第46話 四竜を探せ
遺跡の中は昼の明るさだったが、外はもう夕焼けに染まっていた。この落差は目に来るなと思う、それに時間の感覚も狂ってしまいそうだ。
「どうする?ゴーゴ号なら夜までに帰れそうだけど」
アンジュの事を思うなら野宿は避けた方がいいと思った。しかし他ならぬ本人から提案があった。
「出来ればすぐに調べてみたいです。手伝うので野宿にしませんか?」
「そっか、分かった。じゃあレイアお願い」
「はーい。ちょっと場所開けてね」
俺がレイアに声をかける、アンジュは何が始まるのだろうかというように身構えて見ていた。レイアはバッグの中からこぶし大の球体を取り出すと、それを適当に平らな地面に投げつけた。
ぼんっと音を立ててテントが展開されて設置される、大きさも広さも十分でタープ付き、寝具も中に用意されている。あんぐりと口を開けて驚くアンジュに、レイアは自信満々に言った。
「私が作りましたっ!」
言葉もないアンジュの肩をぽんと叩くと「薪拾いにでも行こうか」と言った。
簡単な食事を済ませ、お茶を入れてマグカップを手に皆で火を囲む。揺れる炎を見つめる穏やかな時間が流れた。
「お二人はすごいですね」
お茶を一口すすりながらアンジュが唐突に言った。
「何のこと?」
「そりゃ勿論、俺の直感力だろ。魔物の奇襲をものともしないこの勘のよさ」
「はああ!?絶対それじゃないし!私の発明品の数々よね?このテントも含めて、私のお陰でアーデンの冒険は成り立ってるのよ」
俺とアンジュがバチバチとにらみ合っていると、その様子を見てかアンジュがくすりと笑った。
「ふふっ、どっちもすごいですけど、どっちも違いますよ」
じゃあなんだろうと、今度は同じ方向に首を傾げてレイアと顔を見合わせた。それを見てアンジュは更に楽しそうに笑う。
「本当に息ぴったりですね。なんだか羨ましい」
「そう?俺の事分かってて当たり前だろみたいな態度腹立つわよ?」
「よく言えたもんだなレイア、本当はお前がしなきゃいけない手続きの数々を俺が代理してやってるってのに」
「あら、言ってくだされば私がやりましたのに」
「嘘つけよ。人混みに行く時は大体俺の背に隠れてるくせに」
レイアがべーっと舌を出してきたので、俺は口の端を引っ張っていーっと返した。くすくすと笑った後、アンジュはゆっくりと言った。
「私がすごいなと思ったのはそんな所ですよ。お二人はいつもとても楽しそう、あんなに危険な目にあったのに、今はもう笑い合っているでしょう?」
「あー、まあピンチだったけど、目的の物は見つかったし」
俺がそう言うとレイアも頷いた。それを見て続けて言った。
「それにさ、確かに冒険に危険はつきもの。だけどすっごくワクワクしなかったか?俺たち架空の存在だと思われてる四竜の手がかりを見つけたんだぜ?」
「まだ中身は確かめてないでしょ」
「でも絶対何かあるよ、あんなに不思議な体験をしたんだ、何もない訳ないさ」
俺はバッと手を広げてそう言った。竜の壁画からこぼれた光は、きっと父さんの手記に何かを残している。このワクワクを止める事は誰にも出来ない。
「…そうですね、私もなんだか感じた事のない高揚感を覚えています。怖かった筈なのに、今はとてもドキドキしているんです」
「だよな!俺たちはさっき四竜の謎と伝説の地への手がかりに触れたんだ!この冒険は、きっともっとドキドキとワクワクが待ってると俺は思う。な、レイアもそう思うだろ?」
同意を求めたレイアは少し呆れ顔、でもうんと頷いて同意してくれた。
「私はアーデン程能天気に喜べないけど、そうね、未知なる道を自分の力で進むのは楽しいわ」
「自分の力で…」
アンジュはレイアの言葉を聞いてそう呟いた。何かを考え込んでいるみたいだが、今はもう一つやるべき事がある。
