第48話 次の手がかり
四竜の手がかりを得た俺たちは一晩を明かしてからトワイアスに戻った。アンジュは一度発見の報告にサンデレ魔法大学校に戻った。テオドール教授が首を長くして待っている筈だ。
レイアは気になる事があると言って宿屋の部屋にこもった。多分また何かを開発しているのだろう、発明品が何なのか俺も気になるが、それは後の楽しみにしておく。
俺はトワイアスの冒険者ギルドを訪れていた。今回の探索でヤ・レウ遺跡内部の地図が大分精巧に書けた。壁画を探す為に慎重に進んでいたお陰である。
これをギルドに持ち込むと買い取ってもらえる。これは遺跡調査などの依頼を受けていなくともいい。討伐依頼のついでに行う冒険者もいると聞いた事もある。
既出の情報にはあまりいい値段はつかないが、それでも収入は収入だ。壁画についてはアンジュから報告は待ってほしいと言われているので記載していないが、地図の出来はいい。
「ヤ・レウ遺跡の地図ですか、しかも情報もよく書き込まれている。これは助かります」
気に入ってもらえたのはありがたいが、一つ気になったので聞いてみた。
「あそこの遺跡そんなに情報が少ないんですか?」
別に特別強い魔物が生息している訳でもない。しかもあそこは昼光虫のお陰で探索もしやすく、他の遺跡より魔物に襲われる危険は多いが、情報が集まりにくいというのはちょっと考えにくかった。
「いえ、情報自体は多く集まる方です。ただなんというか…」
「なんというか?」
「あまり声を大にして言えませんが、ヤ・レウ遺跡は冒険者にとっても遺跡漁りにとっても美味みがないんです。昼光虫のお陰で、アーティファクトの取り逃しとかはありませんから」
なるほどそういう事かと納得した。確かに思い返せば人の出入りが全然なされていないように見えた。足跡や近くに野営の跡もなく、人が来た痕跡がなかった。
「だからあまり情報の更新がされないんです。遺跡から魔物が出てこないように個体数調整等の依頼は行われますが、ここ最近はその兆候も見られず放置気味でして」
何となくタネが分かった気がする。あのミミクリーリザードの特殊個体がいたからだろう。あの能力があればヤ・レウ遺跡は奴の天下だ、しかも壁画に近づきさえしなければ襲ってくる心配も少ない。
これは確かに冒険者にとっては美味みが少ないだろう。遺跡漁りはもっと論外で、そもそも漁る物がない。
ただ俺たちがミミクリーリザードを討伐してしまったので、これからは事情が変わるかもしれない。壁画の事は隠しつつ、俺は特殊個体についての情報も話した。
「なるほど、そのミミクリーリザードが幅を利かせていたから魔物数の増加が抑えられていた訳ですね」
「俺の推測ですからはっきりした事は分かりませんけど…」
「いいえとんでもない。特殊個体が他の魔物を支配をしていたという事例は数多く存在しています。これも同様の例かと思われます」
これから調査の手が入るだろうという事で、思っていたよりも地図は高値で引き取ってもらえた。活動資金に難がある訳ではないが、懐事情が暖かいと安心感が違う、とてもありがたい事だ。
宿屋に戻りレイア達の扉をノックする。返事がなくて物音が聞こえるということはレイアが中にいるという事で、まだアンジュは帰ってきていないようだ。
「開けるぞ」
返事はないけれど俺は扉を開けて中に入った。レイアは駄目な時は駄目と言う。言わないという事は何かに集中していて気がついていないだけだ。
案の定彼女は作業に没頭していた。急ぐ訳でもない、俺はベッドに横たわってのんびり待つことにした。
「…デン!…アーデン!」
「んん?うん…」
「起きろっての!」
レイアにピシッと額を指で弾かれた。どうやらあのまま居眠りしてしまったようだ、俺は眠い目と額をこすりながら起き上がった。
「あんたいつの間に部屋にいたの?」
「…お前が気が付かないからいつも通り勝手に入ったんだよ」
ふわっと一つあくびをして目覚ましの為に自分の頬をひっぱたく。ぶるぶると頭を振るとようやく目の前がしっかりとしてきた。
「で、何作ってたんだ?」
「これ」
「イ・コヒ遺跡でも使ったクモクモか?ちょっと形が違うけど」
確かあの時はラギリの冒険者登録タグを探す時に使った筈だ、蜘蛛に似ていたからクモクモと名付けたが、今の形はなんというか形容し難い。でかいトンボのようにも見える。
「見てて」
レイアがカチカチと何かを操作すると、手のひらに乗せていたクモクモもどきがブウンと音を立てて飛び空中で静止した。
