第4話 手伝い
「はぁ~……」
「お疲れですね」
「今の時代に英和辞典と和英辞典もって運ぶなんて思わないでしょ」
「どうしたんすかね、今日みんなこぞって電子辞書忘れてくるなんて」
「他人事みたいに言ってるけどあなたも含まれてるんだからね」
「仕方ないじゃないですか、昨夜は勉強がはかどったので寝るの遅くて」
「……まあ最近ちょっと点数上がってきてるけど」
「先生のおかげです」
「私がいながらちょっとしか上がってないともいえるわね」
「……人間得手不得手はあるもんですから」
「じゃあ何が得意なの?」
「先生今日の髪いいですね」
「露骨よ。ほめるのも話題そらすのも」
「すみません今日ずっと見てたんでつい」
「授業中も?」
「授業中も」
「黒板と教科書見なさい」
「見てたよ。読んでないけど」
「だからちょっとしか成績上がらないのよ」
「一部のおかしな学校では男子生徒の欲情煽るから禁止されるらしいですよ、ポニーテールは」
「そんなふざけた学校の話はしてない。それにラーメン屋行った時も結んでたでしょ」
「覚えてますよ。見惚れてたせいでラーメン伸びかけましたから」
「じゃあ今更じゃない」
「好きなラーメン屋は何度も行きたくなるじゃないですか。そういう感じで何度も見たいんです」
「女の髪をラーメンに例えるな」
「それはすみません。ところでなんで急に結んだんですか?」
「最近暑いからよ」
「ああ、そういうことですか」
「なんだと思ったの?」
「男の好みかと」
「セクハラ」
「すみません」
「……そんな男いないわよ」
「寂しいですね」
「君もいないでしょうが」
「いますよ?」
「……」
「おっと、辞書落としたら危ないですよ先生」
「え、ああ、ごめんなさい」
「そんなにショックでした?」
「……別に。若いなって思っただけよ」
「相手、気になります?」
「生徒同士の誰が付き合ってようが興味はないわ」
「学生じゃないよ、相手」
「……事案?」
「成人してるから」
「あなたが未成年だからどのみちよ」
「もう18なんで」
「どっちでもいいわよ」
「というか別に付き合ってないし」
「……じゃあ恋人じゃないじゃない」
「俺そんなこと言ってないです」
「……」
「先生、流石に辞書全部一人で持つのは辛いです」
「大人をからかった罰よ」
「すみませんでした」
「ん」
「いや、いいですよ積んだままで。もう距離もないですし」
「……ありがと」
「いえ」
「……」
「……」
「……」
「……誰か気になります?」
「どうせ私とか言うんでしょ」
「自惚れが過ぎるよ先生。あってるけど」
「じゃあ自惚れじゃないわね」
「そうなりますね」
「君の言いそうなことはわかってきたから」
「でも一瞬信じましたよね」
「……」
「……」
「……」
「……先生、流石に両手ふさがってるのでドア開けてほしいんですけど」
「足があるでしょ」
「……はい」
「冗談よ」
「ありがとうございます」
「ちょっとかがんで」
「キスですか?」
「上の辞書とるのよ」
「そこ置きますよ」
「ありがと」
「いえ」
「どっちがどこですか?」
「英和が上、和英が下、かな」
「承知です」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……あ、ぼくやりますよ」
「ん、ありがと」
「いえいえ」
「いいわね、背が高いと」
「先生も低くはないでしょ」
「まあ同年代の平均よりはね」
「俺も同年代の平均よりは、です」
「いくつ?」
「18です」
「そっちじゃない」
「174です」
「そこそこね」
「先生は?」
「女性に年齢聞くな」
「そっちじゃないです」
「女性に数字聞くな」
「すみません。じゃあ62ってことにします」
「なんでよ」
「キスしやすい身長差は12センチらしいので」
「64よ」
「俺が2cmのヒールはけば解決ですね」
「なかなか斜め上の対策ね」
「多様化の時代なので」
「そうね」
「まあ愛があれば身長差なんて関係ないですけどね」
「愛があれば、ね」
「2cmのヒールがあれば愛は関係ないですね」
「最優先事項でしょ」
「これで全部ですか?」
「そうね、ありがと」
「先生のためなら」
「……」
「……」
「戻りましょうか」
「はい」
「……」
「……」
「……」
「……似合ってます、髪」
「ありがと」
「かわいいです」
「ポニーテール好きなの?」
「今のかわいいは先生のことです」
「……ポニーテール好きなの?」
「好きですよ。別に一番好き、とかではないですけど」
「じゃあ一番は?」
「気になります?」
「……多少」
「……」
「……なによ」
「いえ、なんでも。……そうですね、特にこだわりはないですけど、いつものは綺麗って感じで好きです」
「……そう」
「先生短い時はあったんですか?」
「学生のとき……高校入る前くらいまではね」
「そうなんですね」
「ええ」
「見てみたいです」
「そのうちね」
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