第12話 面談 その2
シェカドの冒険者ギルド長トロイ・ヘイズさん。俺とロゼッタはそれぞれの用件を済ますと、聞かれた事に答えるのであった。
「アーデン君が持ち帰ってくれたこの足だけど、やっぱりフューリーベアとしてはサイズが大きいね。もしかしたら
「あれが特殊個体…」
聞いた事はあっても見たことは初めてだった。ロゼッタが袖をくいっと引っ張ってそれが何なのかの説明を求めてきた。
「特殊個体は、均一的な個性から抜き出た魔物の事を言うんだ。あのフューリーベアを例に出すとしたら、他より体が大きく成長した事、そしてあれだけの猛攻を受けて尚立ち上がるタフネスかな。後常軌を逸した執念深さ、あいつには全滅させるまで止まらないという凄みがあった」
「そういった通常の個体では見られない習性や特徴を持つ魔物を、ギルドでは特殊個体と呼んでいるのだよ。場合によるが大体は通常の魔物より実力は遥か上だ、討伐に当たる冒険者の等級も自然と上になるね」
説明を聞いてロゼッタはふむふむと頷いていた。しかし俺は特殊個体と言われても納得出来ない事があった。
「ギルド長、聞いてもいいですか?」
「勿論だ」
「あのフューリーベアが特殊個体なのは間違いないと思います。でも、何故今まで見過ごされてきたのかは疑問です」
アカトキの森はまだ駆け出しの冒険者が仕事を割り振られる場所だ、あのフューリーベアがもっと前から生息していたのなら、被害がもっと出ていてもおかしくない筈だ。
俺達が倒せたのも運に依る所が大きい、もし魔物が万全の状態であったなら。ロゼッタは助けられず、俺達の冒険はあそこで終わっていただろう。
「正しくそこが悩ましい問題だよ。現在各部門が報告書の精査を行っているが、特殊個体出現の兆候は見られない。あの魔物は唐突に姿を現したとしか思えない、今のところはね」
それはありえないと分かっていながらトロイさんは敢えてそう発言したのだと思う。特殊個体はある程度数のいる群れや集団の中でないと生まれ難い、獲得する個性差を比べる対象がなければ伸ばす方向性が定まらないからだ。
一匹でいる事を貫き通したのならまだ分かるが、それは今まで誰にも倒される事なく生活し、体を大きく強く成長出来ていたという事だ。そんな時間と余裕があったのなら、駆け出し冒険者の出入りが多く、そんなに広くはないアカトキの森ではとっくに発見されているだろう。
話の概要を掴んできたのかロゼッタが発言した。
「あのフューリーベアは、何処か別の場所から移動してきたという事ですか?」
「その可能性と、もっと質の悪い可能性がある」
「と言うと?」
「何者かが意図的にアカトキの森へ運んだという可能性さ」
トロイさんの言葉にロゼッタは青ざめた。恐らくその可能性が指し示す一つの予想に気がついたのだろう。
「ピエール教授が狙われたかもしれないんですね?」
ロゼッタの前でこれを聞くのは酷ではあるが俺は聞いた。そしてトロイさんの返答は黙って頷く事だった。
「現段階ではすべて可能性に過ぎない、我々ギルド側が本当は特殊個体を見落としていたかもしれないのだからね。だけど何らかの目的を持った第三者がいたとしたら、生き残ったロゼッタ君の身が危ういかもしれない」
「そんな…」
ショックを受けてロゼッタは更に顔色を悪くした。無理もない、自分の命を狙われる可能性なんて俺には考えも出来ない。
「ロゼッタ君には苦労を強いる事になってしまうが、今後シェカド警備隊の護衛がつく事になる。調査と確認が済むまでは息苦しい生活が続くと思うが、我慢してもらいたい」
流石に答える事も出来ずにロゼッタは俯いていた。あまりにもその姿が痛ましくて、どうにか元気づけたいと俺は思った。
