに小さな苛つきを覚えつつ、僕は頭を抱える。
どうしてこのような厄介なことになったのか。
ここまで、順調に……思い通りに来ていたはずなのに。
「〝崩天撃〟ユルグに続いて、〝聖女〟フィミアも脱退となりますと、『シルハスタ』の国選パーティ資格は消失するかもしれませんね」
「そんなバカな!」
「すでに活動に支障を生じておりますし、実績の維持も難しいのでは?」
「他人事のように言うなよ、サラン」
僕の言葉に、サランが眼鏡を押し上げてため息を吐く。
「ご忠告は差し上げたはずですよ、アルバート。余計なことはしないように、と」
「それは……! だが、あいつは──ロロ・メルシアはフィミアに色目を使ったんだぞ?」
「恋愛については自由でいいのでは?」
小首をかしげるサランに、盛大にため息を浴びせてやる。
この男は、賢そうなふりをして何もわかっていない。
フィミアは、僕のことを愛しているはずなのだ。
そこに割り込んできたのが、あのロロ・メルシアという田舎者だ。
フィミアの優しさにつけこんで近づき、僕との仲を引き裂こうとした。
だから、パーティから追放して遠ざけたというのに、どうしてこのようなことになったのか。
「とにかく、人を使ってフィミアの行方を捜してくれ」
「承知いたしました」
「あと、追加人員の募集もだ」
「わかりました。ですが、〝崩天撃〟と同じレベルという訳にはいきませんよ?」
「わかっている!」
サランを手で追い払い、僕は閉まったドアを見つめてため息を吐く。
ここのところ、溜息をついてばかりだ。
想定外の……しかもよくないことが立て続けに起きすぎている。
ようやく、ここまで来たというのに。
「くそっ……」
ロロ・メルシアの追放に原因があったというなら、どうすればよかったのだ。
あのなよなよとして、ぱっとしない男が何だというのか。
『程々にいろいろできる便利な人材』は僕の目指す国選パーティ『シルハスタ』には必要ない。
戦闘力は低く、魔法だってそこまでではない、雑用の手際だけがいい男を国選パーティに置いておく意味なんて、どこにもないじゃないか。
ユルグもユルグだ。
同郷? そんなくだらない私情を持ち出して勝手にパーティを抜けるなんて、あり得ない。
プロの冒険者なんだ。命と名誉が掛かっている。
お互いの命を預ける相手は、やはり有能なヤツがいいはずだ。
しかし、〝崩天撃〟という看板を失うのは少し痛いな。
あれのどこがいいのかは知らないが、そこそこ人気があったのは確かだ。
『シルハスタ』の今後に影響するのは間違いない。
「はぁ、考えていても仕方ない」
そう独り言をつぶやいて、僕は椅子の背にもたれかかる。
優先順位をつけて解決していかなくては。
サランに任せっきりというのも落ち着かないし、町に出てフィミアを見た人がいないか確認してみよう。
ユルグについては、居場所を押さえたら再加入の打診をすればいい。
小耳にはさんだところによると、あいつは故郷で犯罪じみたことをやらかして帰る場所がないと聞いたことがある。
つまり、仕事の多いこの町でふらふらと冒険者を続けている可能性が高い。
僕やサランに会うのが気まずくて、別の街に行ったかもしれないが……それでも、捕捉は容易いはずだ。
なので、最初に手を付けるべきはフィミアだ。
彼女の脱退が誤りであったことを周知し、『シルハスタ』が健在であることを示さなくては。
意見の行き違いについては、膝を突き合わせて話し合えばわかってくれる。
ベッドの中なら、彼女だって自分の勘違いに気が付くはずだ。
僕の腕の中で眠るフィミアはきっと美しい。
いっぱい可愛がってあげなくっちゃ……!
そんなことを考えていると、扉がノックもなく開かれた。
「アルバート」
「ど、どうしたんだい、サラン?」
「フィミアの向かった先がわかりました」
さすが、有能じゃないか。
参謀役はこうでなくては。
「乗合馬車の係員に『マルハス』への行き方を聞いていたそうです」
「……またあの男か、ロロ・メルシア!」
マルハスはロロ・メルシアの故郷だ。
おそらく、旅立つ前にフィミアを誑かすようなことを言ったに違いない。
フィミアは純粋だから、真に受けてしまったんだろう。
あるいは、ロロ・メルシアを連れ戻しに行ったのかもしれない。
確かに、彼女が誠心誠意に僕に頼むなら、ロロ・メルシアの追放を撤回してもいいとは思っている。
『シルハスタ』に不要だという考えは変わらないが、フィミアがどうしてもというなら雑用係として置いておくのだって許そう。
もちろん、フィミアには一切かかわらせないつもりだけど。
「よし、すぐに追いかけよう」
「わたくしも行くのですか?」
「当たり前だろう!」
少し間があってから、サランが会釈する。
「承知いたしました。それでは、ご準備を」
「ああ!」
「……」
去り際にため息を吐かれたような気もするが、もともと小言の多い奴だ。
気にしていても仕方がない。
それよりも、フィミアだ。
すぐに追いついて、お互いのことと今後のことを話し合わないと。
ロロ・メルシアのせいで、誤解されたままだなんてとてもじゃないけど我慢できない。
彼女だって、僕と仲直りをしたいはずだ。
お互いに好き合っているのに、こんなつまらないことで離ればなれなんて、良くないことだからね。
「よし!」
旅装束に着替えた僕は、扉を勢いよく開ける。
急がないと、日が暮れてしまう。すぐに出発しないとね。
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