第12話 ピンチに"吟遊詩人M"…は役に立たない

ポケットの中でスマホが鳴動する。誰からだろう、嫌な予感がして急いで見ると三浦からの電話。

落胆と希望が混在。さっきは感謝していたのに、わりー三浦。

「もしもし、何?」

面倒臭そうに言ってしまった。しかし三浦はその逆でイラつくハイテンション。

『なぁ今、話ししても大丈夫?』

「うん」

『さっきのことな、何か進展あったか?』

「いや、全く、当たったチャリの人に話を訊こうと思ったんたけど、不発。」

京野にも関係ある話なので、スマホをスピーカーにしてしゃがんだ。途端に興奮気味のデカイ声が周りに響いた。

『な、な、俺、考えたんだわ、事故った時の状況をもう一回再現してみたらどうよ。な、よくある王道路線というやつ。』

やっぱきた、こいつは。あのラノベを知ってた時点で嫌な予感はしてた。これまでラノベ通りにことが進むと信じて何人もの女子に玉砕した、それが三浦。

「あぁ、でもその人、ダメやし、その時の状況もよくわかってないのにできるか~。」

京野と一緒に首を傾げる。

『なんもせんよりまし。いろいろ試してみろよ。チャリ役は俺がやる。』

グイグイ押してくる。絶対こいつ楽しんでる。それに反して京野は引き気味、小刻みに首を横に振っている。

「いやや、また自転車に当たるやなんて怖いし。それに実行役があの番長やで。なんでも勢いでいてまぇ!の。絶対、嫌、100%死ぬ。」

三浦に聞こえないように小さい声で早口に言う。さらにNOの首振りが大きくなった。

『あっれ、遠くで京野の声が聞こえたような気がする。おい、俺んこと言った?』

あいつ、耳だけはいいんだな。この間も京野の声を判別してたし。

「今直ぐ返事はできない、自分一人の問題じゃないし。京野と相談して後で連絡するわ。それでいいか?」

『おぅ、じゃ、待ってる。』

京野は、と…。だよな。気にかけてくれるのはありがたいが、絶対にやったらあかんやつだ。だいたい、王道って、ラノベの世界でのことだろうが。現実世界なんだけど。京野の身の危険は度外視してやがる。

三浦の電話ですっかり捜索意欲を削がれてしまった。

すっかりうなだれてしまった、京野の頭を撫でる。JKの京野だったら、絶対しない、できない。

牛の毛並みとは思えない、柔らかな手触り。微かに顔を上げて、頬を擦り寄せてくる。

愛情か同情かはっきりしない感情が込み上げてくる。防寒用に持参していた牛柄のブランケットを服の上から纏わす。

「帰ろっか。」

ブランケットごとそっと抱きかかえたとき、なぜか後ろから三浦の声。

「おぉーい。」

三浦よ、なぜそこにいる。咄嗟に京野をかかえたまま、走り出した。今はほっといてくれ。

三浦の姿を確認しようと振り返った時

「危ない!」京野の叫び声。

あ、目の前に車!ヤバイ!とその瞬間胸の辺りを強い力で誰かに押された。

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