第7話 対決

- たっ!


という音とともに、アストリアがいた場所には残像だけが残っていた。

アストリアは素早く動き、拳に黒炎を添えて、ペルシアの目の前まで一瞬に迫ってきた。

ペルシアはそんなアストリアを見ると、にっこりと笑い、口を開いた。


「面白い。」


-タっ


ペルシアは瞬く間に近づいてきたアストリアの片腕をつかみ、 そのまま空中に向けてアストリアを力強く投げ出した。

ペルシアによって飛ばされたアストリアはゆらゆらと空を飛び、何回も宙返りを繰り返す。


暫くすると、空を飛んでいたアストリアは下に向けていき、バタンと地面に落ちた。


-バタン!

-ごろごろ。


地面に落ちたアストリアは地面で何度も転がり、体にごみがついていった。

アストリアは地面からゆっくりと立ち上がると、首をしたに向け、自分の服を確認した。

すると、自分の服に土がついているのを確認したアストリアはこの状況が悔しくなり、唸り声を出した。そんな彼女は怒りが頭のてっぺんまで上ってきたのか、頬がますますパンパンになっていった。


それを見てペルシアはけらけらと笑い出した。彼女の肩がビクッと動き出す。そしてペルシアは笑いながら挑発するように、アストリアに向かって指を前後に動いた。


アストリアはそんなペルシアの挑発に、もうこれ以上は我慢できないのか下に向けて俯くと、身体中から黒い気配をそよそよと流れ出し始めた。

そして、俯いていたアストリアはゆっくりと顔を上げ、恐ろしい目つきでペルシアを鋭く睨むと、 そのままペルシアに向かって飛び出していった。


-たっ


あっという間に、アストリアはペルシアの前に移動した。そして、アストリアはその小さな体から出るとは思えないほどの早いスピードと強い力で、ペルシアを攻撃した。


- タタタタッタッ

-タっタっ

-タアっ!


だが、ペルシアはそんな猛烈なアストリアの攻撃を自分の固い筋肉と力で全部簡単に受け止めた。


「ハハハ!これだよ、これ!もっと頑張ってみろよ。小娘。」


と、ペルシアはこの状況が面白いのか、大声で笑いながら戦闘を楽しんだ。

一方、アストリアは戦闘の中、今度は姿勢を変えて拳を少し後ろに伸ばすと、彼女の手の黒炎が大きく灼熱しゃくねつし、そのままペルシアに向かって拳を突き刺した。


アストリアの突発的な攻撃に、ペルシアもさすがにこれは予想していなかったのか、少し慌てた表情を見せると、素早く姿勢を変えて自分の片腕で黒炎を含んだアストリアの拳を軽く受け止めた。


- パアッ!

-ちぃぃっ。


大きな波動が鳴り響く。静かな湖の中で水玉が落ち、水と触れあうその中心からゆっくりと広がっていくように波動は空気を媒体に響いた。


しばらくすると、今度はペルシアの瞳に寒気が宿り始めた。


「これからは私の番だ。」


ペルシアがそう呟くと、アストリアはすぐ異常を察知し、ペルシアがいるところから離れていった。


ペルシアの周囲には寒気が集まり、彼女は両腕を空に向かって上げると、そのまま腕を振り、床を強く叩きつけた。


-パアッ


地形が変わる大きな音と共に、打ちつけた土地は壊れていき、波動が円の形を描きながら鳴り響いた。


-ううううん!

-くぅぅ..


