第2話 スライムの生は大変だ。
私は「スライム」なのか、「人間」なのか、それが問題だ。
精神は人間だが、体はスライム。
スライムである私が人間の村に行けば、この体ではきっと追い出されるか、それとも彼らに狩られることは明らか。
だが、だからといって、再びあの怪物たちでいっぱいの洞窟には帰りたくない。あの洞窟は地獄だ、地獄。
と道を進みながら、これからどうしようか悩やんだ。口からおのずとため息が出る。
「はぁ…どうしよう」
頭がずきずき痛む。
結局、頭を絞って長い間悩んだ結果、私は一つの結論に達した。
「ただ歩き回ろう。」
一番簡単な方法。
正直に言うと、これしか方法が思いつかなかった。 無謀なやり方ではあるが。
私はそうやって、あてもなく流離い《さすらい》始めた。
最初は森の道に沿って進むか、木々や草で生い茂った森の中に入るか悩んでいた。
森の中はきっと他のモンスターもいるだろうし、今の弱い私は食われる確率が高い。
「やっぱり、このまま道に沿って行くのが正しいだろうな。」
私は冒険家たちと出会うことがあっても、人間たちが通う森の道を選択した。
同じ道の向こうから冒険家たちが歩いてきた時、できるだけ道の端にくっついて行けば、周辺の茂みに隠れればいいと思ったからだ。
そうすれば冒険家にバレずに進むことができる。 もしばれたとしても、森の中に入って身を隠せばよいのだ。もちろん、森の中に逃げた後、怪物たちが飛び出てきたら、そのまま異世界生活終了ではあるが。
それからどれくらい歩いたんだろう。
私は一つの分かれ道に出くわしていた。
分かれ道は3つに分かれており、その分かれ道の中央には木で作られた標示板がそびえ立っていた。
その標示板にはこの世界の文字で何々と書いてあったが、この世界の文字が読めるはずがない私には意味がなかった。
しかし、幸いにも、私のように文字を読めない人々のためなのかは分からないが、表示板には小さいながらも絵が描かれていた。
一番右の道を指す矢状の標示板に、池と丸いスライムの絵が描かれているのが見える。
多分、この道に沿って行けば、池とスライムが出てくるという意味なのだろう。
私は自分と同じスライムたちが歓迎してくれるかもしれないと思い、スライムの絵が描かれた表示板に沿って軽い足取りで進み出した。
* * *
「あ、えっと····こんにちは。」
スライムたちに向かって話してみる。私の声は震えていた。
慌てたせいでスライムと会話を試みてしまった。スライムたちに分かってもらえるはずがないのに。
青色のスライムたちは一直線に並んで私を警戒する。
私を見つめる彼らの表情はとても良くない。
表情をゆがめたせいか、彼らの顔にはしわができて過ぎていた。あれ、これで合ってるよな?
その青いスライムたちは口を開けると、私に向かって一斉に水流を吐き出した。
冷たい水の流れが銃弾のように私に降り注ぐ。
「あっ!ごめん!分かった、わかった。行くから。もう···やめてくれええ!!」
スライムたちが水を放つのを後にして、私は彼らから素早く逃げた。
結局、私は追い出された。ぬれぬれのままで。
いくら同じスライムだとはいえ、住んでいるところが違えば、受け入れてくれないようだ。
「はぁ…」
湿って水をぽたぽた流しながらため息をつく。
でも、いいことはスライムたちが水を噴き出してくれたおかげで水の補充はできたということだった。ちょうど喉が渇いているところだった。
私は、また道に沿って歩く。
だが、スライムたちに断られて一人になったとはいえ、私はどんなことがあっても人間の村にだけは行きたくなかった。
結果は、行かなくてもすでに目に見えていたからだ。
多分、村にスライムが入ってきたといって、あらゆる装備という装備は全部持ってきては、追い払うだろう。目に浮かぶわ。
もちろん、すべての人がそうだといっているわけではなく、私を追い出さない人がいるかもしれない。
が、何の能力もない平凡なスライムである私は慎重に選択しなければならなかった。命はたった一つだけ。小さな希望のために命をかける必要はない。
そうやって、道を歩いていた私はまた終わりのなさそうな旅を続けた。
進みながら、私は孤独と寂しさで歌を歌い始める。
「あ、あ~私を受け入れてくれる人いないか~。あ、あ~私を受け入れてくれる人いないか~。
····?