「ロゼッタ。俺とレイアが会いに行くよ」
「え?」
「俺とレイアはさ、お互いの夢を追ってこの冒険を始めたんだ。シェカドにも、その夢の痕跡を探しに来た。だから暫くここを拠点に活動するつもりだ、その合間時間があるんだから会いに行くよ」
俺は伝説の地への手がかりを追う為に、父さんの冒険した場所を辿るつもりでいた。そして残した手記の欠けを探す事等と並行して、友達を心配してもいいと思うし、その余裕はある。
「俺達の冒険で初めて出来た友達なんだ。思惑も不安も全部ぶっ飛ばして、ロゼッタが安心出来るようになるまで付き合うよ」
「アーデンさん…、ありがとうございます」
少しだけ笑顔を取り戻したロゼッタを見て、俺は心の中でよかったと一安心した。不安が安らいだのならいいなとそう思った。
「ギルド長、構いませんよね?」
「ああ勿論だとも。そして私は思いついたよ、冒険者ギルドから君に正式に依頼しよう。どう進めてもらってもいい、今回の件について何か手がかりになりそうな事があれば報告してくれ。冒険者アーデン、君の志と腕を買おうじゃないか」
トロイさんの言葉に俺は頷いた。
宿の部屋へと戻りレイアにあった出来事を説明した。そして仮免許から4級へ昇格したタグを渡す。
「まさかこんなに早く昇級するとは思わなかったわね」
「経緯が経緯なだけに喜べないけどな」
「まったく同感だわ」
遺跡調査に訪れていたピエール教授に、護衛依頼を受けて任務についていた冒険者四人、計五人が命を落としている。冒険者としての初依頼でまさかの事態だ、ロゼッタを助ける事が出来た幸運を差し引いてもやっぱり気は滅入る。
「それにしてもロゼッタは心配ね。アーデンとギルド長の推測通りなら本当に危険じゃない」
「だから俺達で助けるんだよ」
「助けるってどうするのよ?」
「そ、それはまだ考え中だけどぉ…」
レイアは呆れ顔でため息をついた。
「あんたねえ、早速私達の目的からズレてるじゃない。ブラックさんの手がかり探しは?伝説の地の情報集めは?やる事とやりたい事、まだまだ沢山山積みでしょ?」
「うぐっ…」
「何か策があるってなら私も協力してあげるけど、無策なら嫌よ。ロゼッタの事は心配だけど、私も私の夢の為に冒険に出たの。そこは忘れないで」
確かにレイアの言う通りだ、今のところ無策だし、本当にロゼッタが今後も狙われるか分からない。
でも、それでもだ。
「俺は困っている友達を見捨てたくない。力と知恵を貸してくれないか?レイア」
自分勝手な事は承知の上だ、ただロゼッタの事を見過ごせないし力になりたいという俺の感情の都合だ。それに巻き込むけれど、隣にレイアがいないのは考えられない。
俺はじっとレイアの目を見た。俺がレイアに頼み事をする時の最終手段だ、暫くじっと俺の目を見たレイアは、諦めたような顔でもう一度ため息をつくと言った。
「まあ私もロゼッタの事を見捨てろって言いたい訳じゃないしね。寧ろ助けたい気持ちはあるわ。まだまだ聞きたい事もあるし、そ、その、友達だからね」
「やっ…」
「ただし!他の目的と並行して行う事!いい?」
「勿論!ありがとうレイア!」
説得出来た俺は思わずガッツポーズを取った。俺とレイア、二人で力を合わせればやってやれない事はない。昔から何だってそうだった。
「あんたのガキくさいはしゃぎ方、昔から変わらないままね」
「ああ、お前の内弁慶ぶりもな」
軽口を言い合ってフッと鼻で笑い合う。次の瞬間にはお互い取っ組み合って喧嘩になる。この流れも昔のまま今も変わらなかった。
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