第3話 自主補習

「……」

「先生、ここ過去形?現在形?」

「……過去」

「ん、そうか」

「……」

「……」

「……ねぇ」

「なんですか」

「……」

「……」

「……ありがと」

「なにがですか。お礼言うのはこっちですよ、勉強見てもらってるし」

「……ちょっとしつこかったから、助かったわ」

「イケメンに言い寄られても動じない人だと思ってました。俺にはそうだったし」

「どこにイケメンがいるのよ」

「節穴?」

「調子に乗るな」

「まあいくら俺でも、見た目に関してはあの人には適いませんけど」

「どこが勝ててるっていうの?」

「先生のことも考えてるとこ」

「……」

「……」

「……」

「……沈黙やめてくださいよ。恥ずかしくなってきます」

「自分で言ったんでしょ」

「いつもみたいにあしらわれると思ってたんだけどな」

「……まあ、認めるべき部分は認めてるから……」

「あ、え……」

「……」

「……そ……っすか」

「……」

「……」

「……」

「……ああいうの、タイプじゃないんですか?」

「んー、顔はまあかっこいいと思うけど」

「同じ職場は嫌な人?」

「そういうわけでもないけど」

「クラスの女子はきゃあきゃあ言ってますよ」

「あの人年下好きって言ってたらしいからね」

「それ教師が言っていいの?」

「別に生徒とは言ってないしいいんじゃない?」

「ああ、それで先生がターゲットに」

「やめて」

「今日誘われたのが初めて?」

「誘いでいえばね」

「え、実は誘ったことあるとか」

「誘ったわけじゃないけど、ご飯行ったことはあるわよ」

「……え、まじ?」

「高校生だってそのくらいはするでしょ?」

「いやまあしてるやつもいるけど……そっか……」

「大人だからね」

「……」

「……」

「……」

「ここ過去形ですか?現在形ですか?」

「そこは現在形」

「これは合ってますか?」

「スペル以外は」

「あ、ほんとだ」

「……」

「……」

「……」

「――これなんて読……なに笑ってんすか」

「他にも先生いたわよ」

「え?」

「というか、先生の女子会みたいなのにあの人がついてきただけよ」

「えぇ……それはどうなの」

「問題ないわよ。私以外は大歓迎って感じだったから」

「先生は?」

「どのみち『女子』は私一人だなって思ってた」

「やめてあげなよ」

「安心した?」

「だいぶ」

「そ」

「安心してほしかった?」

「からかったの」

「実は先生も年下好き?」

「別に年齢でそういうのはないし、私は問題のある行動も発言もしない」

「年下も問題なしと」

「都合のいい耳だこと。ところで、いつまでやるの?」

「なにがですか」

「課題……じゃないか。問題集」

「だってわざわざ教えてほしいって言って先生引っ張ったのに、すぐ終わったらまんまり変わらないじゃないですか。また言い寄られますよ」

「もう大丈夫よ」

「じゃあ先生といたいからです」

「必要分終わったら帰りなさい」

「また口説かれたいんですか?」

「ああいうのはすぐだろうが時間経とうが変わらないわ」

「……行くの?」

「残念だけど、彼はタイプじゃないわ」

「そうですか」

「安心した?」

「安心させたかった?」

「はいはい」

「じゃあ先生のタイプは?」

「私を拘束しない人」

「俺帰ります」

「はいお疲れ様」

「ありがとうございました」

「……」

「……」

「……でも断るにも理由がいるのよね」

「まあその方が断りやすいでしょうね」

「君家近いんだっけ?」

「まあそうですね。10分くらいです」

「ちょっと早いけど、ご飯でも行こうかしら」

「いいんじゃないですか、混んでないでしょうし」

「君の家は今日の晩御飯なに?」

「今日親が残業らしいのでレトルトカレーでも食べますかね」

「君は料理しないの?」

「あんまり。できなくはないけど」

「そう」

「先生はするの?」

「一人暮らしだしね。今日は食べに行くけど」

「先生の手料理食べてみたいなー」

「他人に出すようなものじゃないわ」

「じゃあ身内になればいいか」

「養子にでもなる気?」

「してくれるなら」

「しないわよ」

「じゃあ他の手かな」

「他の手って?」

「聞きたい?」

「私が予想してなさそうな答えならね」

「どうだろうね」

「ほら、早く帰って着替えてきなさい」

「はい、ありが……なんで着替え?」

「君が制服だとバレるでしょ」

「……先生?」

「ラーメン、好き?」

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