第7話 アカトキの森 その1
俺達はゴーゴ号に乗ってアカトキの森を訪れていた。ギルドで貰った地図とゴーゴ号があれば、馬車よりもずっと早くたどり着く事が出来る。
「やっぱりいいなあゴーゴ号。お前は最高だ」
「…ねえアーデン、やっぱり名前はゴーゴ号で決まりなの?」
「何だよ、レイアも賛同しただろう?」
微妙に納得の言っていない顔をするレイアをよそに、俺はアカトキの森を見た。広大な森林地帯で、木材の切り出しと運搬の為か出入り口付近は整備されている。魔物も定期的に冒険者による討伐が行われていて、弱くて対処のしやすい魔物は森の手前に集中していた。
「なあレイア、何で強い魔物は奥に引っ込んで弱い魔物が前に出てくるんだ?逆に倒されやすくなるんじゃないの?」
「逆よ。強い魔物はすぐにギルドによって討伐隊が組まれて殲滅されるけれど、弱い魔物は対処法さえしっかりとしておけば無視していい危険性なのよ。お目溢しが奴らの生存戦略って訳」
レイアの説明を聞いて成る程と俺は頷いた。弱い魔物は奥に行って強い魔物と食い合うより、手前で活動していた方がまだ安全という訳か、中々どうしてよく出来ている。
「その辺の調整はギルドが計画立ててやっているのよ。魔物はいくら退治しても再出現するから」
魔物は消滅しない、というよりも決まった数から減らないらしい。住み着いた魔物を一匹残らず倒し切っても、暫く時間が経てばまた出現してしまう、それも万全の状態でだ。
その謎に満ちた生態の研究は日夜進められているらしいが、長年の研究でもちっとも解明は進まないという。まあしかし、冒険者にとっては無縁の事だ。俺達は魔物の生態と対処方法を知って、退治する為の手段を持ち合わせていればいい。
「まっ、授業はこの辺にしてお仕事しますか!」
「そうね。採集する薬草はこの辺に生息しているソバットバニーが好んで食するそうよ。脚力が発達していてすばしっこい、その脚力を活かした後ろ蹴りが主な攻撃手段よ」
「了解。油断はしないようにな」
俺とレイアはコンッと軽く拳を打ち合わせるとアカトキの森へと入っていった。
ギルドで紹介された通り、薬草採取の仕事は実に簡単なものだった。薬草はすぐに発見出来るし、言われた通り見分けもつきやすい。俺でも採り間違える心配はなさそうだった。
あまり離れないようにしてレイアと手分けをして作業する。いつ魔物に襲われたとしても大丈夫なように意識している、安全第一だ。
「ん?」
俺が上げた声にレイアが反応した。
「どうかした?」
「どうやらお出ましだ。数は三か四、多分あの草陰だな」
ファンタジアロッドを手に取って起動する、棒状の光刃が伸びたそれを構えた。薬草を入れた籠は、邪魔にならないように移動させた。
「ソバットバニー?」
「多分そう、獣臭と少しだけ気配がした」
「相変わらず化け物じみた感覚ね」
レイアは俺の少し後ろに立って、自分の武器を手に取った。二丁の拳銃、大きさが異なる二丁の銃だ。左手に小型、右手に大型を持って構えた。
アーデンが指摘した草むら目掛けて、レイアは左手の銃で五発の光弾を連射した。攻撃に驚き四匹のソバットバニーが跳びはねてそれを避けた。
それを待っていたと言わんばかりにアーデンがファンタジアロッドを伸ばした。足目掛けて伸ばされたそれを、ソバットバニーは木を蹴って避けた。
「こいつは確かにすばしっこい」
「そうね、でもこれは避けきれるかしら?」
レイアの左手の銃から光弾が途切れなく連射される。隙間のない攻撃にソバットバニー達も運動性能で対抗したが、避けきれず何発か食らってしまった。
群れのソバットバニーは万策尽きたかと諦めかけた。しかしその直後攻撃が止まった。連射には限りがある、その事はソバットバニーにとって吉報でもあったが、自分たちが罠にかかっていたと気がつくタイミングを逸してしまった。
「いらっしゃいませ!」
ソバットバニーの足元にはすでにアーデンが伸ばしたファンタジアロッドがあった。足をくくる縄の形をしたそれは、アーデンが引っ張ると四匹まとめて捕まえた。