煙が吹き荒れる。

アストリアは身を丸くして地面を転がると、再びたちあがり、姿勢を整えた。そして彼女はゆっくりと首をあげ、煙が上がっているところに視線を向ける。

すると、煙の中からは自分の体より何倍は大きい黒い影が恐ろしいスピードで近づいてくるのが見えた。

しばらくして、曇った煙の中からは寒気を全身に纏っているペルシアが煙を掻き分けながら出てきた。そして彼女はそのまま前にいるアストリアに飛びかかった。


だが、アストリアは早い瞬発力で地面に潜って姿を消し、間を置いて、ペルシアから少し離れたところでまた姿を現した。


「はあ?ちびのくせに そんな魔法も使えるのか?」


と、ペルシアは今の状況が想定外だったのか、ぼっとした顔で土から出てきたアストリアを眺めた。

アストリアはそんな驚いた顔のペルシアを見ると、そっと笑って見せる。


-シッ


ペルシアはアストリアを手でつかむのは無理だと判断したのか、今度は頭を上げて上を向くと、大きく口を開いて息を吸い込み、吐くとともにハウリングをした。


「あぅぅぅぅぅぅぅぅ!」


すると、ペルシアの周りからはフリージングエフェクトが起こり、そこには燃える青い目をもつ、白いオオカミ4匹が現れた。


アストリアは予想外のオオカミたちの登場に、少し驚いたのか、慌てた表情を見せた。


「弟子、これからが本番だ」


ペルシアはそういうとともに、両手をパっとたたいて大きな音を立てた。すると、白毛が印象的な4匹のオオカミたちは早い足取りでアストリアに向かって走り出していった。


- タッタッタッタッタッタッタッタッタッ

- タッタッタッタッタッタッタッタッタッ


オオカミたちはアストリアを包囲しながら走っていく。

アストリアはますます近づいてくる狼たちを見て、もう逃げられないことに気づいたのか、姿勢を改め、戦闘の準備をした。


(がらがら)

(がらがら)


まもなく、二匹の狼たちがアストリアの正面に向かって突撃し、アストリアは近づいてくる2匹のオオカミの顔に力強く黒炎が添えられている拳を刺し込んだ。


-キィンキン!

-キィン


アストリアの攻撃を受けたオオカミたちはきゃんきゃんと鳴き声を出し、消滅するように空中で分解された。

だが、首を回して周辺を見てみると、まだ残った2匹の白いオオカミたちがアストリアに向かって両側から走ってくるところだった。


-キャアッ!


左に迫ってくる1匹のオオカミが大きく口を開いて鋭い歯を見せながら、アストリアを襲ってきた。


しかし、アストリアは動揺せず、飛びかかってくるオオカミの首を手っ取り早くつかみ、そのまま残ったオオカミのいるところに投げ捨てた。


-きぃん!


2人のオオカミは互いに衝突し、白い粉を散らかしながら分解した。

ペルシアはそれを見て、感嘆の声をあげる。


「おほぉ。」


ペルシアの口の形が丸く収まった。

だが、そんなペルシアの反応とは裏側に、オオカミたちを倒したアストリアはペルシアがいる方向に視線を移すと、恐ろしい目付きで睨んだ。そして彼女は息をする暇もなく、ペルシアに飛びかかる。


-たっ。


しかし、アストリアはあっという間にペルシアに近寄りながら、自分がやっていることが間違っていることに気付いた。

なぜなら、近づいてくるアストリアを見て、ペルシアは顔に笑みを浮かべていたからだった。


(にやり)


ペルシアは自分の前にいるアストリアを見ながら大きく息を吸うと、


-すーっ


首を後ろに引いた。そして口を開けてパアッという音とともに吸い込んだ息を全部吐き出した。


- パァァー!


周辺の土地が扇形に割れて波動が起こる。その波動はますます広がり、近くにいるアストリアを襲った。


-ウーン


「あぅっ」


アストリアは音波に当たり、体を痙攣させた。

そして彼女はついに気を保つことが出来ず、そのまま力なく床に倒れる。


「...........」


ペルシアは地面に倒れたアストリアにゆっくりと歩いてきては、口を開いた。


「訓練終了。」


アストリアはペルシアの余裕満々な顔を見ながら、そっと目を閉じた。




***




それから何時間がたったのだろうか、アストリアはやっと気を取り戻し、ゆっくりと目を覚ました。そして目を覚ました彼女は体を起こし、首を回して周囲を見回す。


すると、外はまだ日差しが強く、アストリアは目をしかめた。太陽から目を離し、今度は首を下を向くとアストリアは自分の体の上に革服が覆われていることに気づいた。アストリアはその服を見て、すぐこれがペルシアの服であることに気づいた。たしか、そんな覚えがあった。


周辺を見てみると、少し離れたところにはペルシアが退屈そうな顔で石を弄って遊んでいるのがアストリアの目に入ってきた。


暫くすると、ペルシアはアストリアの動く音を聞いたのか、耳をぴんと動かし、アストリアの方に首を回した。


「あ、やっと起きたのか、私の弟子。まじ退屈で死にそうだったよ。」


と、ペルシアは今までアストリアを待っていたのか退屈そうな顔で言い、そう言ってから岩から体を起こした。そしてペルシアはゆっくり歩いてアストリアが居るところまで来ると、アストリアの体を覆っている自分の革の服を手でつかみ、自分の身に着けた。


