第9話 謎解きは散歩のあとで

誰かに打ち明けたことで重かった心が少しばかり軽くなった。味方を得たような気分に近いか。三浦は味方としてはかなりレベルは低いが気持ちの問題だ。

京野の了解もなく、勝手に三浦に話してしまったが、嫌じゃなかっただろうか。成り行きで吐露してしまったが、この事実を自分一人で背負うにはしんど過ぎたというのが本音。


家に戻って温かい湯で足を暖めてあげる。冷蔵庫並みに冷えて小刻みに震えている足、蹄の少し上からは血が滲んでいて痛々しい。服は着せていたが寒かったんじゃないか。

早く、元に戻る方法を探らないといけない。牛でいる京野はどんな思いなんだろう。


なぜこんなことになったのか、ことの次第は情けないことに全く記憶にない。数分間がすっぽりと抜け落ちている。京野は覚えているのか?

京野用に常温程度に温めたミルクを器に入れる。自分用には炭酸水。キリッと冷えていて気合いが入る。

「あのさ、牛になったきっかけってわかる?そもそもどんな状況だったわけ?」

京野は目の前の器のミルクと、僕のグラスの炭酸水を交互に見つめる。

「うちも炭酸水が飲みたい。」

いやいや、透明なのは、姿が映る、やめとけって。とは言えず。

「体が冷えるから。なあ、さっきの話、覚えてる?」

「う~ん、ぼやっとやけど。……朝、何気に散歩してたんよ。ほしてら……どっかの犬と一緒に……たぶん自転車に当たってしもた。」

器に入ったミルクを眺めながら、ポツポツと話す。

「一緒に当たったのがうちの"風"ということだよな。」

その時、僕は何をしてたんだ、"風"が危ないことになっていた?ちゃんと見ていなかった?わからない、、、思い出せない、わからない。なぜだ。

「うんそう……ほんであかん…思て犬を抱き抱えて…」

ふと、京野が視線を上にずらす。

「……ごめん、そっからわからんわ。……そのまま意識失くしてしもうたん……やと思う。」

若干、言いよどんだ感じ?記憶がはっきりしないのだろう。

「そっか、ごめんな、僕がしっかり見てなかったばっかりに京野がこんな目に。」

やはり、自分のせいだ、記憶が抜け落ちているのは罪悪感からなのだ。

驚いたように京野がこっちを見上げた。

「ちゃうちゃう、そんなんと。」

慌てて、首を振る。

「その時、僕は何してた?"風"が飛び出したんかな?リード、どうしてた?」

真っ直ぐ京野を見つめる。もどかしくて頭をワシャワシャ掻く。

「情けないことに何も覚えてない。」

京野が足を膝に乗せてくる。真っ黒い瞳が潤んで、何か言いたそう。

「今わかる情報を簡単にまとめると、京野と風と自転車がぶつかった。そして今の状況になった。」

改めてまとめるほどではない。

「当たった自転車の人、京野、わかる?その人に聞いたらちょっとはわかるかも。」

京野がパッと足を上げた。

「えっと、たぶんやで、近所で有名なホラ吹きおじさんやと。」

「マジか。」

このままじゃ埒が明かない。気が重いがその人に会ってみるか。





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