第53話 不穏な空気
竜の手がかりとして分かっている最後の遺跡カ・シチ遺跡、俺たちはそこに向かう前に一度トワイアスの冒険者ギルドを訪れようとしていた。
冒険者は活動記録を定期的に報告する必要があった。タグに記録される情報を読み取って、違法な行為等を行っていないか、治安を乱すような活動はしていないかを確認するのがギルドの義務だった。
そしてそれに協力するのは冒険者の義務だ。俺たちが問題なく自由に活動出来るよう、色々な調整に依頼の斡旋、活動の援助を一手に引き受けてくれているギルドには感謝しか無い。
「これって私も同行してもいいんですか?」
横を歩くアンジュが俺に聞いてきた。
「本人が必ずタグを持ってくるって決まりはあるけど、同行者の禁止はないし大丈夫だろ」
「ああ、だから今日はレイアさんも一緒なんですね」
レイアは俺の背の後ろを歩いていた。これもいつも通りだ。
「ギルドって混むから嫌なのよね。どうしてああも人ばかり集まれるのかしら」
「仕方ないだろ、依頼受けたり報酬受け取ったり、色々やらなきゃいけない事があるんだから」
「混雑の解消を求める!」
無茶を言うレイアの事は放っておいて俺はアンジュに話しかけた。
「アンジュ、カ・シチ遺跡に向かう前に何個か依頼を受けて資金を貯めておきたいんだけどいいかな?」
「大丈夫ですよ」
「ありがとう報酬はちゃんと分けるから安心してくれよな」
「そんな、私の分は大丈夫ですよ。サンデレ魔法大学校から活動資金が出てますし」
「いや、お金の事は…」
しっかりとしておかないとな。そんな言葉を続ける前に俺は言葉と歩みを止めた。同様に二人も足を止める。
「何ですか?この大騒ぎ」
アンジュの言葉通り、ギルドの前には冒険者が沢山集まって溢れかえっていた。対応に追われた職員が声を張り上げて誘導している。単純に忙しそうでもあるが、どこか剣呑な雰囲気も漂っている。
「俺ちょっと行って聞いてくる。アンジュ、レイアの事頼む」
「逆でしょ!!」
「あはは、お任せください」
「ちょっとアンジュ!?」
この調子なら大丈夫だなと俺は二人の元を離れてギルドの前に近づいていった。混雑の後方にいる冒険者の一団に声をかけてみた。
「こんにちは。すごい騒ぎですね」
「ああ?何だお前?」
「同業者ですよ」
タグを見せると相手は「ああ」と言って頷いた。
「お前よおこれ何の騒ぎか知ってっか?」
「全然。だから事情を知っていたら聞こうかなって」
「そっか、悪いが俺達も来たばっかで何も知らねえ。近くの奴らに聞いてみても同じだったぞ」
困り果てた顔をしている所を見るに話は本当のようだ。しかしこれではこの辺にいる冒険者からは情報を聞けなさそうだった。
「そうだったんですね、活動報告したかったんだけど参ったな」
「俺達も依頼の報酬受取に来たんだけどよお、これじゃあいつになるか分からんな」
「一旦宿に戻るか?」
「そうだなあ、そんなに急いでる訳でもないし」
仲間内の相談が始まったので、俺は話を聞かせて貰ったお礼を言ってからその場を立ち去った。一応他の冒険者にも話を聞いてみたが、最初に話しかけた人たちと大体同じ話しか聞けなかった。
レイアとアンジュの元に戻って聞いてきた話をすべて伝えた。
「ふーん、なんだか大変そう。リュデルの時を思い出すわね」
「ああ、あいつが来てた時も混雑してたな。こんなに酷くなかったけど」
あんまり思い出したくもない顔を思い出してしまった。なんだかリュデルの嫌味ったらしく笑う顔が浮かんできた。
「リュデルって?」
「あれ話したことなかったっけ?」
そう聞くと首を傾げるアンジュ、俺も別に好んで口に出したい話題でもないので言っていなかったかもしれない。俺はリュデルとその仲間であるメメルとフルルの事をアンジュに話した。