「うおっ、びっくりした。すごいじゃん飛べるようになったのこいつ?」
「うん。前のクモクモは地を這うだけだったでしょ?でも今度は必要に応じて空も飛べる、魔石に保持されてるマナが尽きるまでね」
「へー面白いな」
俺はクモクモもどきを指先でつつく、プカプカ浮いているのにしっかりと姿勢を保っていて面白い。そんな事をしていると、レイアが何やらバッグをごそごそと探り、中から小さな石片を取り出した。
「それは?」
「壁画の欠片、少し削らせてもらったわ。何か私すごくこれが気になったのよね、特殊なアーティファクトだったって知って納得って感じ」
「何だその嗅覚」
「これがどういう物なのか調べるのは勿論だけど、今回の目的は別。この子は物を探す為に作ったから役に立つでしょ?」
そう言うとレイアは石片をクモクモもどきの台座の上に置いた。確かにこれなら探しものは任せて、こっちは別の事に集中出来る。
「いいじゃん。ヤ・レウ遺跡の壁画も天井にあったし、こいつならそれが探せる。頼むぞ、フライングモ」
「フライングモ?」
「飛べるようになったからさ、新しい名前が必要だろ?」
「…しまった。アーデンに見せる前に私が名前をつけるべきだった。いつもいつもやっちゃうのよね」
落ち込むレイアを無視してフライングモを飛ばして遊んでいると、扉がノックされてアンジュの声が聞こえてきた。代わりに返事をして中に入るように伝える。
「わっ、それなんですか?と、飛んでる?」
「フライングモだ。新しい仲間だな」
頭の上に疑問符を浮かべいまいち要領を得ないアンジュに、レイアが事の経緯を説明した。
アンジュはレイアが作ったフライングモを興味深くよく見て触っていた。新しい玩具を手に入れた子供のような輝くような目、共感できて俺もうんうんと頷いた。
「レイアさんは本当にすごいです。フライングモ、私も気に入りました」
「名前は…、ああもういいか、取り敢えずありがとう。それより、壁画の一部を勝手に採集してきちゃったけど大丈夫かな?」
「これくらい小さな欠片なら大丈夫でしょう。次の目的地ユ・キノ遺跡からは壁画のような物は見つかってないので役立つと思います」
「あれ?そうだったのか?」
俺の問いかけにアンジュは頷いた。てっきり全部の遺跡から同じような壁画が見つかっているものだと考えていた。
そんな俺の考えを読んだのか、レイアが俺に言った。
「手記には竜の手がかりとしか書いてなかったでしょ?具体的な姿かたちに言及はなかった」
「そういやそうだったな。全部が全部壁画って訳じゃないのか」
「多分ね。だからフライングモを開発したのよ」
成る程と俺は頷いた。竜の手がかりに使われているのは特殊なアーティファクトで、特殊なマナを放っていると書いてあった。フライングモが探すのはそれか。
「レイアさんの仰るとおりで、ユ・キノ遺跡の竜の手がかりはある噂話なんです」
「噂話だって?」
「ええ、冒険者の間でユ・キノ遺跡の探索中に、消えずの揺炎を見たという証言があります。これが竜の手がかりではないかと教授は考えています」
消えずの揺炎、一体それが何なのか俺はアンジュに聞いた。
「その消えずの揺炎って何なの?」
「冒険者の方が見たものは、遠くで燃える炎が揺れながら移動していったというものです。伝承には、サラマンドラは絶えず揺らぐ消えぬ炎を人間に与えたと言われています。話に類似点が多いので調べてみる必要ありかと」
「遠くで揺れる炎か、話にケチをつけたくはないんだけど、他の冒険者が松明を持っていたとかってオチじゃないの?」
レイアの問いかけにアンジュは首を捻って困った顔をした。
「正直な所私にも真偽は分かりません。しかしレイアさんの指摘通りなら、他の遺跡でもそのような噂話が出ていた方が自然ですよね?でもそういった話が聞かれるのはユ・キノ遺跡だけなんです。これって不自然じゃないですか?」
「それは確かにおかしいな。そもそも冒険者なら、他の冒険者の光源なんて見慣れてる筈だし、噂話にする程の事でもないからな」
「成る程ね。うん、納得。じゃあ次に探すのは消えずの揺炎ね」
俺たち三人は顔を見合わせて頷いた。竜の手がかりを追い、次に向かうのはユ・キノ遺跡。果たしてそこにはどんな冒険が待っているのか、俺はすでにワクワクしてきていた。
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