僕と森から来るもの
ワシュウ
第1話 森から来るもの
僕の家族は父さん母さん僕と妹の4人家族だ
兄さんと姉さんがいたけど、兄さんは徴兵があって出ていったきり帰ってこなくなって
姉さんはある日突然いなくなってしまった、美人だったから誘拐されたんだと思う
もうずっと母さんの具合が悪い
ぷにぷにだった腕やお腹はガリガリになってしまった
僕が10歳になったから父さんと森に入って果物を取ってくる仕事が手伝えるようになった
森は深くまで行かないと、手前の方はみんな取り尽くしてしまったから
カゴを背負ってロープとナイフを入れて
干し肉とヤギの胃袋の水筒に水を入れる
父「2〜3日で帰る」
妹「父さんお兄ちゃん早く帰ってきてね」
日が昇るのと同時に家を出た
父さんは木の間を曲がったりする。どうして道がわかるんだろう
「目印でもあるの?」
父「いや、まっすぐ進んでるだけさ」
気の所為でなければ何度か大きな大木を避けて曲がったように思う
収穫のないまま日が暮れる
枝を集めて父さんが火打ち石で火をつける
途中で見つけた蛇を捌いて焼いて食べた
「母さんがもう長くないかもしれないな…
あの家は母さんの実家のつてで借りてるだけだから、母さんが死んだら追い出されるかもしれない」
父さんの言ってる事が信じられなかった
「母さんは死なないし、家も追い出されたりしないよ!」
「もしもだ、もし家を追い出されたら
お前はどうする?叔父さんちの世話になるか?」
「父さんはどうするの?」
「街へ出てみようと思う、商人が護衛を募集してたろ」
父さんが街へ行ったら僕と妹はどうなるんだろう
それから何の話しをしたのか全然聞いてなかった
ただ母さんが死んだら、としきりに話す父さんが恐ろしかった
お腹の中がグルグルして気持ち悪い
翌朝
もう少し奥に行った所にお目当ての甘ウリがたくさんなっていた
背負カゴにたくさん入れることが出来た
父さんは背負カゴの他に袋にたくさん入れて持っていた
奥に黒い影が見えた
「父さん誰かいる」
「え?!……誰もいないじゃないか」
「あそこ、黒い影」
「は?どこに??……何もないだろ、もういい。帰るぞ」
父さんには見えないの?あの黒い影が
目印もない道を父さんが歩いていく
カゴが重くて歩くのが辛い…
僕のカゴから1つフルーツを取って父さんが休憩にしようと言った
服でこすってからかじる
プシュっと甘い汁がジワァと口に広がる
ふいに後ろが気になった
ギョッ!
さっきの影が見えた
「父さん!誰かいる!」
父さんが振り向いて探す
「どこに?……いないだろ、鳥でも見たのか?」
「うん…そうみたい」
それから、休憩のたびに後ろが気になった
間違いない
だんだん近づいてくる
最初は黒い影だったのに、なんとなく人の形になっていく
ただ手が6本ある人の形
日が暮れてきた
「ここで夜を明かすぞ、疲れただろう?
明日はもっと歩くからしっかり休め。干し肉は残ってるか?」
「父さんもっと火をたいてよ…何だか怖い」
「虎でも出たか?……何も聞こえないな」
父さんには聞こえないんだ…このザリザリって音
そこら中から聞こえるのに
「父さん、何か話をしてよ」
「そうだなぁ…父さんが子どもの頃の話しだ
父さんの爺さんがまだ生きてた頃はここらも、人がまだ多くいて――」
昔は森に"シャング様"がいた
それは森の中から出てくることはなく
迷った村人を導いて村へと返してくれる精霊だった
ある日
村の中で三つ子が生まれた
母親は産後の肥立ちが悪くそのまま息絶えてしまった
貧しい村に三つ子が生まれても育てられなかった
そして3番目に生まれた子供は手が四本あったそうだ
腕の脇に小さな手がついていたらしい
その家の父親と祖父が話し合って、夜中の森に赤子を捨てに行った
夜の森、赤子を木の根元に捨て
腹が空いたと泣く声に後髪をひかれながら振り向かず行こうとしたら
赤子の声が聞こえなくなった
ふと父親は振り向いてしまった
真っ黒な影が赤子を抱いていた
"捨てるならもらい受ける"と聞こえた気がしたが
怖くなった父親は走って逃げてしまった
村に帰ってきた父親は叫んだ
「化け物っ!アレは人間ではなかった!アレは化け物だ!
う、腕が沢山はえていた!ウジャウジャ黒い腕が!赤子を連れて行ってしまった!」
村人達は育てられない赤子を捨てた罪悪感から、父親は嘘をついてると思った
それから父親は気が狂ったように
「アレは人間ではなかったァァァ黒い手が!黒い手が!
アレは人間ではなかったァァァ!」
フラフラと彷徨い歩き村からいなくなった
その父親を最後に見た行商人は、骨と皮の骸骨のようだったと言っていた
「それから森でシャング様を見た人はいなくなってしまったのさ」
「どうして?」
「シャング様も子育てに忙しかったのかもしれないな、赤ちゃんは手がかかるだろ」
いい話風に言ってるけど、父さん!意味分かんないよ!
