第3話 牛女子かわいいかな
抱っこだぁ~~!何を言うか。
「だって四足歩行、今までしたことあらへんもん。なんや体のあちこちが痛いねん。」
こんなフレンドリーな奴だったかな?今まで数える程しか話をしたことがない。女子同士でいても、あまり目立たない感じだったような。
しかし、うぅ。牛の抱っこ…やったことないし~いや、どうすればいい?お姫様抱っこぽいのがいいのか…してみる?
あ、座り込んでしまった。怒ったのか?ん?ほんとに辛いんだ、涙目になっている。冗談ぽく言ってるけど、一番混乱しているのは京野なんだ。
「ごめん、おいで。」
犬にするように、しゃがんで、はいと両手を差し出す。よろっと立ち上がって、両手に体を預けてきた。
暖かい、もっと骨ばっているのかと思ったが柔らかい。前足を肩に載せてくる。
「大丈夫か?」
「うん。」
額を頬に刷り寄せ、頼り無げに全身を預けてくる。あまりにも儚げで壊れそうだ。寒くないかな、コートを寄せてそっと包みこんだ。
家に着いた途端、どっと疲れが出る。愛犬"ふう"用の洗面器にお湯をためて京野牛の足を洗う。折れそうに細い。ついでにお湯で温めたタオルで体を拭いてあげる。気持ちよさそうだ。
心は京野でも体は牛だから、人間の食べ物を食べて大丈夫なのか?とりあえず、コーンフレークと牛乳。
「これどう?食べられる?」
「これ牛乳?チャイティーがいい。それに自分で食べられへんから、食べさせて。」「あ、牛だから、チャイか。京の都なんだから、抹茶が似合うのに。」
牛、チャイ、笑える。
なんとまぁ、こんな奴だったのか。今まで知らなかった。寡黙なイメージだったのに。
しゃべる"ふう"みたいで面白いが、あまりかわいくない。かわいく喋られても笑えるだけだ。
「んで、今からどうする?病院行く?」
「そんなん、お医者さんになんて説明したらえぇん?暫くここに置いてぇなぁ、愛犬の代わりに。」
確かに、この奇妙な現象を第三者を納得させる説明ができる自信は全くない。自分がよくわかってないのだから。
嘆願するような瞳でこっちを見ている。不安なんだろうな。
「家族が心配するよな。」
そうだ、家族、せめて両親には説明しないと。
「親は殆ど家におらんし。大丈夫。それよりガッツの親は?」
「うちは今、両親とも父方の親戚の用事に行ってるから、暫く留守。」
そうだ、親戚の集まりは憂鬱。いろいろ知りたくない事を聞かされる。
朝から疲れた。一眠りしよう、もしかしたら夢だった、なんて落ちだったらなんてことない。でも、それはつまらないような、一人の留守番は少し寂しかったので、自分の中で京野牛との時間が楽しみになっていた。
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