レイアは無意味に連射をしていた訳ではない。ソバットバニーを一所に集められるように誘導していた。そしてそれを察したアーデンは、密かにファンタジアロッドを伸ばしていたのだった。
捕らえたソバットバニーを空中へと持ち上げた。どこにも逃げ場がない魔物達目掛けて、レイアの右手の銃が向けられていた。
「これでおしまい!」
放たれた光弾は左手の銃から撃ち出されるものよりも、遥かに威力が高く強大だった。ファンタジアロッドに捕らわれたまま、ソバットバニーはその運動力を活かす事なくまとめて退治された。
伸びたファンタジアロッドを戻して光刃を仕舞う。レイアは使用した銃をカチャカチャと弄っていた。
「うーん、まだ排熱効率が悪いかな。もう少し連射出来る計算だったんだけど思ったより早くオーバーヒートしちゃうかも」
「レイア!」
ぶつぶつと独り言を言っているレイアに強く声をかける。顔を上げたレイアに、俺は手を上げて待った。
「ああそっか、やったわねアーデン」
パチンと小気味よいハイタッチの音、魔物討伐が上手くいった事を称えるものだった。
「で、どうしたって?そっちはえっと…」
「こっちはブルーホーク、大きい方がレッドイーグル。何度も見てるのにまだ名前覚えないの?」
「ごめんごめん。でもどっちがどんな特徴があるかくらいは覚えてるから」
レイアの使う二丁の銃、どちらも弾丸を装填する必要はなく、レイアのマナを使って自動で生成される。撃ち出す弾丸の種類や性質はレイアが自在に変える事が出来る。
ブルーホークは取り回しがよく、弾を連射する事が出来てマナの消費効率もいい。威力はそれほどでもないが、様々な状況に対応出来る。
レッドイーグルはブルーホークより大型だ。単発で発射しか出来ないし弾丸の対応力も低い、そしてマナも多く消費するがその分威力は高い。熟練の魔法使いが使う攻撃魔法を、詠唱や触媒なしに連発出来るという破格の性能だ。
そして驚くべくことに、この二丁ともレイアの自作だった。武装型アーティファクトと謙遜ない性能な上、レイアの発想力と技術力の向上でまだまだ改良の余地があるというとんでもない代物だった。
「ブルーホーク、想定ではもっと連射可能なんだけどちょっと物足りないのよね。使う素材を変えてみる必要があるかも。あとレッドイーグルは反動がまだまだ課題ね、今回は動かない的だったから当てられたけど、動く的には当たらないでしょうね」
「俺からすれば十分凄いんだけどなあ」
「まだまだよ。私はアーティファクトを越える物を自分で作るんだから。改良を重ねてもっともっといいものを作らなきゃ」
昔から変わらない発明家の眼差し、曇りなきその目は常に精進を求め続けている。俺はレイアのそんな所をすごく尊敬していた。
「改良のアイデアはまた後にして、今は目の前の仕事を片付けようぜ。ソバットバニーも、その辺の魔物も、今の戦闘を見てたら襲ってこないだろ」
「そうね。あっそうだ、そんな事より見なさいよアーデン!私はもう二籠も一杯にしたのよ。あんたはまだ一籠、また私の有能さが証明されてしまったわね!」
「何を!?まだまだこれからだ!見とけよ!俺が更地にしてやるからな!」
「出来ない大言より手を動かしたら?」
ぐぬぬと俺が悔しがっていると、突如森の奥の方からドカンと大きな音がした。ビリビリと揺れる地面と空気、俺とレイアはすぐさまもう一度武器を手に取った。
「何の音かな?」
「分かんない。俺が先行して見に行ってみる、レイアは薬草をバッグに入れておいてくれ」
俺はファンタジアロッドを伸ばして手近な木の枝を掴むと、勢いをつけて体をスイングさせた。その勢いのまま次の枝次の枝を掴んで移動をしていく。音のした先になにが待っているのか、分からないけれど今は兎に角先を急いだ。
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