その黒い影が見えてないの?手が6本ある…黒くて顔が見えないけどこっちを見てる
僕らの後ろ20歩くらいのところからこっちを覗いてる
体が震える
「どうした?寒いのか?」(※熱帯地域)
「父さん、シャング様は怒ったのかな?村人が赤ちゃんを捨てて消えたから…
シャング様は今も僕ら村の人が嫌いなのかな」
「何を言ってるんだ、嘘に決まってるだろ?爺さんの子どもの頃の話しだ。悪い子はシャング様に連れてかれるぞって父さんも脅かされたが…本当にどうしたんだ?」
「…父さん!腕は6本だよ!」
「は?何が6本??」
「シャング様の腕は6本だよ!父さん!怖いよ!」
「……シャング様は近くにいるのか?」
「すぐ後ろの、あの木!」
さっきまで笑って話してた父さんが急に真剣な顔に変わった
父さんの顔色が悪くなって凄い汗をかいている
「お前には話してなかったが、森に住むのはシャング様だけではないんだ…カランタラ様と言ってな腕が6本にムカデの下半身の女の化け物がいるんだ。年に一度、村長と役員になった者が祭壇を作って鎮魂祭をするんだ。
夜までやってるお祭りあるだろ?祭壇を作って帰って来る者のために火を絶やさないあれだよ」
「ウゥ…ヒック…グスッ…ムカデの下半身じゃないよ黒い影が見える」
「もう見ちゃ駄目だ!距離が近すぎる、帰れないかもしれない」
「父さん!嫌だよ帰りたい!母さぁーんウェーン」
「泣くな!ちょっとまってろ…」
父さんがヤギの胃袋の水筒から水を飲んで
僕にも飲ませて飲みきれない分は捨ててしまった
「父さん何してるの?大事な水じゃ??」
「この中にオシッコを貯めろ!」
「オシッコ出ないよォウゥゥ」
父さんがヤギの胃袋の中にオシッコをしてる
意味がわからない
「森の主達はケガレを嫌うんだ…お前が女の子だったら既に連れて行かれたかもしれない」
「意味がわからないよ父さん」
「フルーツを食べなさい…黒い影は近づいてるのか?
顔は見なくて良い」
「うっ…父さん!!近づいてる!怖いよ」
「方向は?」
「僕の後ろ10歩先の木…グスッ…ヒック…父さん怖いよ」
「すぐ後ろに来たら言いなさい」
「父さん怖いよ…帰りたいよ」
「大丈夫、帰れるさ」
「父さんオシッコ!」
「この中にしなさい!」
木の間からザリザリ音がする
怖くて震えが止まらない、すぐ後ろで息遣いが聞こえた気がしてすごく怖かった
そこから記憶が無い
気がつくと父さんに抱っこされて寝てた
「父さん!起きて!朝だよ」
「ハッ…寝てたようだ」
「父さん早く帰ろう!」
それから休憩することもなく歩いた、止まると追いついて来る気がしたから
「父さんあの後どうしたの?」
「お前がすぐ後ろに来たと言ったからオシッコ撒き散らしてやったんだ
そしたらお前がもう大丈夫って言ってくれただろ?
父さんには見えなかったから助かった、やつらはケガレを嫌うんだ」
僕はすごく不安になった
そんな事言った覚えがなかったのと、影は見えないけどずっとザリザリ聞こえるんだ
それから休憩もなしに歩いて帰ってきた…
父さんは収穫した半分を行商人に売りに行き
残った半分を家用にして皮をむいて干していく
僕は母さんに食べさせて妹にも食べさせた
「お兄ちゃん…何を連れてきたの?それは森で拾ったの?」
「何のこと?」
「その黒い影はどうしたの?」
「…何のことだよ!黒い影なんていないだろ!!いい加減な事を言うなよ!森から出られないって父さんがっ!」
「お兄ちゃんどうして怒るの?…ごめんなさい」
その夜夢を見た
恐ろしい夢だけど覚えてなかった、目が覚めると妹が泣いていた
「お兄ちゃん起きて!起きてよ!…お母さんがぁ」
起き上がれないくらい体が重い、全身汗をかいてる
体中の関節が痛くて悪寒が止まらない
「と…さん…は?」
「父さんは薬を貰いに行ったの…お母さんが動かなくなったのお兄ちゃん」
「み…ず…」
「水はないけど、フルーツ食べてハイ」
渡された実を口に押し付ける、力が入らない
「お兄ちゃん、もう2日も目が覚めなかったの
寝ないで、今度は目が覚めないかもしれないウェーン」
「か…さん、は?」
「母さんが冷たくなって動かなくなったの…お兄ちゃんどうしたらいいの?」
泣いてる妹の頭を撫でてやりたいけど腕が上がらない…
自分の腕を見て血の気が引いた
アザとブツブツができていた
「と…うさん…」
妹の泣く声が聞こえる
ザリザリと音がする方を見たら、6本の腕を蜘蛛の用に動かして這いずり回る女の人がいた
ザリザリと音を立てニタァと笑う目が合った、これが父さんの言ってたやつだ。妹にも見えてるのか怯えてる
死ぬんだと思った
黒い影が家を覆い尽くす
「お…まえ…だけでも…逃げ…ろ」言葉にするのも辛い
「どこに逃げたらいいの?お兄ちゃん嫌だよ、父さんが家にいろって…ウェーン」
だって、あの這いずり回る女の人が僕が死ぬのを笑って見てるんだ…僕はもう助からない
すると、おばけが急に何かに怯えるように、逃げていった
黒い汚れのようにウヨウヨと溜まっていた黒い影が家からスゥーっと跡形もなく消えてしまった
「お兄ちゃん、聖女様が来たの!楽園の薬を分けてくれるって!!」
聖女?体が重くて動かない、誰でもいい助けて
空が光ってる…天井から光の粒が降り注いでくる、息がしやすくなって家の中の淀んだ空気が流れていく
「お兄ちゃん聖女様を連れてきたよ!」
妹と現れたのは世にも美しい、白く輝く異国のお姫様だった
「残念ながらあちらのお母さんは既に亡くなってたわ…死後2日はたってるわね。君のお父さんは?」
「お父さんは薬を貰いに行ったの」
「…なら、君達のお父さんが私を呼んだのよ
運が良かったわね少年、私と出会ったから君は助けてあげましょう!別に勿体つけてる訳じゃないよ?
