第9話 ロゼッタの話 その1
ロゼッタを助けた後、キャンプ中。俺は倒したフューリーベアの元へと向かった。爆発の衝撃で体の殆が残っていなかったが、後ろ足の一部だけは何とか切り取る事が出来た。
それを持ち帰るとレイアがテントから出てきていた。そしてロゼッタと歓談している。
「ゴーゴ号はもういいのか?」
「私を誰だと思ってるの」
レイアはフフンと得意げに鼻を鳴らす。心配はしていなかったが、明日どころかもうすでにゴーゴ号も無事直ったようで何よりだ。
「それよりアーデンは何しに行ってたのよ。ロゼッタ一人置いて危ないでしょ」
「結界あるだろ」
「そ・れ・で・もっ!!」
俺に詰め寄るレイアをロゼッタが申し訳無さそうになだめた。それで納得したようで、レイアが引き下がってくれた。俺はロゼッタに礼を言うと二人の前に腰を下ろした。
「フューリーベアの体が残ってないか確認してきたんだよ。ギルドに報告する為にも痕跡は必要だろ?」
「ああ、成る程。で、あった?」
「これだけな」
取ってきた後ろ足を見せると、レイアはそれを興味深そうに眺めた。恐らく俺と同じ感想を抱いていると思う。
「でかいわね」
「うん。ちょっと見たことないでかさの個体だ」
明らかに見たことのあるフューリーベアより体が大きかった。言うなればアカトキの森の主と言った所だろうか。迫力もそんな感じだった。
「お二人はやっぱり魔物には詳しいんですか?」
ちょっとだけ遠目から見ていたロゼッタが聞いてきた。足だけは流石にちょっと気持ち悪いかと思い、俺はそれに布を被せて後ろへと退けた。
「まあ冒険者だから一通りはね」
「まだまだ知らない魔物の方が多いけど、フューリーベアは比較的よく見る魔物だから」
俺達の故郷ファジメロ王国周辺の森等でも時折出現情報があった。そういう時はよく森に近づくなと大人から注意された。
だけど俺とレイアはそんな忠告を無視して、冒険者がフューリーベアと戦う様子をよく見に行っていた。そして両方の親から鬼のように怒られるまでがセットだった。
その話をロゼッタにすると、彼女はくすくすと楽しそうに笑った。
「あっ、し、失礼しました」
「え?いいよそんな謝らなくても」
「そうそう。大体私は上手く誤魔化すのに、いつもアーデンがヘマするんだから」
「いやいや、めっちゃ冷や汗かいてたのはいつもレイアだったからな。俺がそれをフォローしようとしてボロが出るんだって」
にらみ合う俺達を見てロゼッタがまたくすくすと笑った。その可愛らしい笑顔を見ると俺達二人もすっかりいがみ合う気がなくなる。
「じゃあ今度はロゼッタの番!」
「え、わ、私ですか?」
「そうそう。発明家として私もロゼッタの職業気になるな」
アーティファクトと出てくればレイアは見境なく飛び込む、この時ばかりはどんな人相手でも人見知りなどお構いなしだ。
「それにアカトキの森での出来事も気になるしな。一体何があってフューリーベアに追われる事になったんだ?」
「ええとじゃあ、その辺りも含めてお話しますね」
ロゼッタは考古学者として遺跡の調査を主に行っていた。古代文明の手がかりを残す遺跡、その殆どは地下へと沈んでいた。どうして遺跡が地下へと沈んだのか、その理由は今だ分かっていない。
遺跡とは名ばかりで、地上の建築物よりも先進的な技術が使われているものもあれば、地下とは思う事の出来ない景色が広がっているものもある。決して古ぼけた過去の遺物という訳ではなく、地下遺跡には歴史的価値以上のものが埋まっていた。
そしてアーティファクトが発見発掘されるのも主に遺跡の中からであった。武装型、非武装型、どちらも遺跡で見つかる事が多い、見つかったアーティファクトの種類や用途、そして遺跡の様式等からその年代を考古学者は調べる。
「アーティファクトがどうやって生み出されたのか、誰がどのように生み出したのか、それらはまだまったく解明されていません。アーティファクトの研究は進められていますが、それを生み出した文明の研究はまだまだ未発展なんです」
「私のパパとママはアーティファクトの研究者だけど、確かに誰がどうやって生み出したとかに興味はなさそうね。機能とか仕組みについてばっかり」
