第4話 牛って…未知の世界にようこそ

目が覚めた。

起きて確認してみるが、今度は僕が牛に……、とはならず、近くを見てみればやはり仔牛がいた。

「京野」と短く呼ぶが、なんの返答もない。

人間が牛になったらエネルギーを使うのだろうか?聞いたことないな。いや、そもそも散歩していたら愛犬がいつの間にか牛になっていました! なんて聞いたことないか。

もしや元の人間に戻ったのか、それなら万事OKなんだけど、まさか死…不吉な想像を打ち消すように短く頭を振る。息は?恐る恐る牛のお腹を触ってみる。

「ふ~」口元から息がこぼれる。生きてる。よかった。牛か京野かわからんが息してる。安堵。何にかはわからないが。

時計を確認すると、もう夕方に近い時間を指している。食事の用意をするか。立ち上がりかけて、止まる。はて牛って何食べるんだ?

伸びをしながらキッチンに向かう。草食だよな。冷蔵庫に頭を突っ込んで暫し悩む。

「電気代、もったいないで。」

後ろから、正確には斜め後ろかなり下から声がした。うわ、ちっちゃ、踏みそうになった。

「食べ物探してたんだけど。草とか藁、無くて。どこに売ってるかな?」

半分真剣に半分冗談で聞いてみた。

「うち、藁は嫌や。ステーキか唐揚げが食べたいわ。」

プリプリ、怒って蹄を鳴らしてる。音が小さくて頑張ってる感じがかわいい。

「肉食、消化できる?無理無理。藁、食べとき。はは、あ、」

言い過ぎた、 シュンとしてしまった。屈んで様子をうかがいながら聞いてみる。

「何食べられそう?」

小首を傾げて、牛なりに考えている。腕組んで欲しい。

「オートミールにベビーリーフいれてリゾット風にしてくれへん?」

「……ごめん、日本語訳して。」

今まで料理なんてしたことないし、ましてやそんなお洒落なもん食べたことない?いや、あるのか?

「うちが言う通りに作って。」

ちょっと飽きれ顔で言われた。

「作れる?意外。」

「いっつも自分でご飯作ってるんやで。失礼やわ。オートミールはある?」

「たぶんない。米はある。」

母親はいないのだろうか、ご飯を作ってくれないのだろうか。気になったが、パンドラの箱の気がして気に留めないふりをした。

「じゃあ、米で。」

京野の声が大きくなってイキイキしてる。

なんだか楽しい。家に居てこんな楽しいことは最近なかった。誰かと料理する、それだけがこんなにワクワクするなんて、ずっと忘れていた。

出来上がった料理はきてれつなものだったけど、二人で笑いながら食べた。京野が美味しそうに食べるので、僕も嬉しくて美味しくて、、そして涙が出た。






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