お腹すいた?バナナでも食べる?水を飲みなさい、赤い実のジュースよ」
「聖女様…?」悪寒が消えて体が暖かく軽くなった
「少しずつ 少しずつゆっくり飲みなさい
熱は…下がったね。外傷は特に無いし軽い風邪だったかな?拗らせたの?まぁよくある事だよね?」
赤い実のジュースは甘くて冷たくて飲みやすかった
熱くて苦しくて汗をかいて気持ち悪かったのに、光に包まれたら体が軽く楽になった
腕に合ったブツブツも引いてる
「少女よ、バナナを食べなさい」
「モキュモキュ…甘くて柔らかくて美味しい!聖女様ありがとうございます」
「バナナとパンを置いていくから、お腹が空いたら手を洗ってから食べなさい。1人でよく頑張ったわねイイコイイコ」
聖女様が妹を撫でてる、妹は楽しそうに笑っていた。
僕は泣いて縋った。
「うぅ~…ウェーン!お母さんが!ウェーン!」
「間に合わなくてごめんなさい」
妹「ウェーン、お兄ちゃんを助けてくれてありがとう聖女様!」
「君達のお父さんはそのうち戻ってくるわ、大人しく家で待ってなさい」
外から聖女様を呼ぶ声がして僕の頭をサラッと撫でると家から出ていった、それから疲れてまた眠ってしまった
次に目が覚めた時には父さんがいた
「気がついたか?何があったんだ?」
「父さん!楽園の聖女様が来たんだ」
「は?聖女?夢でも見たのか?」
「白く輝く異国のお姫様だった」
「今、村の役場に隣国の貴族が来てる…じゃあ、ちゃんとあの方達に薬を分けてもらったんだな?箝口令がしかれたんだ」
父さんに抱っこされて役場に見に行くと、僕を治してくれた聖女様じゃなかった
「髪の色は似てるけどあんなに小さな女の子じゃなかった…もっとちゃんと女の人だった。
もっと大人の女の人で輝く奇跡を使って治してくれたんだ」
「森の主の霊障にあって高熱が出てたんだ、お前は夢でも見たんだろう」
なら妹に聞いてみてよと思った所で
僕に妹なんていたかなと、妹の名前を思い出せない
「父さん、僕に妹いたよね?」
「いたよ、何だ?急にどうしたんだ?……妹は随分前に商人についていったじゃないか」(※売った)
「うぅ~…僕の妹はなんて名前だったの?」
「……リザだよ。今頃は大きな街で暮らしてるだろう」
「妹が僕を助けてくれたんだ」
父さんは難しい顔をして、そうかと呟いて黙ってしまった
僕の家でたしかに妹は楽園のバナナと言う果実を食べていた。
幻の聖女様を呼んできてくれて僕を助けてくれたんだ
もう会えなくなった妹のことを考えて寂しい気持ちになった
あの妹は誰だったんだろう?あの聖女様は何だったんだろう?
父さんと手を繋いで夕日の中を歩いて帰った
「父さんな、村で仕事が見つかったんだ」
「街に行くのはやめたの?」
「母さんは間に合わなかった…もっと早く隣の村に行ってれば、すまない」
父さんが隣の村にいた慈善活動をしてる貴族を呼ぶために、隣村の人達と喧嘩をしてたらしい。
「そんな事をしてよく殺されなかったね」
「貴族と言っても、まだ子供かだから騒げば何とかなると思ったんだハハハ」
父さん笑ってる場合!そんな無謀はもうやめてよぉ!隣村の人達に恨まれてないといいな、僕がしっかりしないと!
僕と森から来るもの ワシュウ @kazokuno-uta
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