親友が国選パーティから追放されたので、ついでに俺も抜けることにした。

右薙 光介@ラノベ作家

第一部

第1話 追放と離脱

「お前を今日限りでこのパーティから追放する!」


 そんな言葉がリーダーであるアルバートの口から放たれたのは、大きな依頼ヤマが終わったある日の夜、打ち上げの席のことであった。

 その矛先は俺──ではなく、隣に座る親友のロロである。


「えっと……」


 突然の事態にたじろいで目を泳がせるロロ。

 そんな親友の隣で、俺はアルバートを軽く睨みつける。


「どういうことだ?」

「どうもこうもない。今回の成果で僕達は晴れて国選パーティとなることが決まった。それだというのに、実力の伴わないヤツをこれ以上パーティにおいておけるものか!」


 酒に酔っているのだろうか?

 やや興奮した様子で、アルバートががなる。


「ロロの残留については、ずいぶん前に決着がついたはずだぞ? アルバート」

「いいや、ついてないね。今日、ここで、改めて追放を宣言させてもらうぞ──ロロ・メルシア!」


 アルバートの声が、酒場に響く。

 おかげで周囲の視線が、俺達に集まってしまった。


「アルバートさん、ユルグの言う通りよ? ロロさんとはこれまで通り一緒にやっていくってみんなで決めたでしょ?」


 やんわりとした様子で、パーティの紅一点であるフィミアがそう嗜めるが、それでもアルバートは退かなかった。


「僕の率いる『シルハスタ』に無能はいらない」

「ロロが無能だと? お前、本気で言ってるのか?」

「もちろんだ。今までだってずっとお荷物だったじゃないか」


 前から少しばかり考えの足りない奴だと思っていたが、まさかここまでだとは思わなかった。

 こいつはいったい何を考えているのか?

 俺にはさっぱり理解できない。


「いいか、ユルグ? それにみんなも。これはリーダーの僕による決定事項だ。口を挟ませないぞ。国選パーティになるんだ、僕らは。こういうところはキッチリとシメていかないといけない」

「……わかった」


 有無を言わせぬといった様子のアルバートに、俺は小さくため息をつきながらうなずく。

 そこまで意志が固いというなら、これ以上何を言っても無駄だろうと思った。

 このやりとり自体、もう何度目かになる。

 これ以上は、まさに不毛というものだろう。


「そういうことだ、ロロ。お前は今日中に荷物をまとめて、明日の朝には出て行ってくれ」

「……うん、わかったよ」


 そう頷いて、ロロが席を立つ。


「みんな、これまでありがとう。もう一緒に冒険することはないけど、みんなの無事を祈ってるよ」


 それだけ言って、親友は早足に酒場を出て行ってしまった。

 これだけの人間の前での追放劇。明日には町中で噂になってるだろう。


「ロロさん、大丈夫でしょうか……」

「あいつのことは忘れて、今後のことについてしっかりと話し合おう。実は追加のメンバーについては、もう打診をしてるんだ」


 どこか嬉々とした様子で話し始めるアルバートに軽く手を振ってみせて、俺は席を立つ。

 これ以上、このバカの顔を見ていたくなかった。


「しらけちまった。

「おいおい、切り替えろよユルグ。いくらお前とあの役立たずが親友だからってさ」

「わかっててその言葉が出てくるあたり、お前って大物だよな」


 俺の皮肉を理解しているのかいないのか、曖昧な顔でニヤつくアルバートの前に酒の代金──金貨を一枚放り投げて、俺は先ほどロロが消えた酒場の出口に足を向けた。


 ◆


 ──翌朝。

 すっかり荷物をまとめたロロを町南門で見つけた俺は、駆け寄って声をかける。


「よぉ、ロロ。そろそろ行くのか?」

「うん。一度マルハスに戻るよ。それから、どうするか考えるつもり」

「なるほどな。それじゃあ、行くか」


 俺は背負い袋を担ぎ上げて、ニっと笑って見せる。

 そんな俺に、ロロが小さく首を傾げた。


「え?」

「なんだ、行かないのか?」

「そうじゃなくて。なんでユルグも旅装束なの?」

「そりゃ、お前と一緒に行くためだろ?」

「待って? パーティは……『シルハスタ』はどうするつもりなのさ?」

「もう昨日の晩にギルドで脱退処理してきた。あんな胸糞悪い奴に背中預けてられるかよ」


 俺の言葉に、ロロがあんぐりと口を開ける。

 何もそこまで驚かなくたっていいだろう。

 意外と信用ないんだな、俺って……。


「ダメだよ! ユルグは国選パーティ『シルハスタ』の〝字付きネームド〟なんだよ?」

「関係ねぇよ。そんなもんが欲しくて冒険者になったわけじゃねぇしな」


 周りからは御大層に〝崩天撃〟なんて呼ばれちゃいるが、別に俺が名乗ったわけじゃないし、いつの間にかギルド公認になってしまっただけの二つ名だ。

 いまさら惜しいとも思わないし、後生大事にするものでもない。


 そもそも俺はこの幼馴染──ロロ・メルシアにただついてきただけの悪ガキに過ぎないのだ。

 ほんの数年前、俺は故郷である田舎町のマルハスで悪さばかりをする悪童だった。

 田舎の閉塞感にイラついて少しばかり荒れていた俺を、ロロが放逐寸前のところで連れ出してくれたのが、冒険者になったきっかけだ。


 ──「一人じゃ不安なんだけどさ、一緒に行かない?」


 そんな言葉が、俺にとってどれほど救いだったか。

 ロロのおかげで、俺は村から追放される前に自分の生き方について決めることができたし、これまでのことを省みるきっかけをくれた。

 初めての都会──アドバンテについてからも、田舎者で不束者な俺は色々と失敗をやらかしては、ロロにフォローされている。


 こいつがいてくれたから、俺はこれまでやってきた。

 いつしか、ロロの夢が俺の夢だと言えるほどに。

 ……だからこそ、今回の追放劇は納得できないし、許せない。

 恩人で親友なロロが追放されるとあらば、俺がパーティを抜けるのに十分な理由となる。


「もう。言い出したらきかないもんね、ユルグは」

「なんだわかってんじゃねぇか」


 小さくため息をついて苦笑するロロに、俺は笑って見せる。

 なんだかんだ言って、こいつは俺に甘いのだ。


「じゃ、よろしくね。ユルグ」

「おう」


 ロロと二人、朝焼けの中を歩く。

 奇しくもそれは、故郷を出た時と同じ光景だった。













==========

 あとがき

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数ある作品の中から、本作を選んでいただきありがとうございます('ω')!

楽しんでいただければ幸いです!

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