「へえ、そんなすごい人がいるんですね」
「悔しいけど実力も経験もあいつの方が格段に上だな。今だけはな!」
「今だけって、あんたあいつと何を争ってるのよ…」
レイアは呆れたようにそう言うが、俺にしてみればリュデルは最大のライバルと言える存在だ。あいつは伝説の地を目指している、だけど先にたどり着くのは絶対に俺だ。
「しかしどうするかな。この様子じゃあ一日無駄にしちゃいそうだ」
「折角レッドイーグル直したのになあ」
俺とレイアがそうぼやいていると、考え込んでいたアンジュが口を開いた。
「アテになるか分かりませんが、テオドール教授に聞いてみましょうか」
「教授に?何で?」
「ほら前に話したじゃないですか、教授はよく街に出て女性を口説いているって。それ大体トラブルの元にしかならないんですけど、教授はそのおかげで意外と街の情報通なんです」
他に伝手もない俺達はアンジュの提案に乗ることにした。どのみちここで手をこまねいていてはどうにもならないままだっただろう、この提案は願ってもない事だった。
講義を終えた教授が部屋へ戻ってきた。待っている事は伝えてもらっていたので挨拶もそこそこに本題に入った。
「ええと、街で何か問題が起こっていないかだったよね?」
「はい。出来ればギルド絡みの事を聞きたいのですが」
教授はうーんと唸って首をひねった。
「ギルド絡みの話かあ…、私が近づくとお偉方があまりいい顔をしないんだよなあ」
「どうしてですか?」
レイアがそう聞くと教授は苦笑いを浮かべて答えた。
「考え方にカビが生えた爺様婆様は融通が利かないのさ、保守的な思想に固執しがちだ。僕の態度が大学の理念と合っていないってね」
「政治的な話ですか?」
教授が頷くとレイアは「くだらない」と言って一蹴した。俺はその態度を咎めたが、教授が止めに入った。
「いやいやレイア君の言う事はもっともな話だよ。でもまあ、お歴々に敬意を払う事も大切な事でね、その辺はバランス感覚が求められるね」
「私は無駄が多いと思いますけど」
「組織ってのは無駄が多いものさ。往々にしてね」
まだレイアは納得のいっていない様子だが、話が逸れる前に俺はもう一度教授に聞いた。
「じゃあギルドの話はないって事ですか?」
「直接関係しているか分からないけれど、なくはない」
「あまり勿体ぶらずにどんどん喋ってもらえますか?」
アンジュの鋭い言葉に教授はふざけてたじろいで見せる、しかし冷たい視線が注がれているのに気がついて、咳払いをしてから居住まいを正した。
「遺跡の名前までは分からないが、遺跡漁りの軍団がある遺跡を占拠しているという話を聞いた。近々大規模討伐に乗り出すって話だったけれど、その事じゃあないかな?」
「遺跡漁りが徒党を組んでいるんですか?」
「聞いた話ではね。珍しいのかい?」
教授はその辺の話には疎いみたいだ、俺とレイアは遺跡漁りについてかいつまんで説明した。
「成る程ねえ、そんな事情があったとは」
「しかしお二人の話通りなら、軍団というのはおかしくないですか?」
アンジュの指摘通りで、本来頭数を増やす事のない遺跡漁りが集まっているというのはありえない話だった。少なくとも俺達は聞いた事もないし、実際目にして手をかけたのも二人組だった。
「何かきな臭いなあ。もう一度ギルドに戻ってみよう」
「賛成。時間かかってもいいから聞いてみましょ」
「分かりました。では行きましょうか」
俺達は教授にお礼を述べるともう一度ギルドに戻った。一体何が起こっているのか、俺は不安を感じると共にどことなく嫌な予感も感じていた。
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