人?人という表現が正しいのかな····うん····。」
よくわからない。人って言うとちょっとおかしい気がするから動物って言った方がいいかもしれない。だって私を受け入れてくれるのが人間だとは限らないから。
でも、よく考えてみたら動物というのも変な気がする。
「やはり、動物というのもおかしいな…。」
私は道を歩きながら、それについてしばらくの間深く考えてみた。
結局、どっちでもいいという結論に達し、ただ人ということにした。正直にいうと、考えるのが面倒になってきた。
わたしはその後も、止まることなく道に沿って進み続けた。
道に沿って前に進むと、だんだん時間が経つにつれて目の前の風景が映画の場面が移るように変わっていく。
今まで歩いていた、木々と茂みでいっぱいの緑色の森。
そこには、多くの多様な生命体が生態系を築いていた。
その次に、野生動物が草をかじっている広い芝生の平野。
そこには、白い毛の羊と、ところところに黒いまだらがついている乳牛たちが野に生えた草を食べていた。
しかし、その動物たちは、道上を歩いている私を見ると、急に舌をぺろぺろさせながら私に飛びついて来るのだった。そして、そんな動物たちから、必死に逃げる私。
「ううあ····何でついてくるんだよ!私は草じゃないぞ!」
私はその動物たちが見えなくなるまで、走り続けた。
場面は変わり、いつの間にか私は巨大なワニが住んでいる沼地に来ていた。
私は、そこにある沼をわたるために、沼の中央にある道を歩いていった。だが、ワニたちにそれがばれて、食べられそうになった。
一口で私を飲み込もうとする怪物ワニの、歯でいっぱいの大きな口を私はよろよろと避ける。
少しでも避けるのが遅かったら、すでに彼らのお腹の中に入っていただろう。
沼を過ぎて次の場所は、大きな岩や岩柱があちこちにそびえる石の広場だった。
周りに大きなオオカミが群れをなして歩いているのが目に入る。
彼らの目は赤く輝いており、シルバー色の毛を身に纏っていた。 やはり平凡なオオカミではなさそうだ。
私は向こうに行くために、そこにある石橋を渡ろうとした。が、幸い、彼らはスライムの私には興味がないのか、追いかけたりはしてこなかった。
そう、私はおいしくないんだよ。
その次のところはまた森だった。
神秘的な色と雰囲気に満ちている森。そこには無数の蔓たちが上からぶらさがっていた。
その森の中にはたまに、小さな人間の形をしている精霊たちがいたが、その精霊たちは、私が道を歩いていると密かについてきた。
気配を感じた私が、後ろに首を回して彼らを探そうとすると、精霊たちは周辺の岩や藪に隠れて姿を消した。私が再び、彼らを無視して前に進むと、今度は隠れた場所から出てきては、こっそり私を観察した。
本当に厄介な奴らだ。
そのように道に沿って歩きながら、遠くから冒険家たちが見える時には、周辺で身を隠す場所を探し、隠れることを繰り返した。
たまに荒々しい怪物たちに追われたりもしたが、なんとか怪物たちの攻撃をかわし、道を進み続けた。
私が今回放浪生活をしながら感じたことは、この世界でスライムは生態系ピラミッドで最下位層に属するということだった。
弱そうな動物でさえ私を見ると、よだれを垂らしながら狂ったかのように走ってきたからだ。
草食動物である羊や牛さえも。
どうやら、スライムの人生はそう甘くないらしい。
* * *
また、どれだけ道を歩いたのだろうか。
もう道に沿って歩いてきただけで、一週間が過ぎていた。
あまりにも長い間歩いたせいで、そろそろ疲れて息が切れる。
息を切らしながら歩いていた私は、とぼとぼと疲れた心で丘を登った。
(トボトボ)
(トボトボ)
走る速度が遅い。
そろそろ限界だった。 このまま泊まるところを見つけられなかったら、私はこのまま誰かに食べられたり餓死したりするに違いない。生まれて間もなくまた死ぬなんて。
私のぷりぷりしていた体も今はもう弾力を失い、まるで空気の抜けた風船のようにぐにゃぐにゃになっていた。