俺は父さんの手記を取り出して広げた。二人をちょいちょいと手招きすると、皆でその中を覗き込むのだった。
この記述目にしているって事は、何らかの方法でお前は四竜の手がかりを得たって事だ。アーデン、お前なら来ると思っていた。来ていいものか本当の所俺にもよく分からないが…。
ちなみに俺からのメッセージは、お前の持つ手記にしか記されない。そこはまあ上手くやっておいた。俺のもった感想とか、エイラちゃんへの愛のメッセージとか、見られたくないものも結構あるしな。
おっとこんな事が知りたいんじゃないよな、悪い悪い、なんというかこれは俺の癖みたいなもんだな。エイラちゃんによく言われたよ、言いたい事をまとめてから言いなさいって。
ああまずい、また話が逸れる所だった。本題に入る。
サラマンドラは火を司るドラゴン、真実を識る秘宝の護り神。世界に生きる人々が刻み込む歴史を見守り慈しむ神なり。
伝説の地に至るにはすべての竜に会う必要がある。竜の導べは伝説の地を示すもの。別け隔てなくすべての人へ授けられるものである。
夢に野望、自らの命題に挑むすべてのものに道は開かれる。世界を巡り竜を探せ、答えはそこにある。
面倒かもしれんがこれも冒険ってものだ。手がかりってのは一気に手に入っちゃつまらんからな。各地に散らばる竜の手がかりを追っていけば、自ずと伝説の地にたどり着くって事だ。
ただ困った事に、竜の手がかりに使われているものは非常に特殊なアーティファクトでな、それらが発する特殊なマナには特殊な魔物が引き寄せられやすい。
手がかりには危険な魔物がいると思っていた方がいい。そればかりじゃないだろうが、備えは万全にな。
アーデン、お前は何故伝説の地を探している。真実は時に残酷なものだ、それでも追い続けるのか。
馬鹿な事を聞いた。お前は追うよな。なんたって俺の息子だからな。じゃあな。
父さんからのメッセージが新しく刻まれていた。読み終えてすぐにアンジュが言った。
「やはり四竜は存在しているのですね」
「少なくともブラックさんは会ってるのは間違いないわ」
俺はレイアの言葉に頷いて続いた。
「多分会っただけ以上に父さんは竜と関係が深そうだ。秘宝、伝説の地、竜、ロゼッタと一緒に見つけた石板から得た手がかりと全部が繋がってきた」
三枚の石板を集めた時、手記に新たな記述が現れた。四竜の手がかりを見つけた時、また更に新たな手がかりを得た。伝説の地へ至る道は竜にある。
「どうやらヤ・レウ遺跡の手がかりだけではサラマンドラには辿り着けないようですね」
「ああ、多分テオドール教授が上げた残り二つの遺跡に行かないと、サラマンドラの居場所は分からないようになってるんじゃないかな?」
「あの壁画はアーティファクトだったのね、もしかしたらヤ・レウ遺跡に昼光虫が引き寄せられているのも、それが原因なのかも」
俺たちはヤ・レウ遺跡での冒険から新たな手がかりを見つける事が出来た。しかしそれはまだ不十分で、残りの手がかりも探す必要があった。
火のドラゴン、四竜のサラマンドラ。秘宝を護る神とまで言われる存在。一体何を知っていて、出会った時に何を教えてくれるのか、俺はそれが知りたい。
父さん、俺は追うよ。言われなくても分かっていたみたいだけどね。多分良いことばかりじゃないんだろう、父さんが遠慮がちなものだから驚いたよ。
でもさ、俺は父さんの息子だから、冒険にときめく心は止められないんだ。いつか父さんと同じ景色が見たいんだ。だから俺は伝説の地に行くよ。
心の中で俺は父さんにそう話しかけた。いつか会えると、そう信じて。
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