第11話 教~えて、おじ~さん

京野、怒ってるのか、何にも喋らなくなった。ミルクを飲みながら、ずっと下を向いている。上向いては飲めないけど。何かやらかした?気になる。沈黙が怖い。

「 京野、ホラ吹きおじさん、どこに住んでる人か知ってる? 」

ドキドキしながら、意を決して話しかけた。急に話しかけたから、ビックリしたのかビクッと目を見開いて、こっちを見た。

「それがうちも噂でしか聞いたことなくて。よぅ知らんねん。でも、商店街の人とかに聞いたら何か知ったはるかもしれん」

「商店街か…。さっき訊けばよかったな。」

あんまり牛の姿で連れ歩くのは気が引ける。

「じゃ、さっきの八百屋にでも訊きに行くか。」



商店街はさっきより人通りが多くなっていた。人や自転車に当たらないようにしないと。

八百屋の前に着いた。さっき会ったばかり、しかも何も買ってない。再度来てまた何も買わないのは変だ。

「おじさん、キャベツお願い。」

「お、まだお散歩中か、キャベツね。毎度。150万円ね。」

「はい、200万円。」

キャベツとお釣りを受け取りながら、何気なくさりげなく話をもっていく。

「そういえばホラ吹きおじさんって最近見ないですけど、家、この辺りですよね。ご存知ですか?」

「ああ、あのおじさんなぁ。わしもよう知ってないんだけど。」

やっぱり無理か。どうした下を向いた、ん?少し暗い顔?

「藤村はんに聞いたんだけどな、何で入院したんか、何があったかは詳しくわからんそうや。」

「入院!それいつのことですか?病気?まさか事故ですか?」

ドキっとする。まさか、京野との事故で?!

「昨日やったか一昨日やったかの夜やわ。家の庭で不審者に襲われたそうや。まぁ、常からホラ吹きやから、どこまでほんまかは知らん。」

「家に不審者って怖いですね。どろぼうか何かですか?家、この近所?」

「いやぁ、わしもよう知らん。藤村はんに聞いただけやから。家はこの辺りやと思うで。」

入院の原因が京野とは関係なさそうでホッとした。京野の方を見ると、同じくフゥと息を吐いている。よかった。けど、入院しているんじゃ話を訊きづらい。振り出しに戻った気分だ。

「なぁ京野、藤村さんとこ行くか?」

「うーん、この姿でお肉屋さんはちょっと…微妙な気分やわ。」

そらそうだ、さすがに牛とバレるだろう。 どうしようか、京野の方を見ると、京野もこっちを見上げていた。二人して途方に暮れてしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る