そのように希望をほとんど失っていたところ。
丘を登り切った私は下を向いている首をあげ、目の前をみた。すると、目の前には、信じられないほど美しい光景が現れていた。
広大な平野に背の低い芝生が風になびかせながらひらめき、その後には白い花が日差しを浴びてきらきらと光っている。
さらに、その白い花の周りにはミツバチや蝶のような生き物らが熱心に受粉していた。
あまりにも美しい風景に、私は自分がもう死んで天国に来たのかと思った。
だが、目を何度も閉じてもう一度見ても、その光景に変わりはなかった。そうだ、私の目の前に広がっているのは夢でも、天国でもない現実だったのだ。
「ここだ
My home。」
うれしすぎて、普段あまり使わない英語が飛び出てきた。自分でも驚く。
私はゆっくりと前へ進み、まるで天国に足を踏み入れるかのようにそっと花でいっぱいの平野入ってきた。そして、芝生に身を任せながら花の香りを嗅ぎ出す。
「おお····いい香りだ。」
花の香りはストレスを減少させる効果があるのか、香りを嗅ぐと体の緊張がほぐれて頭がすっきりするような気がした。
ここよりもっといいところがこの世の中にあるのだろうか?
私は花の香りを嗅いだ後、頭を上げ周辺の美しい景色を見物した。依然として活気に満ち、自然そのものの姿。
十分にその驚異的な景色を見物した私は、好奇心からこの周辺を探索してみることにした。
私は野原の端にある小さな道に沿って歩き出した。
そのように道に沿って歩いていると、しばらくして私の目には何かが入ってきた。
それらは青く輝き、自分たちの存在を知らせる。
私がそれらに近づくと、その光はさらに明るく輝いた。近づいてよく見ると、それは他でもない一つの緑色の草だった。
「うーん…この植物は何だ?」
その輝かしい植物は羽の形をしていた。 まるで天使の羽のように。
そして、3つの葉が一括りらしく、束のように下の先を中心に一つに縛られていた。このように見ると鳥の足の形に似ている。
この周辺はこの植物の生息地なのか、近くにかなり散らばっていた。あちこちに様々な草と花の間に生えている。
私は、装飾用として使うために、その中から一束を取った。形が綺麗だから後で周辺に飾ればいいと思った、
そうやって、口にその草をくわえたまま、歩いていると。ふとこの草の味が気になってきた。こんな草は一体どんな味なんだろうか。あの時食べた藪や茂みとは全然違う味かな。
-チュルっ。
舌を鳴らす。
結局、好奇心をこらえることができず、私はその羽毛の形をした草を口で一つ取り、すっぽりと口に入れた。
(もぐもぐ)
(ごくり)
「うん、うん…!」
思ったよりおいしい。やや甘くてサクサクした食感と植物特有の粘り強さもあって悪くない。毎日食べられるなら食べたいぐらいだ。
そのように、植物が口を伝って体の中に入ると、その植物は体の中で発光した。そして、それと同時に、癒される感じがする。スライムの体が電球のように中から光を放っていた。
「おお、癒し効果のある植物か!」
治療効果のある植物を見つけたという事実に、私は少し興奮した声で話す。まるで大発見でもしたかのような気分だった。
すぐにでも、その植物に名前をつけなければならないような気分が私の体を包み込む。
だってそうじゃないか。よく大発見をすると、その見つけたものに名前を付けて上げたくなるものだ。それが珍しく、貴重なものだと判断されるならなおさら。もちろん、それだけでなくこの世でこの植物をなんと呼ぶのかはまだ知れないが、何か呼ぶ名前が必要でもあった。
私はそれらに名前を付けることにした。発見者である私の名前にちなんでだ。有名な科学者たちも新しい理論や物質を発見したりすれば、自分の名前をつけたりするらしいが。
「今日から君たちは私の名前(松本良太)を取って『
そうしてその植物は「良太草」となった。
***
いつの間にか空がだんだん暗くなってきた。夜空には明るく輝く月と星が姿を現している。
