第13話 ハッピーエンドが希望ですが…
何、何があった?えっと……頭が痛くてボーッとする。頭を打って一瞬意識が飛んでた?尻もちをついて道端に座っている、あ、京野は?!どこ、大丈夫か?!
「兄ちゃん、気ぃつけてな。ほら犬。」
知らない人にリードを渡される。よかった、二人とも無事だ。三浦が駆け寄ってきた。
「小笠原、大丈夫か?怪我は?あれ、京野牛は?」
「あぁ、ここにいる。」
リードを引っ張って見せる。リードの先を見て三浦が叫ぶ。
「あれ、これ"ふう"ちゃんやないか?」
え、"ふう"?急いでリードを辿る。あ、この動作、既視感、なんだ、なんだ…頭の中がグルグル。あ!思い出した。あの日のこと。
そうだ、そうだ、散歩中に車に当たりそうになっていた京野を見つけて、"ふう"が駆け出して体当たりしたんだ。その勢いで京野と"ふう"は近くを通っていた自転車にぶつかってしまって…その時、僕は?僕はどうしてた?えっと、えっと、リードが急に引っ張られて…転んで意識を失ってたとか?
あの時、確か救急車がきて、誰かが運ばれてたような。意識がない、大変だって周りの人が言ってて……。朧気ながら覚えている。もしかしてあれが人間京野?心がふうに宿ったから?へ?なんだその途中からの三浦思考は。
「おい、小笠原、しっかりしろ。」
肩を揺さぶられ、我に返って手先を見ると、"ふう"がペロペロと僕の手の甲を舐めていた。
三浦と一緒に辺りを探すが京野はいない。一体自分はどんな京野を探しているんだ?
もしかしたら、家に戻っているかも。三浦は何やらスマホをいじっている。
「三浦、家、見てくる。」
と言い残し、走って帰った。鍵がかかったドア。誰もいない。もしかして、全部夢だったのか?京野の痕跡、つまり牛の痕跡…何もない。静まり返った家の中。突然、スマホが静寂の中で響く。三浦だ。
『家にいたか?』
「誰もいない。そっちは?」
『いや。ダメだ。それもだけど、さっき俺の華麗なる女子ネットワークから京野情報が入った。京野、入院してるらしい。それも例の日から。』
愕然としたが、納得の気持ちもあった。その後、三浦と何を話したか、記憶にない。
どのくらい、呆然として座っていたんだろう。"ふう"が僕の顔を舐めた。頭を撫でる。ん?何か固いものが毛の中にあった。白い石?木の枝?いや違う。
これは、牛の角。咄嗟に辺りを見渡す。あ、飲みかけのミルクの器!
残りのピースが埋まったような気持ちで角を握りしめ、ぼんやりと沈んでいく夕日を眺めた。
京野がいなくなってから、一週間が経った。 僕の生活は元通りに戻っていた。
今、はっきりしているのは、一つ目、京野は入院してるが、どこの病院かは個人情報だか、本人希望だかでわからないこと。二つ目、ふうが元気に戻ってきて、代わりに牛がいなくなったこと。
そして三つ目、京野が今どういう状態か誰も知らないこと。
そして四つ目は三浦はいい奴ってこと。毎日、僕を気にかけて電話をくれる。
あの不思議な体験を共有できる三浦がいなかったら、僕は全てを夢か妄想で片付けていた。だってその方が今よりずっと楽だ。
はぁ~、散歩行くか、玄関ドアを開ける。"ふう"が何かをクンクンして、「くーん」と鼻を鳴らす。見るとドアノブに藤村精肉店のブランケットが結ばれている。
はっと顔を上げて周りを見るが、誰もいない。そっか。ブランケットの端に"小笠原大"と名前を書いてたっけ。商店街の人が落ちてて届けてくれたんだ。
何を期待したんだか、完全三浦化してる。苦笑いして、"ふう"にブランケットを巻き付ける。商店街を散歩しよう。商店街は避けていたので、久しぶりだ。
「よう、小笠原。」
三浦だ。相変わらず疎ましいほど元気だな。
「ちょっと飲まない?今日は奢ってやる。」
自販機でミルクティーを買って、ほぃ、とくれた。二人と膝に一匹、並んであのベンチに座る。
「ガッツ!番長!」
"ふう"が呼んだ?違う、空耳だ。はぁ、と溜め息をつく。
「幸せ逃げるで。」
振り返るとニコニコ笑っている京野がいた。三浦、ニヤニヤして…お前。
「体、大丈夫?怪我とか。あ、いつ退院した?」
「なんで知ってんの?もう大丈夫。」
「京野さぁ、記憶喪失なんだって。」
三浦があまりに軽く言うんで、びっくりして京野を見る。
「実は入院少し前の記憶がないねん。だから、いろいろ思いだそう思て。ほんで番長に勧められてこの辺りに来てみてん。」
記憶がない。そっか。そうだよな。
「元気そうでよかった、です。」
ぎこちない台詞。元の京野との関係だ。
「じゃ、俺は用事あるんで。」
三浦、唐突に無情に退場、おい、牛じゃないんだから、二人で何しゃべれってんだよ。沈黙沈黙……
「なぁ、ガッツ、これ何かわかる?」
手元に白いもの。あ!と、顔を見る。
「番長には内緒な。」と京野がふふっと笑った。
犬は王道、牛はキュンです @wan-1wan
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