第105話 リュデルからの誘い
シーアライドの城でリュデルとの再会を果たした。別に望んじゃいなかった。望むどころか会わずに済むなら会わない方がいいと思うくらいだ。
「随分と大立ち回りを演じたようですねアーデンさん。結果シーアライドに大混乱をもたらした今のお気持ちは?」
「反省してるよ。だけどオリガをそのままにしておけってのか?」
「いえ、今回はお手柄だと言っていいでしょう。お粗末な手際については目を瞑るとしても、グリム・オーダーの手先を生かして捕らえたのは大きな成果です」
この称賛は本当なんだろうなと何となく分かる。だから調子が狂うし、嫌味も織り交ぜてくるから嫌いだけど、実力者に認められるとちょっと嬉しい。
「冒険者ギルドから派遣されてきたって聞いたけど、何でリュデル達なんだ?」
「前回グリム・オーダーと接敵した功績を買われたのでしょう。それと確認の為ですね」
「確認?」
「これです」
リュデルが懐から小さな筒を取り出して机の上に置いた。中には砂のようなものが入っている。
隣に座っていたレイアがバッとその筒に飛びついた。興奮してあらゆる角度からそれを見つめている。
「これアーティファクトでしょ!?見ていい!?」
「え、ええ、どうぞ」
「ありがとう!」
俺はおおと思った。リュデルがレイアの圧に押し切られている、ぷっと吹き出しそうになるのをこらえていると、心底不満げな目をこちらに向けてきた。
「躾がなってないんじゃあないですか?」
「俺は自主性を重んじるんだよ。で、これ何?」
「魔法の痕跡を探知できるアーティファクトです。城の人間に禁忌が使われた可能性がありますからね、調査する必要があったんです」
そう言われて思い出した。リュデル達はシェカドでその調査をしていた筈だ、どんな方法を使っていたのかは知らなかったが、アーティファクトを使っていたとは思わなかった。
「記憶操作は行われていたのか?」
「いいえ、その痕跡は見つかりませんでした。どうやら彼女は一人で動いていたようですね」
「一人か。その方が都合がよかったのかもな、オリガは立場もあったし、表立って色々出来なかったと思う」
「おや?」
リュデルが意外そうな声を上げ驚いた表情をした。
「何だよ?」
「いえ、まさかアーデンさんと意見が一致するとは思いませんでした。あなたも中々に経験を積んでこられたようだ」
「こっちも伊達に冒険者やってる訳じゃあないんだよ。スマートなやり方じゃあなくとも、俺達なりに困難を乗り越えてきてんだ」
俺がそう言うと、リュデルはクスッと小さく笑った。一々癪に障るなとムスッとしてしまう。
「そうですね、多少は認めてもいいと思いますよ」
「へっ何様だよ」
「別に馬鹿にしたり侮ったりしている訳ではありません。その様子なら竜の印集めは順調なようですね」
俺もアンジュもカイトも、アーティファクトに夢中になっているレイアでさえも、リュデルのその言葉に体をびくりと震わせて固まった。
「はははっ!そう固くなる事はありませんよ。素直でいいですねあなた達は、僕がすっかり忘れてしまったものを思い出させてくれるようですよ」
「う、うるさいっ!」
「子供のような虚勢を張る事はありませんよ。僕たちも伝説の地を追うと言ったでしょう?竜にたどり着かない訳がない。違いますか?」
言葉に詰まって困っていると、アンジュがすっと手を上げた。
「いいですか?」
「アンジュさん、授業じゃあないんですから自由にどうぞ」
「では失礼します。端的に申し上げてこの話し合いの意図が分かりません。はっきり言って時間の無駄かと思います。早く本題に入りませんか?」
アンジュの歯に衣着せぬ物言いに、後ろで控えていただけだったメメルとフルルが眉を顰めて不快感を露わにした。リュデルは二人の顔を見ていた訳でもないのに、すっと手を上げてメメルとフルルを制した。
「お前達は本当に学ばないな、そんなに僕の顔に泥を塗りたいか?お前達より犬の方がよほど躾けやすいぞ」
「…出過ぎた事を真似を致しました」
「…ッチ」
「僕の付き人が失礼しました。アンジュさんの言う通りです。本題に入りましょう」
アンジュが空気を変えてくれたお陰で、俺はリュデルのペースに引きずり込まれずに済んだ。どうしてもムキになってしまうなと反省する。
「今回僕たちは冒険者ギルドに依頼されて調査に来たのは確かです。しかし、僕たちはあなた達を探してもいました」
「俺達を?」
「手早くいきましょう。手を組みませんか?アーデンさん」
この提案はまったく思ってもみない事だった。冗談を言うような性格じゃあないし、担がれているようにも思えない。
「内容による」
「その気はあると?」
「何で俺達にって疑問はあるけどな。でも、冗談でもお前が俺に協力しろなんて言葉は出てこないと分かってる。何かあるんだろ?」
悔しいけれど、俺とリュデルの間には大きな実力差がある。リュデルは、俺がまだレイアと冒険者ごっこで遊んでいた時からすでに冒険者として活動していた。経験値がまるで違う。
「そう自分を卑下するものではありませんよ。僕はそれなりにあなたの事は認めています。ブラックの息子という色眼鏡なしでね」
「お世辞はいいよ、背中が痒くなる。で?」
「僕と一緒に来てもらいたい場所があります。そしてこれは、冒険者ギルドからの正式依頼にもなるでしょう。あなた達なら手を組むに十分な実力だ」
「場所?」
「現エイジション帝国の前身。かつて世界中を焼いた大戦争によって滅びた旧ゴーマゲオ帝国領です。そこの調査へ、僕たちと共に赴いてもらいたい」
リュデルは俺の目をまっすぐに見つめてそう言った。
大戦争にゴーマゲオ帝国、歴史書でしかその名を残していない古い出来事。聞いた事はあっても詳しくは知らなかった。
「おいアンジー、大戦争とかゴーマゲオとか一体何のことだ?」
カイトがこそっとアンジュに聞いた。アンジュがちらりとリュデルの方を見やり、視線を受けてリュデルは頷いた。それを見てからアンジュは説明を始める。
「大戦争はかつてあったとされる世界中で起こった戦争です。記録は散逸し情報は断片的ですが、どの国にも確かにその戦争があったとの記録が残されています。大戦争の痕跡も見つかっており、大戦争はあったという見解が一般的です」
「じゃあゴーマゲオは?」
「大戦争前、世界の覇権を握っていた大国です。栄華を極め、ほぼすべての国を手中に置き、圧倒的な武力を誇っていたとされています。しかしながら、その大戦争で真っ先に滅んだともされているのがゴーマゲオ帝国と言われています」
「ええ?強かったのに?」
「強かったのにです。その辺は歴史の謎ですね。研究は進められているでしょうが、私が大学在籍中に発展は聞きませんでした。その研究を主導しているのはエイジション帝国です」
そこまで言い切ってからアンジュはもう一度リュデルを見た。それにリュデルは深く頷いてから口を開く。
「流石はアンジュさん。博学でいらっしゃる」
「しかし何故冒険者ギルドが旧ゴーマゲオ帝国の調査に乗り出すのですか?帝国の研究機関からではなく、冒険者ギルドでは繋がりがないでしょう」
「それが繋がったから依頼になるのです。メメル」
名を呼ばれてメメルは返事をする。そして一歩前に出た。
「拙とフルルは、オリガ女王の尋問を担当しました。その中で、グリム・オーダーの基地として使われている可能性がある場所を聞き出しました」
メメルに続いてフルルが前に出る。
「それが旧ゴーマゲオ帝国領、奴らが潜んでいるってオリガがゲロった。調べにいかない訳にはいかない」
「ま、そういう事です。お返事はすぐでなくともいいです。皆さんとよく相談して決めてください。では僕達はまだ仕事がありますのでこれで失礼します」
そう言うとリュデルは立ち上がった。言いたい事だけ言って去っていく、引き止める気もなかったが、本当に偉そうな奴だともう一度そう思った。
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