「今日はこれで訓練は終わりだ。(まぁ、今日の訓練は少し過激的ではあったが····仕方ない。これは全部お前のお父さんがそうしろと俺に言ったからな。)とにかく、解散。明日また会おうな。」


(にやり)


そう言って、ペルシアは口笛を吹きながら道に沿って歩いていった。

アストリアは暫くの間、そんなペルシアの後ろ姿をじっと眺めた。そして、彼女は自分の拳をぎゅっと握ると口を開いた。


「くっ·····次は絶対負けないから·····。」


アストリアは地面に拳を打ち、悔しそうに言った。




***




次の日。


今日もアストリアとペルシアは昨日と同じように、昨日訓練した場所に再び集結していた。

相変わらずそこには昨日の戦闘の痕跡がそのまま残っている。


ペルシアは地面に座って自分をじっと見つめて、自分が言うのだけを待っているアストリアを見ながら、口を開いた。


「今日は·····うむ·····何だ?うん·····あ、身体鍛錬をする。」


と、ペルシアは少し慌てた表情で、指先を空に向けながら言った。

アストリアはそんなペルシアの曖昧な言い方に、そっと横に首をかしげた。正直、ペルシアに計画というものがあるのかどうかが疑問だった。


ペルシアは何か探し物でもあるのか、しばらくの間、周りを見回すと、「おほ~」という音を出し、大きな岩がある方へ走っていった。

そしてペルシアはそこで自分の体より大きなある岩を両手で軽く持ち上げると、アストリアがいるところまで持ってきた。

アストリアはペルシアの頭の上にある岩を見ながら、めっちゃ大きなあと思った。


「これを持って一周して来い。それが今日の訓練内容だ。」


ペルシアはそう言ってから、岩をアストリアのすぐ前にそっと置いた。


-クーン。


アストリアは暫くの間、その岩をじっと見つめた後、袖をまくった。


そして、準備が終わったアストリアはそのまま前に置かれている岩をゆっくりと持ち上げた。


「グイッ。」


アストリアは意外と何の問題もなく簡単に、自分の体より何倍は大きい岩を持ち上げることに成功した。

それを見て、ペルシアもさすがにアストリアがその岩を持ち上げるとは思わなかったのか、驚いた表情を見せた。


「ほぉ、これはとても興味深い。 その小さな体からそんな強い力が出るとはな。」


ペルシアはそう言ってから、口元を上げそっと笑った。

実はこんなことはアストリアにとって朝飯前みたいなものだった。なぜなら、すでにアストリアは、毎日のように図書館で自分の体重の数十倍に達する本を運んだりしていたからだった。


「こいつ、教える楽しさがありそうだ。」


ペルシアはそう言って舌をぺろぺろと鳴らした。


一方、ペルシア訓練指示を受けたアストリアはペルシャの言葉通り、岩を持ち上げたまま森の中の広場を一周した。


それから少し時間が経ち、一周を終えたアストリアはペルシアがいるところまで戻ってきた。そんな彼女には思ったより厳しいトレーニングにもかかわらず、疲れている様子は見当たらなかった。


岩の上に横になって空を見ていたペルシアは、自分の予想より早く訓練を終えた。少し驚いた表情で岩から身を起こした。


「何だ、思ったより早く来たな。まじで俺が言った通りにやったのか。まさか、手抜きはしてないよな、そんなのは俺には通じないぜ。」


と、ペルシアは怪しい顔でアストリアを見つめてきた。


「うん。本当に言ってた通りにやってきた。手抜きなんかしてない。嘘じゃない。」


疑ってくるペルシアの言葉に、アストリアは事実だけを述べる目でペルシアを見ながら言った。

ペルシアもアストリアの答えを聞くと、確かにアストリアが嘘をついていないと判断したのか、ますます深刻な表情になっていった。


「じゃ···これでは足りなかったというのか…ふむ·····。」


ペルシアはあごを撫でて悩む。

それから暫くすると、悩んでいたペルシアは何かいいアイデアでも浮かんだのか、口元が上がると手をポンと叩いた。


「ああ、魔物と戦わせればいいんだな。なんて頭のいいやつだ俺というのは。」


ペルシアはそう言ってから、意味の分からない妙な顔つきでアストリアを見つめながら、にっこりと笑った。

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私は普通のスライムとして、私のヤンデレ的彼女は最強の猫獣人として転生しました。 @shumikatsu8364

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