「ファジメロの研究はとても先進的ですよ。間違いなく他国より抜きん出ていると思います」
自分の事のように得意げにしているレイアを置いて話は続けられた。
遺跡には歴史的価値の高さの他に、様々な人々と思惑から狙われやすいという特徴があった。それは何故か、ひとえにアーティファクトの存在であった。
アーティファクトの性能格差は激しい。それ一個あるだけで軍大隊の武力に匹敵する物もあれば、まったく何の役にも立たない物もある。使い道が分からなかったり、そもそも機能を十全に発揮出来ないという例もあった。
あるものは武装型のアーティファクトを追い求める、ホルダーになるだけで戦闘力は格段に上がるからだった。しかし遺跡はその価値から国によって立ち入り規制がなされているものも多い、そういった規則を無視して遺跡に潜るものを遺跡荒らしと呼ぶ。
その遺跡荒らしの厄介な点は見境のなさであった。力を追い求め力に取り憑かれる、手当たり次第に物品に手を出し、遺跡に入ってくる他の者を攻撃する。故に遺跡荒らしは魔物と同価値とみなされ、戦闘による排除が許可されている。
「私達考古学者は調査だけでも結構命懸けです。護衛をお願いした冒険者よりも真っ先に狙われる可能性がありますから」
「え、どうして?」
「いいかレイア。考古学者は遺跡に詳しい、そして当然遺跡に付随するアーティファクトにも自然と詳しくなる。考古学者がすでにホルダーの可能性もあるし、捕まえて喉元に刃を突き立てて、アーティファクトの場所を教えろと吐かせる事も出来る」
「何よそれ。卑怯者ね」
「しかし確かな手でもあります。戦闘能力のある冒険者よりは、学者を狙った方が効率的です。遺跡荒らしは基本的には逃げに徹する人たちですから」
遺跡荒らしは単独や少人数が多い、頭数を多くした所で手に入るアーティファクトは限られているからだ。それが手に入った時の分配の方法は大概が殺し合いである。
分け前を増やす為にも人数を限っていた方がいい、遺跡荒らしの攻撃はほぼすべて奇襲で成り立っている、油断した所に大きな一撃を加えて目的のものを奪取して離脱する。時間をかければ魔物と同じく排除されるだけだ。
「私達もただやられる訳にはいきませんから、自衛の手段は持ち合わせています。と言っても大体付け焼き刃ですけど」
「無いよりマシって事ね」
「そうですね、残念ながら」
冒険者の依頼には調査の護衛というものが多い、そしてその人気は高い。遺跡内で見つけたアーティファクトを自分のものに出来る可能性があるからだ。例えそれが武装型ではなくとも、然るべき手段を取って売れば高値で売れる。
学者と冒険者は護衛という繋がりから近しい仲にあった。それらを仲介し、適切な運用を取り仕切っているのが冒険者ギルドである。
「そっか、調査って思ったより大変なのね」
レイアがそう言うとロゼッタは少々眉をひそめて笑った。
「本当はそんなしがらみなく調査したいのですが、アーティファクトに魅せられる人の気持ちは分かるので複雑な所ですね」
「ロゼッタはそれを調査する側の人だもんな」
「ええ。どんな物であれアーティファクトは神秘に満ちています。手にしてみたいと思う事も無理ないかと」
俺は自分のファンタジアロッドを手に取った。父さんから貰った大切な宝物、だけど他の人達はこれを命懸けで手に入れようとしている。その血生臭さがちょっと寂しかった。
「アーデンさんはホルダーだったんですね」
「ああ、これはファンタジアロッド。父さんが冒険のお土産にってくれたんだ」
「そ、それはまた。すごい人ですね、アーティファクトがお土産って…」
そういえば父さんはいくつもアーティファクトを見つけていたけれど、自分で使う事は一切なかった。護身用の鞭とナイフを武器に、どんな場所にだって行っていた。アーティファクトを見つける事に興味はあっても、そのものには全く興味をもたない人だった。
「まあそれはそれとして、結局ロゼッタは何で森で追われてたの?護衛の人は?」
「…実はその事なのですが」
話す前にロゼッタは沈痛な面持ちで肩を落とした。あまり気分のいい話ではなさそうだと俺は思った。
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