私は芝生をベッドにして横になった。 芝生の上に横たわると同時に、ガサガサという音がする。
芝生は想像以上にふわふわしていて、いい匂いがした。寝具が羨ましくないくらい。天国とはこんなところのことかもしれない。
私はそろそろ眠気が襲ってきて、目を閉じようとした。だが。目をつけて寝ようとすると、一つの問題が発生した。
「うぅ…」
(ぶるぶる)
私の体が抑えきれないほど震える。太陽のない夜は体が凍ってしまうほど寒かった。やはり裸で何もつけずに寝るのは無理だったのだ。今の私には暖かい布団のようなものが必要。そうしないと、今すぐにでもスライムの体が凍ってしまいそうだ。
私は震えながら周りを見回した。
「布団に使えそうなもの…」
周りを見ている間も私の体は絶えずに震える。
体を回して周辺を見てみると、夜になってもよく見える白い花々と、青い芝生で覆われた広い野原が夜の冷たい風になびいているのが目に入った。
さらに、首を回して周りを見てみると、今日私が名前をつけてあげた「良太草」がある場所が明るく輝いているのが目に入った。
それを見た私には、ついに良いアイデアが思い浮ぶ。
「あれを利用すればいいのか。」
私は早速体を起こして明るく光を放っているところに行き、そこで「良太草」をいくつか採った。そして、「良太草」持ってきた私は、それらを布団のように体の上に覆う。
すると、私の予想は合っていたようで、体はだんだん暖かくなり、眠気が襲ってきた。
私は横になって間もなく、目がすーっと閉じて眠りについた。
翌日。
今日も昨日のように暖かい日差しが野原を照らす。白い花々は太陽が立ち上がるにつれて、一斉に太陽の光に沿って動いた。
目が覚めた私は簡単に体を伸ばしてストレッチをした。今日も驚くほどの弾力を見せてくれる私の体。
午後になると、私は
羽ばたきをしながら花々の周りを飛び回っている蝶たちを見ていると、なんとなく心が落ち着く。
さらに、暖かく吹いてくる風と香ばしい花の香りはおまけだ。私はしばらくの間、そんな美しい景色を見物していた。
ぼーっとしたまま時間を潰していると、道の方からある人たちが集まって歩いているのが見えた。
私は何も考えずにそこをじっと見つめる。思わずつばがそっと口から流れ出た。
でも道の方をよく見てみると、道に沿って歩いている彼らはどこかで見たような見慣れた顔だった。
「あ····あれ?」
彼らを見ていると、私の目は徐々に大きくなり、頭の中が雷が落ちるように光った。そして一つの記憶がよみがえる。
確かに、今道に沿って歩いているのは私が洞窟で見たパーティーメンバーたちだった。
人間3人に獣人一人のパーティー。多分、名前がスパータンとノーエル、リアだっけ。
だが。
「あれ?でも、あの時は4人じゃなかった?」
目に見える人数はいくら数え直しても3人だけ。よく見ると、その大男の獣人は怪我でもしたのか、その時見た女性2人に助けてもらいながら、かろいじて歩いている。
どうやら助けが必要らしい。私は暫くの間、彼らを助けるべきかどうか悩んだ。
「ふむ…助けないといけないみたいだし····。でも、私を信用してくれるかは分からないな。
これはほぼ賭けに近かった。もし彼らを助けようとしたが、スライムである私を警戒し、攻撃でもしてくれば、殺されて命を失うこともあり、助けたからといって、何か大きな利益があるわけでもない。
「ふむ········。」
私は顔をしかめてまでかなり長く悩んだ。命を賭けてまでやるべきことなのか。
しばらくすると。
結局、私は彼らを助けることにした。
よく考えてみると、やはり私は助けが必要な人を見ないふりすることなんてできない人だった。いくら考えても、彼らをこのまま見捨てることなんて到底できない。
私は彼らのいるところまで行く前に、口に「良太草」3束を口にくわえ、道の方へ走っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます